『ズッ友あーちゃん2 隣の芝は・・・』
トランスジェンダー女性俳優モノローグ（一人芝居台本）
『ズッ友あーちゃん2 隣の芝は・・・』本文
作：奥村ひろ
うわ～、あーちゃんの美味しそう。
やっぱり私もハンバーグにしとけばよかったなぁ。
あーちゃん、一口ちょうだい。
おー、ありがとう。
私もエビフライあげる。
はい、身のぶっといところ。
この間さ、経理の山本さんに、一口ちょうだいって言ったら断られてさ。
「私、そういうのちょっと苦手なんで」つって、眼鏡キラーンてさせて。
もう、気まずくて気まずくて。
それ以来ランチ行ってない（笑）
私ね、相手が頼んだ料理の方が美味しそうに見えるの。
完全に青芝症候群だよね。
隣の芝だから、とな芝か。
ハンバーグうま。
エビフライは、まあまあうま。
今日は誘ってくれてありがとね。
ランチどれくらいだろ、2週間ぶりくらいだね。
お話？うん、いいよ。
え～、あーちゃん、そんなこと知りたいの？
私の恋愛事情を知りたいなんて、なかなかマニアックですねぇ（笑）
でも遠慮せずに聞いてくれて嬉しい。
私みたいなのはさ、見た目はともかく、女なら誰でも良いって奴のこ～んな広いストライクゾーンからも外れる存在なわけ。
だから私のことを好きになるなんて、どんだけやべぇ奴なんだって先に恐怖心が来ちゃうのね。
最初は好き好き言ってるくせにさ、いざトランスって知ったら速攻で消えるから。
跡形もなくいなくなるんよ。
おーい、バックレんなよーって（笑）
あと最悪なのが、分かった瞬間怒鳴りだしてグーパンとかね。
もうびっくりするし、痛いし、怖いし、なんか怒ってるし…
こっちはさ、おめーが気づいてるか気づいてないかなんて、知らねーんだわって。
あと、伝えるタイミングね。
相手のこといいなぁって思うと、「あ～伝えなきゃ、でも伝えたくないー」って焦りだすの。
告知事項あり「トランス」って、事故物件かよ（笑）
とは言えチェイサーはね、それはそれでちょっとねぇ。
チェイサー、知らない？
ググってみ？チェイサー、そそ、あっ、頭にトラニーって付けようか。
ねー、ちょっとねぇ、でしょう？
だからもういい、向こうから来るのはもういい。
それと、ん～、あーちゃんだからいっか。
未だにさ、そいつと似たタイプの人を見たら拒絶反応が起こるの。
名前出すのあれだけど、総務の三木さんとか、結構似てるのね。
全然関係ないし、あの人は優しいじゃない？
それは知ってるんだけど、近くに来ると勝手に体が固まるんだ。
ほんと申し訳ないけど、どうしようもないの。
ちょっと、そんな悲しい顔しないで。
もうだいぶ立ち直ってるから、大丈夫よ。
ごめんね、せっかくのランチなのに。
結局さ、とな芝の正体は、自分の芝に飽き飽きしてるってことだと思うのね。
それで栄養を与えずに放ったらかしにしてると、その芝は枯れていって、気づいたら隣の芝が青いどころか、自分の芝が真っ茶っ茶状態よ。
大切なのは、自分の芝をちゃんと見てあげることなんだよね。
だから言い聞かせてるの。
よーく見てごらん、私の芝もちゃんと青いんだよーって。
そしてあーちゃん、歯に青のりが付いてるよ。
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