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『ドント・ウォーリー・ダーリン』を頑張って解説してみる

たまたまインスタの広告で目に入り、名作の匂いがすると心待ちにしていた。

本作は、日本では11月11日公開だったが、実は東京国際映画祭で先立って上映されていたようだ。しかし、気づいた時には遅すぎたようで、チケットは完売していた。

今回はそんな2022年必見の名作、Don't Worry Darling の解説を試みる。

以下ネタバレあり、注意。

基本情報

監督 : Olivia Wilde
脚本 :  Katie Silberman
主演 :  Florence Pugh, Harry Styles ほか

まずは、監督から。Olivia Wilde は、なんとなく聞いたことがある人もいるかもしれないが、もともと女優からキャリアをはじめ、2019年頃から監督として活動を始めた。最初の作品は、Netflix の『Booksmart』で、実はこの時の脚本も、Katie Silberman が関わっている。

脚本のKatie Silberman は、あまり情報が多くないが、wikipediaによると、2018年から累計4本の映画の脚本に関わっている。監督である Olivia とタッグを組んだ作品は、現在進行中の企画も合わせると、4本ほどになるようでだ。2人はクリエイティブの方向性が近いのだろうか。次に二人が作る作品が楽しみである。

次に、俳優陣。この作品は、ワン・ダイレクションのハリーが出演していたり、『ミッドサマー』のフローレンスが出演していたりと、なかなか豪華である。


あらすじ

さて、本記事の目的は解説なので、非常に簡単にあらすじを説明する。

舞台は、砂漠のど真ん中の開発中の町、ビクトリー。スマホがないからか、やたらと鏡の多いこの町では、夫が仕事に出かけ、妻は家事をしたり、ダンスを習いながら暮らしている。
そんな中、行ってはならないはずの「本部」に行ったことがきっかけで、アリスはこの世界のどこかがおかしいことに気づく。詮索を始め、夫のジャックや町のリーダーのフランク、親友のバニーに話をするが、聞き入ってもらえない。
最終的に町を出ていこうとするアリスだが、夫のジャックに裏切られ、なんらかの処置を施される。その後、何事もなかったかのように、もとの生活に戻ろうとするが、ジャックの変わらない癖やその他もろもろで、記憶を取り戻す。
回想シーン。アリスは現実世界で病院に医師として多忙な生活を送っており、ジャックとの生活もうまくいっていない。そんな中、ジャックは、VR空間にアリスを閉じ込めることで、幸せでもっと自由のある生活を送ろうとする。現実世界で昏睡状態、ジャックに騙させたアリスは、激しい喧嘩の末、ジャックを殺害する。
「本部」に向かい触れることで、昏睡状態から目覚められるため、アリスは「本部」へと向かい、現実世界から目覚めるのであった。


解説

スリラー要素を持ちながら、VRのような最新の世界の話が出たり、フランクがすべての黒幕であるかのようなミスリードがあったり、かといって抽象的なダンスの演出があったりと、一見すると、バラバラにも見える映画だが、その背景には一貫した対比が存在している。

おそらく、製作者たちが最も表現したかったことは、「家庭で夫が働けばよかった時代」「誰もが働く必要があり、生活がひっ迫している現在」の対比だろう。

そしてこの2つの時代を、「幸せ」と「自由」、「女性」という3つのテーマで描いている。

日本でいえば、「バブル時代の女性が働かなくてもよい時代」と、「現在の労働状況」も近しい対比として考えられるだろう。

幸せ と 自由

空想世界の中では、妻は日中家事をし、夫は「仕事」をしに出掛ける。夫が帰ると、パーティーをしたり、情事に明け暮れたりとといった生活をしている。

クライマックスのアリスとジャックの会話に、自由と幸せの2人の意見が表れている。
ジャックは、この世界の方が「幸せ」だという。それは、アリスが生活に追われて働き続ける必要がないからだ。その例として、アリスが現実世界の自分の人生に後悔していると言ったことを挙げた。アリスは、それでも「自分が選んだ人生」だと反論する。ジャックは、アリスが「お互いが一緒にいれさえすれば良い」と口にしていたと言う。

実際、たしかに空想世界の生活は、余裕があり、絵に描いたような幸せがある。しかし、一日中家事をしたり、「本部」への行動を制限されている女性からすると、一定の自由が存在していない。そもそも、この世界にいる女性は、空想世界だということを知らず、夫によって騙されて現実と思わされている人も多い。
知らされない事実と行動制限が存在すること、そしてそれらが全てを知る夫によって操作されているというのは、家父長制へのメタファーだろう。妻側が真実を知っていて夫が騙されているケースが存在していないのも、男性による家庭のコントロールを間接的に表現している。

そして、非常によくできていると思うのは、空想世界の支配構造だ。妻たちは、一定の自由が与えられているが故に、自分たちが本当は閉じ込められているということに気づかない。1984や他のすべての自由を奪う管理社会では、抑制される分、人々の反発も大きいが、このような社会では自由がある分疑問を抱きにくい。


さて、果たして、ここで表現される世界はどちらが幸せなのだろうか。これは、人によるだろう。女性なら、「結婚したら家事だけでいいから楽、昔の時代の方がよかった」と考える人もいるだろうし、一方で「男の言いなりにならず、キャリアを積んでいきたい」と考える人もいるだろう。しかし、昔の考え方を強制するのでは、自由を奪われる女性が存在してしまう。そんな中で、「選択ができること」に対して果敢に戦いをしていく女性の姿を描く本作には、多くの人が共感できるだろう。

本作が名作なのは、家父長制やコントロールフリーク (他人を操作したい人) の男性をビクトリーという町のメタファーを用いて表現し、昔と現在の家庭の良さと悪さを表現した上で、本当の自由と選択ができることを目指した戦いを描いているからだ。


空想世界のモチーフ

さて、おまけでよく出てきたモチーフについても、演出の視点から少し考察していきたい。


室内には、やたら鏡が多いことに気づいただろうか。製作者がどのような意図をもっていたのか、定かではないが、個人的には、鏡は自分の自由意志の反映を表しているように感じた。映画の最後にアリスは、空想世界から脱することを目指す。この映画では、2つの時代と幸せの形が描かれているが、アリスは「自分で選んだ人生 (my life) 」を選ぶ。鏡は自分を見るために使うものだが、アリスが最終的に選んだものは、自分だ。
また、鏡は異世界への入り口ともいうので、この世界は現実世界ではない、ということを暗に示していたのかもしれない。

瞳孔
アリスが現実世界と出入りする際に出てくる、瞳孔が開いたり、閉じたりするもの。これは、催眠状態だと瞳孔が開く みたいなことを聞いたことがあるので、そういった状態を表しているのだと思う。

上からアングルのカメラ
「対称」という言葉が出てきていたが、コーヒーや料理、上アングルのカメラが多いことに気づいただろうか。このようなショットは、続けることで違和感が出たり、ちょっとした気持ち悪さになる。キューブリック作品やホラー映画ではよく見る手法だが、これも現実世界ではない違和感を表しているのだろう。実際、現実世界のシーンではこのようなショットはなかったように思う。

おわりに

さて、2022年の名作映画、『ドント・ウォーリー・ダーリン』を解説してみた。Olivia Wilde と Katie Silberman タッグの次の作品が楽しみだ。


画像 : IMDBより

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