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11.三題噺「国家権力、奇妙、研磨剤」

 僕は職員室近くの洗面所に来ていた。

「先生、僕に仕事押し付けないでくださいよ」

 目の前には、英字新聞を開きながら歯磨きしている女教師が。

 この人は生徒会の顧問という立場を不正利用して僕に教師の仕事を押し付けてくる。

「アルマジロで銃弾跳ね返る。怪我人は無し、か……。まったく奇妙なニュースだ」

「先生、話を逸らさないでください」

「君もそう思わないか? 何か重大な事件をもみ消した国家権力を感じる紙面だ」

「なわけないでしょう。陰謀論は今日日流行ってないですよ」

「歯磨き粉の研磨剤も虫歯を増やして儲けようとしている医師達の陰謀を感じてしまうほどだよ」

 先生は、世界は陰謀で満ちているなど妄言を口にしながら、器用に新聞で口元を隠して歯磨き粉をぺっと吐き出して口を濯いだ。

「僕、もうすぐ中間試験だから早く帰って勉強したいんですけど」

「そんなことを言っていいのかい? 君に協力してあげてるのに」

「なんのことですか?」

「記憶力のいい君が忘れてしまったのかな? 君の先輩を教室や生徒会室に誘導したり花見の場所を教えてあげたりしたのは私だろう?」

「ぐっ……」

 確かな事実なのでぐうの音も出ない。

「大人の世界では依頼には対価が必要だ。だから君に仕事を任せるのは私の正当な権利なんだよ」

 この人は教師の職権を濫用している。
 僕はがっくりと項垂れた。

「まあ、生徒が勉強に励もうと言っているんだ。それは流石に邪魔できないからね、今回ばかりは君の意志を汲んであげよう」

「……助かります」

 先生は僕の肩に手を置いてポンポンと二回叩いた。

「私にはアタックできるのに、あの子には消極的なようだね」

「だって……。先輩、恋愛に興味なさそうだし」

「……これだから鈍感野郎は」
 先生は何かを言って舌打ちした。

「その調子であの子にアタックすればいいと、私は言っているんだよ」

「余計なこと言わないでくださいね? 先輩が僕のことどう思ってるか知らないので」

「私が見たところあの子も満更でもなさそうだったけれどね」

「先生はいらないお節介までしそうだから釘を刺しておく必要があるんです」

 先生は、やれやれと肩をすくめた。



作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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