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4.三題噺「温泉卵、花より団子、喉」

 青々と葉が生い茂る桜の木の下で、何故か僕らはお花見をしていた。

「先輩。もう5月なのに花見っておかしくないですか?」

 僕はジュースを飲んでから、今更の疑問を口にした。

「風薫る季節にお花見というのも通だと思わないかい?」

 いや、全然思わない。桜、散っちゃってるし。

「毎回突拍子もない行動に巻き込まれる僕の身にもなってくださいよ」

「はひをひってふんふぁい?」

「それはこっちのセリフです。あとちゃんと飲み込んでから話してください」

 先輩はゆっくり堪能した後、喉を鳴らして飲み込んだ。

「何を言ってるんだい?」

「繰り返さなくても伝わってましたよ」

「さすが後輩くん。できる男の子だ」

「はいはい」

 受け流す僕の横で、先輩はまた別の食べ物を口にして至福に浸る。

 ……本当に幸せそうに食べるなあ。

 どこでも売ってるスナック菓子で舌鼓を打てるなんて流石だ。

「先輩、食べるの大好きですよね。太ったりしないんですか?」

「ぎくっ……!」

「先輩?」

 顔を覗き込むと先輩は顔を逸らし、器用にコンビニで買ってきた温泉卵に手を伸ばした。

「こ、これ、トロトロで黄身も濃厚でおいしいなぁ〜……?」

 この人はまったく……。食べ物のことしか頭にないんだな。

 花より団子という諺は先輩を見て作られたのかもしれない。

 僕はそんなことを考えながら、思った。

「先輩、僕も温泉卵食べたいです。ひと口くれませんか?」

「へぇええ⁉︎」

「そんな素っ頓狂な声を出さなくても。冗談ですよ」

 慌てふためく先輩を見て、僕はケタケタと笑った。

 5月のお花見もいいかもしれない。

 先輩がいればどこにいても何をしても楽しいから。



作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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