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右ひざデニムちゃん と 左ひざデニムくん

まちのはずれのズボン工場

一本のデニムがありました

デニム職人のおじさんは、デニムのひざの部分をちょきちょき切りました

せぱれーとっ!!

おじさんは、一本のズボンから省かれたひざの部分に言いました

「ごめんな、、、ダメージジーンズの文化は進化し続けて、今や完全にセパレートしたジーンズがトレンドなんじゃ。セパレートパンツとでも言うのか、街中でたまに見かけるじゃろ。よく分からない世の中じゃ」

おじさんは涙を流しながらズボン工場の裏路地に、ズボンから省かれたひざの部分を捨てました


ズボンから省かれたひざの部分は、
右ひざデニムちゃんと左ひざデニムくんになりました

右ひざデニムちゃんは、しくしく泣きました

左ひざデニムくんは、なぐさめてあげました

「きっと、よくなるさ」

そのとき、完成したセパレートジーンズが出荷されるためダンボールに詰められているのがみえました

右ひざデニムちゃんは、いっしょに行きたい、と走り出しました

左ひざデニムくんは、いいました

「まってよ、そこにぼくたちの居場所はないよ」

右ひざデニムちゃんは、止まりませんでした

そしてダンボールに飛び込み、いっしょに運ばれていきました


左ひざデニムくんは、歩きました

歩いて、歩いて、歩きつづけました

「ぼくが、ぼくたちが居ていいところが、きっとある」


右ひざデニムちゃんは、運ばれつづけて、黄色い小さなお家に辿りつきました

ダンボールの扉がひらいて、おめ目がくりくりかわいい女の子の顔がのぞきました

女の子は、わぁっと笑って、ズボンを履いてみせました

これが噂のセパレートパンツ

それから女の子はダンボールの中にいる右ひざデニムちゃんに気づきました

「なにこれ、いらなーい」

右ひざデニムちゃんは、お部屋の端っこに投げられました


そのころ、左ひざデニムくんは、広場のようなところで休憩していました

そして、帽子をかぶった男に拾われました

帽子の男は「こいつはちょうどいいや」と言って、左ひざデニムくんに安全ピンをつけました

じゃーん!!

腕章のできあがり!!

左ひざデニムくんは、自分がいていいんだと思いました


右ひざデニムちゃんはというと、女の子のいない部屋で、自分は必要がないんだと泣いていました

すると、玄関のほうで女の子の泣き声が聞こえてきました

「うわーん、運動会の練習で転んじゃったよ〜」

泣きながら帰ってきた女の子に、お母さんは慌ててひざに絆創膏をはりました

「うわーん、絆創膏が目立って恥ずかしい〜」

それでも泣きやまない女の子に、お母さんは頭を悩ませました

そうだ、ぼくの出番だ!

そう思った右ひざデニムちゃんは、自力でリビングに行きました

その姿をみてお母さんは悲鳴をあげましたが、これでひざを隠せばいいわ、と女の子のひざに巻いてあげました

じゃーん!!


女の子は泣きやんで、うれしそうにひざに巻かれた右ひざデニムちゃんを撫でました

右ひざデニムちゃんは、自分がいていいんだと思いました


運動会当日、女の子は体操服にひざデニムの格好で、気分はうきうきでした

次は女の子が出場するリレーです

女の子はアンカーを走るから少し緊張していました

アンカーの印であるデニムの腕章をつけて、女の子はスタートラインにつきました

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