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UTOPIA #20 大口之真神


「どうか、私に龍核を授けてはいただけませんか」

 老狼は、地に膝をついて懇願する人など眼中になかった。それはそもそも人に興味がない。その他の獣や忌み子や超越者にもまるで関心を示さない。

 力の譲渡による不死の克服など、不可能である事を老狼は知っていた。そもそもそれは、龍のように人の心を持ち合わせていないため、元より不死性に倦むという事も無かった。とはいえ、現状に満足している訳でもない。

「真神原の大狼よ、どうか私を龍に」

 女はひたすら同じような文句を繰り返している。こんな事を人は何度繰り返すのだろう。彼らにも事情はあるのだろうが、何に成ろうが、どんな力を手にしようが、この世界で生物は決して救われない。それは根源が歪んでいるためである。そろそろいいか、と老狼はその口から光る泡のようなものを幾つか吐き出した。

 女は何を誤解したのか、それを掴もうとし、触れた瞬間に内側から一切音を立てずに爆発した。無音の爆発の後、女の肉片は一つも残っていなかった。神の力を人が受容する事はできないのだ。

 老狼は人気の途絶えた原野にて囁いた。

「たとえ死のうが救われない。力を得ても同じ事。我々にとっての救いとは、この世界をもう一度終わらせ、新しい律を打ち立てる事なのだ」

*

ここまでで明らかになった事

・この世界は二つの願いから成り立っている 

・人は絶滅の危機に瀕している

・人や獣は月に到達する事で超越者となる

・超越者の一つの形が龍である

・龍の大半はその選択を後悔して死にたがっているが、龍核によって生かされ続けている

・龍は申し合わせによって、力を譲渡し不死の克服を目指している

・龍との申し合わせにより強化された人を用いた、人同士の戦争が起きている

・力の譲渡による不死の克服は不可能

・老狼曰く、"生命は死のうが救われない"、"新しい律を打ち立てる必要がある"

・サリーの目的は"皆の理想を知る事"



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