続・オヤジ
雪の降る夜、息子が産声をあげた。
生まれつき身体の弱い息子を、私は親父として強く育てようとした。
母さんは、はじめての孫をとても可愛がった。
息子は大きくなり、ある日、「僕におじいちゃんはいないのか」と私に聞いた。
妻の方の、お義父さんは数年前に亡くなっていた。
一方で私の親父はどこにいるのか分からない。
妻にもあの出来事については話していない。
私はあの日のことを、とても後悔していた。
母さんはその何倍も後悔していた。
あの日、一言でいいから言葉をかけていれば。
今でも毎日のように、あの弱々しい「メガネはどこだ〜」が聞こえてくる。
以前、オヤジがよく読んでいた新聞に、
「親父へ メガネは見つかりましたか?息子は今年、幼稚園に入園します。帰ってきてほしいです。」
と掲載してもらった。
その数日後に、北海道から絵葉書が一枚届いた。
なにも書かれていなかったが、無事はわかった。
オヤジも後悔しているはずだ。
なぜあの時、素直になれなかったのか、我が家の全員が思っていることだ。
明日は息子の運動会だ。
息子はリレーのアンカーを任されていた。
妻と母さんは明日の弁当を作っていた、私は息子とリレーごっこをしていた、その時だった。
家のチャイムが鳴った。
玄関から聞こえる声に私と母さんは、はっと驚いた。
玄関にはオヤジがいた。
私と母さんは、今にも泣き出しそうだったが、オヤジの姿を見て、一瞬で涙は引いてしまった。
オヤジのおでこには、まだメガネがかかっていた。
オヤジは一言、「メガネ、見つからんやった」と言った。
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