見出し画像

短編小説 『青春ホルダー』

★この作品は『なにから話そうかな』と『過ち』とリンクさせております。
青春小説となっております。
読了目安時間:15〜20分程度。

【あらすじ】
舞台は島根と東京。主人公は祥吾と幼馴染の梨花、バスケ部で仲良くなった洋平の三角関係。


現在



「なんでもっとはやく言わなかったんだろう。」

東京の自由ヶ丘。祥吾は少し酔った足取りで、海外のアパレルショップやオシャレなカフェが並ぶ道を1人歩いていた。雨上がりの8月の夜は蒸し暑く、酒が入っている事もあって汗がとまらない。夏好きな祥吾だったが、今日の一件でこの季節が嫌いになりそうだ。

「飲み直すか。」

先程まで雨が降っていた事もあり、普段はオシャレ好きな人々で賑わっているこの道も、少しどんよりしていて人通りは少ない。祥吾はこの通りの地下にある、行きつけのバーに入った。

「いらっしゃいませ。あ!祥吾じゃん!どしたのそんな顔して。」

ここは大学の同級生の美雪が働いている。彼女とはスキーサークルで4年間一緒だった。勉強もできたので将来はバリバリのキャリアを歩んでいくかと思えば、卒業後はいきなりバーテンダーになると言い出した。当時サークルの皆は驚いたが、3年経った今もちゃんと続けている。

「おぉ、美雪。ここ座っていい?……いやー、聞いてくれよ、俺やっちまったわ。」

「まあまあ、まずはビールでしょ。はい、お待たせ。」

「サンキュー」
ここのビールは凍ったグラスで出てくるからこの季節にはピッタリだな、と思いながら一口で飲み干す。

「いい飲みっぷりだね笑 珍しいじゃん急にきちゃって。なにがあったの?」
そういえばここにくるときは毎回美雪に連絡してきてたっけ。

「聞いてくれよー、俺って島根出身じゃん?んで小学校からの幼なじみがいるんだよね。梨花って子。俺その子の事ずっと好きだったんだけど」

「ちょ、ちょっと待って。初耳。まず、島根出身なのも初めて知ったわ!」
美雪は祥吾の話の冒頭から驚く。


「そうそう。高校2年まで島根にいたんだよね。」
高校2年の夏、祥吾は親の転勤で東京に転校することになった。あの日の決断は今日になって失敗だったと気づく。

「あ、それから優太と一緒なんだね。」
優太とは東京に来て初めて仲良くなれた親友だ。大学も同じスキーサークルに所属して、美雪とも仲がいい。

「それでそれで?その梨花って子が好きで?あ、待って待って、小学校の時からのエピソード教えて」
美雪は面白がって、本題を先延ばしにする。

「エピソードなんていわねえよ!笑 ちゃんと今日の話聞いて」
と、言いながら祥吾はふと小学校時代の梨花を思い出した。


小学時代


今から大体20年前、梨花と出会った。初めて彼女のことを『小野 梨花』と認識したのは小学1年生の入学式だった。
祥吾と梨花は島根県江津市にある小学校に通っていた。1学年40人程度で少人数だったが、グラウンドは広く全員がのびのびと過ごせるような学校だった。

満開の桜の花は晴れやかな人々が歩く道を囲う。
入学式、祥吾は両親と一緒に校門をくぐって広いグラウンドの脇を通り、校舎へと入る。式が行われる講堂の前で両親と別れ、少し緊張気味に教室へ入った祥吾に対して、初めて声をかけたのは梨花だった。
梨花と祥吾は席が前後だった。小野梨花と木下祥吾。

「小野梨花です。よろしくね。私ね、お母さんがいないから今日お父さんと来たの。あなたの名前は?」
梨花は先に席についていて、祥吾が後から座るとすぐに、上体をひねらせてそう言ったのは20年経った今でも覚えている。祥吾はこの人変わっているな、と思ったと同時に梨花のキラキラとした笑顔と瞳に一瞬で見惚れた。幼稚園の時にはなかった、はじめての感情だった。

その日、祥吾と梨花はすぐに打ち解け、梨花は親がリコンというものでお母さんがいないという事、家が祥吾の家から徒歩5分の先である事、リカちゃん人形よりも戦隊シリーズ派である事。祥吾は友達ができるか不安である事、幼稚園の時は女の子からちょっぴりいじめられてた事、外に出るよりも家でゲームしながらゴロ寝するのが好きである事、などを話し合った。


入学式後、担任の先生の話が終わり校門へいくと、祥吾の両親は背の高い優しそうな男と一緒にいた。不思議なことに、祥吾と梨花の親同士も仲良くなっていたのだった。2人はそれから、小学校6年間を一緒に過ごした。

1学年が40人の学校なのでクラス替えもなく、出席番号もずっと前後、体育や音楽など何かとペアになる事が多かった。授業が終わり、クラスメイトと一緒に放課後を過ごし、梨花が帰る家は祥吾の家だった。


「もう梨花俺んちに来ないでよ!翔太の家に行けよ!」
小学4年。いつまでも続きそうな雨と蒸し暑さで気分が乗らない梅雨の時期、初めて梨花とケンカした。と、いうか一方的に祥吾が梨花を避けた。
40人のクラスの中で梨花は圧倒的に他の女子よりもかわいくて運動もできて、男子の注目の的だった。一方祥吾の存在はパッとしない。そんな中、クラス1番の人気者の翔太が梨花のことを好きだという事がわかった。クラス中の噂になっているにもかかわらず、変わらずに接してくる梨花に祥吾は何故か避けてしまった。

「そっか、わかったごめんね。もうやめるね。」
梨花はそう言ってから、祥吾の家を後にした。その次の日から学校での祥吾との会話は極端に少なくなった。


「そこ、ドシじゃなくてシド。」

「あ、ありがとう。」
リコーダーの授業。『ふじの山』の練習中での梨花の指摘。いつもより冷たい。

「梨花、国語の宿題、どこまでだっけ」

「私の見ていいよ」

「あ、ありがとう。」
祥吾は会話を膨らませようとしてもうまくいかない。今までのように、いつものように梨花と話をしたいのに。

こんな状態が1ヶ月続き、ついに夏休みに入ってしまった。学校に行かなければ梨花に会う事もできなくなる。

まだまだ夏の暑さが続いている8月中旬、台風が日本を通り過ぎたお盆休み。両親は祥吾が夏休みなのに全然元気がない事の原因は気づいてたので沖縄に旅行に連れていった。傷心中の祥吾も沖縄の綺麗な海を見るとすぐに元気を取り戻した。


「祥吾、最近梨花ちゃん家に来ないけど、ケンカでもしたのか。」
真っ青な海と真っ白な砂浜とお父さんの直球な質問を前に、祥吾は顔を再び曇らせて首を縦に振ることしかできなかった。

「沖縄のお土産梨花ちゃんに買っていきなさいよ」
お母さんのアドバイスに従い、必死で梨花の好きな物をイメージした。悩んだ挙句、沖縄のキーホルダーを渡す事にした。お揃いの。


「よっ。これ。沖縄行ったから。」
島根に帰るとすぐに梨花の家に行ってお土産を渡した。すると、梨花からは意外な反応が返ってきた。

『お土産もらった事なかったからうれしい。』と。

とても、喜んでくれた。そして自分とお揃いである事を伝えると、更に喜んで
『一生大切にするね。』と。

大袈裟だな、と思った以上に久しぶりに梨花の喜んでいる顔を見て本当に嬉しかったし、お母さんは神様だとも思った。そして、祥吾は梨花に言ったひどい言葉を謝った。

すると、梨花は少し目を潤ませながら

「ううん、ありがとう。こちらこそ今までごめんね。」

と、言った。その後すぐに

「あと、日焼けした顔、ちょっと変だね。」

と続け様に言い、2人して笑った。

こうして2人の仲は戻り、時は過ぎて小学校を卒業し、一緒の中学へ通った。祥吾は『日焼けした顔が変』と言われたからバスケ部に入った事は今でも内緒にしている。

中学時代


「あぁ〜実感ねえな〜、明日が引退試合になるかもしれないって。」

中学3年の7月、今までバカみたいに遊んでいたクラスメイトがちらほらと受験に向けて急に静かになってきた頃。バスケットボール島根県大会の準決勝の前日、練習後に祥吾と洋平はいつものように江津川の土手で寝そべっていた。

祥吾は小学校卒業後、梨花と同じ江津第一中学校
に通った。中学に入るとバスケットボール部に入った。当初は身長も小さく体力もなかったが、入部1年で自分でも驚くほど成長し、2年生からレギュラー入りを果たした。

梨花は陸上部でお互い部活が忙しかったが、運良く、梨花とは変わらず同じクラスだった。変わったのは祥吾と梨花の間に洋平が入った事だ。部活がない、一斉下校や夏休み・冬休みのOFFの日は決まって3人で集合し遊んでいた。

洋平とは中学1年の時から同じクラスになり、祥吾と同じバスケ部、毎日毎日きつい練習を乗り越えて同じ2年の時にレギュラーを獲得。祥吾がポイントガードで洋平はセンター。とても気が合い、試合も会話も進めやすい。そんな洋平は祥吾にとって人生で初めての親友、いや、同士・戦友のようだった。そして、洋平は梨花ともこの2年半ですっかり仲が深まった気がする。


「ちょっと海見てから帰らね?」
土手で寝そべってた洋平が急に起き上がって言った。

「いいねいいね、石見海浜公園?」
祥吾も乗り気だ。

「うん、梨花も呼ぼうぜ。ケータイで電話してみてよ」

「うい」
祥吾が最近親に買ってもらったケータイで梨花に電話する。

「え?もう家だよ。こんな時間になにしてるの!明日試合でしょ?」
最近の梨花は祥吾と洋平に対してタッチの浅倉南みたいな感じで厳しい。

「いやさ、洋平が呼べっていうから。」

「祥吾はちゃんと寝ないと試合中に足つっちゃうんだからダメだよもう帰らないと!」
1年前の県大会1回戦、初スタメンに緊張し前日眠れずに挑んだ結果、開始5分で足をつって交代した事を梨花はまだ話に出す。


「なんのことだかわかりません。それに明日はなぜか勝つ気がするんだ。いいじゃんちょっとだけ、迎えに行くから!」と、なかば強引に電話を切り洋平と一緒に自転車で梨花の家まで向かう。


梨花の家から石見海浜公園までは自転車で15分くらいだ。その間、梨花を祥吾の後ろに乗せて行った。

「なんか、俺ら今めちゃめちゃ青春してない?」
横で並走している洋平は両手を離しながら祥吾達に話しかける。

「危ないからちゃんと握って!」

後ろから梨花の叱る声がする。と言いながら梨花もワクワクしている気がする。もう8年半の付き合いだ、それくらいわかる。
夜の8時半、3人は砂浜につくと同時に靴を脱いで海へ駆け込んだ。


3人は散々はしゃぎ回ったのちに砂浜で寝転んだ。洋平と祥吾の写真をケータイで撮ろうとする梨花に対して、洋平が言う。

「あ、梨花ケータイにキーホルダーつけた?」

「あぁ、そうそう。沖縄のキーホルダーなんだよね。」

「いいじゃん綺麗だね。」

「ありがと」
少し恥ずかしそうに梨花がそう言った隣で、祥吾は顔を赤らめている。今が夜でよかった。


その翌日、準決勝は劇的な展開で幕を引いた。
終盤まで15点差で勝っていた江津第一中だったが、試合終了5分前・4分前と立て続けに祥吾と洋平が足をつって交代し、逆転負けを喫したのだった。

俺と洋平はコーチに親にそして梨花にこっぴどく叱られたっけ。


高校時代


「おいおい、5年連続同じクラスかよ〜」

高校2年の春、クラス替え発表当日。学校の廊下はいつもよりザワザワしている。洋平はニヤニヤしながら祥吾と梨花の元に歩み寄る。彼らは江津第一中学校を卒業したのち、島根県立高校に進学した。
県内ではバスケの名門校として知られており、祥吾と洋平は今年の春の県大会からレギュラー大本命だ。2人とも中学の時と体格がすっかり変わり、逞しくなってきた。

「嬉しいくせに〜!でも今年からは宿題みせてあげないからねっ」
梨花も中学から陸上を続けており、短距離の県代表になっていた。

「いやそれは勘弁、な、祥吾」

「あ、あぁ。なんだかんだでみせてくれるのが梨花っしょ?」
祥吾はこの日、複雑な気持ちでいた。父親が東京への転勤が決まった事を知らされたからだ。父の職場は発令されてから1週間ほどで転居しなければいけない。学校がある祥吾のために、夏までは単身赴任をするという。

『祥吾の将来の事を考えると、今のうちに東京で生活しておいた方がいい。』という意見は父母共に合致していた。
正直、島根に残って梨花と洋平とずっと一緒にバカやってたかった。しかし、両親の言う事も充分理解できる…そんな複雑な心境だった。

この日、部活が終わった帰り道で親の転勤の件を洋平に伝えた。

「…そうか……で、いつ行っちまうの?」
いつもはハイテンションな洋平が言葉に詰まる。

「夏頃。詳しい日にちはまだ決まってない。」

「まじかよ。インターハイも出れないのか。」

「そうだな、県の予選大会でれるか出れないかぐらい。」

「祥吾がいない高校生活、全然イメージできないわ」

「おれも。あと、この話梨花に内緒にしといてくれない?俺から言うわ」

「了解。」
それから家に着くまでの10分間、祥吾と洋平は無言の時間を過ごした。


それからあっという間に時が過ぎ、高校2年の6月を迎えようとしていた。2人は夏の県大会予選を前に最後の追い込みをしていた。最近はバスケ漬けで2人が落ち着いて話せる時間は帰り道だけだった。
ちなみに祥吾はまだ梨花に東京に行く事を伝えていない。と、いうか当日まで伝えないつもりだった。東京に行くまで残りわずか、ギリギリまでいつも通りの梨花と接したかったからだ。

帰り道、練習に疲れた2人は久しぶりに江津川の土手に寝転んでいた。

「そういやさ、おれ、気づいてるよ。」
唐突に祥吾が洋平に言った。

「なにに?」

「お前、梨花の事好きっしょ?」

洋平は会話も面白いし背が高くて運動もできる。もちろん女子からモテてるが、色恋沙汰を聞いた事がない一方で、梨花に対しての見る目が中学から高校に上がるにつれて変わった気がする。

「えーー、気づいてたのかよーー!!内緒な、内緒!」
洋平は少し恥ずかしそうな顔をしてからまたおちゃらけて祥吾に言った。

「いや、バレバレだから笑多分梨花も気づいてるよ?」

そう、多分洋平は高1の冬あたりから好きなんだろうな、と思っていたけど確信がなかった。だから今日思い切ってカマをかけた。やっぱりそうだったんだ。

「いや、それはない。絶対に大丈夫。自信ある。ていうかそんなこと言ったらお前もそうじゃんか!」
洋平は変な自信を持っているが確かに梨花はそこら辺が疎い。

「いや、俺は違うよ、東京行くし。」

「今東京関係ねーじゃん!仮にずっと島根だったら?どうしてた?」

「それは……仮なんてないからな」

「いやいや、もしだよもし、もしずっと島根だったら絶対付き合ってたろ?」

「いや、あいつと付き合うわけねえだろ」

「あー嘘だね、嘘ついてる顔してるね祥吾君」

「いや、話ずれてる。洋平、どうすんの?」

「どうするったってー、どうにも。今は部活しか考えられねえからなぁ。」

「まあたしかにな。俺、梨花には幸せになってほしい。」

「ほーら、もう好きって言うちゃってますよ祥吾君。」

馬鹿にした顔で洋平が言う。

「だから違うって!」

「はいはい。そいや梨花に東京行くこと伝えたの?」

「いや、まだ。というか、当日まで言わない。」

「そ。でもなんかお前の気持ちわかるかも。」


祥吾は梨花の事が好きだ。

梨花も祥吾の事が好きだ。
お互いわかってるなら言う必要ない。と、思っていた。


インターハイ予選の県大会開幕の前日に梨花からメールが来た。

『話があるの。今日海浜公園で会えない?』

梨花がこんな切り出し方をする事は今までなかった。なぜなら、梨花は小1の時から言いにくい事(そういやお母さんがいない事も初対面で言ってきたな。)もなんでも隠さずに伝えるからだ。
きっと今まで言わなかった、言えなかった、言いづらい、俺と梨花の関係についてじゃないか、と祥吾は思った。そしてその時はなぜか今日は梨花と会ってはいけないと思った。
今、大人になって、この時を思い出してみてもなんで梨花に会わなかったのかわからない。


あのメールが来た2週間後、祥吾は東京へ行った。
結局、メールの返事はしないまま。当日、転校の事を知った梨花は当然悲しんでた、だろう。なぜか、この時の記憶は全然残っていない。好きな人を悲しませたからだろう。祥吾はこの時の記憶を消そうとしていた。

あの時なんでメールの返信をしなかったんだろう。そもそもなんの話だったんだろう。あの時俺が梨花と会っていたら将来は変わっていたのかな。


現在



「はいはい、ごめんね、んで、どうしたの?」

「今日さ、その幼馴染みの梨花と中高部活一緒だった親友の洋平と自由ヶ丘で会うことになったんだよね。」

「え、2人とも東京いるの?」
美雪は目を丸くして驚いた表情で祥吾をみた。

「そうそう、実は2人とも大阪の大学入ってから東京に就職してたんだよね。」

「あ、祥吾は知らなかったの?」

「そうなんだよ、昨日いきなり洋平から連絡きてさ。梨花と一緒に自由ヶ丘で酒飲もうぜ!って。俺は東京にいること知らないからビックリしたけど、めちゃくちゃ嬉しかったから行ったわけよ。」

「うんうん。」

「そしたらあいつ集合時間に全然来なくて、30分ぐらい梨花とサシだったわけよ。」

「いいじゃん、好きだったんでしょ?」

「いいわけないだろ!気まずいだろ高2のあん時から会ってないんだから!!」

「あん時?なに?」

「あぁ、ごめんごめん、色々あって結ばれない恋愛だったんだよ。」

「あーー、なるほどねえ。」
美雪はニヤニヤしながら祥吾の話に相槌を打つ。

「ただ、俺は会う前から緊張してたんだよね。梨花と高校2年ぶりに会うから。あと、俺が東京に来てから今まで、いろんな人と出会ったけどやっぱり梨花以上の人なんていないなって思い出したタイミングだったから、今回の再会はめちゃくちゃドキドキだったわけよ。」

「はいはい、いいじゃんいいじゃんそれで?」


7年ぶりに会った梨花は高2の時よりも美人になっていた。髪色や化粧もあってか大人の色気が出ていたが、あの時と変わらずに澄んだ瞳をしていた。

『自由ヶ丘よく行くから俺予約しとくわ!』
洋平はLINEで、なんかの大事な記念日でも予約するか迷うくらいの高級イタリアンに場所を指定してきた。そして、洋平は時間に来ない。

「え、祥吾?ほんっとにひさしぶり!!ねぇ、元気だった!?!?」
相変わらず最初からよく喋る梨花に対して祥吾は

「久しぶりだね、いつから東京いたの?」
と、答えを知っている質問しかできなかった。完全に緊張している。

「祥吾、ぜんっぜん変わらないね!!笑」

「梨花は、変わったね。」

「そう?どこらへんが?」

「なんか、雰囲気かな。」
(今日は、あの日の事聞いたらまずいかな?)
(もう、昔の事だからいいよな?)
(あと、俺たちあの時からやり直せないかな?)

そんなことが頭の中でグルグル回り、梨花の目を見てうまく話せない。
(会話のキッカケにならないかなと、いつかのキーホルダー持ってきたんだよな。)

「いやでもほんと懐かしいな梨花。そういえば俺らが小学生の時さケンカしたじゃん?んで」

「お待たせ〜〜!!!まじごめん!!わるい!てかマジ久しぶりじゃん祥吾〜〜!!!」
洋平は相変わらず背が高くて、スラッとしていた。(東京きてからかな?なんか垢抜けたな。)

「洋平!!おせえぞ!!!んでほんと久しぶり!!!」
祥吾は洋平の肩を軽く叩く。

「今日は洋平の奢りねっ!」
と、梨花がいじわるそうな顔で言う。


「いや昨日も奢ったじゃーーん」
と、嘘っぽい嫌な顔で洋平は梨花を見る。


「あれ、2人は昨日も会ってたの?」


「あ、ごめんごめん。言うの忘れてた!俺と梨花、付き合ってるんだよね」


「……………え!まじで!!超おめでとう!!めっちゃお似合いだわ!!ずっと好きだったもんな洋平っ笑」

祥吾は、梨花の相手が洋平で良かったと思うと同時に出しかけてたキーホルダーを右ポケットにしまい込んだ。


サポートおねがいします!!あなたのサポートが励みになります!!