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されどにわか


30歳にもなれば
人からどう思われようが
さほど気にならなくなってきた。

ノーメイクに巨人のTシャツで仕事に行ける。

デートだろうとライブだろうと
なんだろうと構わない。

脱毛も不完全燃焼ではあるが
もうそれも個性だと思うことにした。



結婚がどうだ、理想がどうだのと
カフェでうだうだふわついた話をする時間が残されているのなら

喫煙所に入って明日の支払いをどうするか
そんな現実と真剣に向き合わなければならない。

落ち込む暇を使って
元栓を開けて給湯を回して使うタイプの風呂の沸かし方を学んだ。

築50年以上でもこの先インフラは頑張れそうだ。


強くなったものだ。

どこかシラけていて
逆に尖ってきたようにも思う。


きっと
誰かの理想にとって
0点未満の女性であることには違いないが、
それもまた面白い人生であると

そんな自信さえ
根拠なく身体中から溢れているような気がする。

つい最近、母からの電話で
20代と30代では出産のキツさが全然違うと言われたが、
もう私は
そんな比較すら出来なくなってしまったということになる。


前よりももっと痛かった

今世では言えなくなってしまった。





少しの虚しさは
歯を磨いて忘れることにする。


そんなことよりも

今は一分一秒でも早く愛猫を抱きしめたい。

きっと目に入れても痛くない。

20代も30代も相変わらず
猫アレルギーと向き合うつもりでいる。












目の前には
届かないものしかないようで

されど

届いているものしか欲しくもないようで。


不思議な現象だ。








欲を頬張れるのなら

死ぬまで笑えたら尚いいなぁ。














あと一つ、
捨てたい煩悩といえば

腹の立つ人間に

黙れ

と言えない小心さだろう。











この前、
元部長とその部下と
東京で落ち合うことになった。

シーズン最後のドーム戦を一緒に観戦してくれた。



先日、友人と巨人阪神戦を見たばかりではあったが
何度行っても飽きない。

ドームのあの開放感たるや。

毎度ながらシーズン1回目の気持ちになる。






きっとどんな化粧水よりも

潤いをくれる


そんな気しかしない。




すごくすごくすごく
楽しみにしていた試合だった。


それにプラスして、
阪神ファンの部長が
東京に来て間もない私に
巨人ヤクルト戦をプレゼントしてくれたのだ。

なんとも優しい部長だ。














寛大な部長。





































そう。

穏やかな心の部長。









そう思っていた。











席に座るまでは。
















試合が始まるや否や
部長のヤジが止まらなくなった

恐れ慄くほどのヤジラーだった


恐らく巨人が嫌いなのだろう。


恐らくいつもテレビの前でこんな感じなのだろう。


そういえばプロレスが大好きだと言っていた。

恐らくもう誰の言葉も耳に入らないのだろう。

















"落とせーーーー!!!!!!"

















守りは巨人。
ライトにフライが飛ぶ中、

部長のメガホンマイク級の声が
二階席に響き渡っていく。















強めのジャイアンツオジサンがこちらに振り返り、
ぐっと睨みつけた。

きっと怒りはもう喉のそこまで来ている。















待つんだ。おじさん。

頼む。

怒らないでくれ。



私も同じ気持ちだ。





私はせめてもの気持ちで
少しだけ睨むように、
じろっと部長の顔を覗いた。


が、

部長は世界に入りすぎて
全く気づいていないようだった。














黙れの3文字が

腹の奥でかき消されていく











まだまだまだまだ私は
正義感のある人間にはなれないみたいだ。



言いたいことが言えない



あぁなんて、ぽいずん。










5回表頃から

冷や汗だけが止まらなかった。


















"落とせーーーー!!!

ポテンヒットーーーー!!!!!"




















そのまさか、


ライトのエラーでヒットになった。
















あの時、私が巨人のユニフォームを身に纏っていなければ
部長共々命はなかったと思う。




















野球好きのお父ちゃんから
チャンネルを奪われた子供のように

あの時ばかりは
部長がとても腹立たしく思えた。



















同時に、
ポテンヒットとは
川原さんが原作じゃなかった事を知った
























楽しみにしていた試合

これ程、早く終われと願ったことは
後にも先にもあの日だけだと思う






一生一緒に行かないと誓う。




















今シーズン
とんだ終わり方だった。



やっぱりいつの時も
にわかファンでいたい

そう心から思うばかり。

oki

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