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『Outer Wilds』をクリアした:②プレー中に感じた不満点(ネタバレ有!!!)

①はこちら↓


重大な警告

本記事は筆者にとって人生ベスト級の傑作ゲーム『Outer Wilds』について、ネタバレありで率直な感想を綴っています。
未プレーの方は必ずここで引き返してください。
さもなくば、例のアレを外したままタイムオーバーしちゃったときみたいな目に遭います(未プレーの人にはわからんて)。

もう一度繰り返す。
未プレーの方は、必ずここで引き返してください。






大丈夫ですね?
それでは進もう。


序文:長所を言語化するのが難しい

おかげさまで①の記事は、まずまずの反応をいただいた。note公式によれば、「#ゲーム」でここ最近もっとも読まれた記事のひとつになったらしい。
となると俄然、続く記事を執筆する意欲も湧くというものである。事実、私は翌日にはこの②を書き始め、全体量の3分の1程度にはなりそうな文章を下書き保存していた。

ところが、である。
そこから先、完全に筆が止まってしまった。

理由の1つは、単純に忙しかった。前回の記事をアップした8月2日の2日後に、自身のデビュー10周年記念刊行となる新刊が発売され、関連の稼働に忙殺された。発売日から書店訪問ツアー(東京・神奈川・京都・大阪・兵庫)、取材、オンラインサイン会、サイン本作成等に加え、プライベートでも大腸内視鏡検査や3年ぶりとなるお盆の帰省が重なった。帰省中は時間を持て余していたものの、ゲーミングPCが使えなかったため、『Outer Wilds』をプレーできない環境で執筆する気が起きなかった(行きの飛行機の時間ギリギリまでDLC『Echoes of the eye』をプレーしていたが、暖炉でつまずいたところでタイムアップとなりクリアしきれなかった中途半端さも、その気持ちに拍車をかけていた。もっとも、帰省中もずっとあのメインテーマが頭から離れず、日がな一日口ずさんでいたしSpotifyでサントラを聴いたりもしていた)。

こちらは個人的な事情なのでどうでもいいとして、より問題だったのは、もう1つの理由のほうである。

「人生ベスト級」とさえ称するほどのゲームであったにもかかわらず、その美点を、うまく言葉で表せなかったのである。
執筆を生業としている身でありながら、何をどう書いていいかわからなかった。どんな美点も、言葉にすればごく短い、何のよさも伝わらない、陳腐なものになってしまう気がした。

そしてまた皮肉なことに、悪口ならばいくらでも浮かぶのである。

このゲーム、人生ベスト級と断言するほどのめりこんだ私だが、ぶっちゃけプレー中はほぼ常に暴言を吐き続けていた。
とにかくイライラさせる要素が多いのだ。

というわけで、そちらを先に処理しないと絶賛記事が書けそうもないので、今回は個人的なイライラポイントを書いてみたいと思う。

(追記:あくまで個人的な感想なので、賛同できない方がいて当然だし、それでいいと思ってます! プレーヤーの数だけ物語があるのが『Outer Wilds』なので。)

このゲームの何がそんなに私をイラつかせたのか


操作性について

このゲームが批判を浴びる際にしばしば言及される操作性だが、正直私はそこまでの不満はなかった。
むしろ、無重力・低重力空間をリアルに再現するとこんな具合だろうな、よくできてるな、とさえ思っていた。

ただし、不満がないからといって、イライラしないかというと話は別である。
いったいどれだけのループで、私は犬死にしたのだろう。ほんのちょっと勢いを殺し損ねただけで、ほんのちょっと着地点を誤っただけで、ほんのちょっと探査艇の航路をコントロールしきれなかっただけで、主人公はあっけなく死ぬ(特に、脆い空洞! まだ操作に不慣れな序盤で訪れたこの星で、あえなくブラックホールに吸い込まれて無為な時間を過ごしたループは数知れない)。
そしてあの、スキップできないフラッシュバック(できる? 少なくとも、やり方は最後までわからなかった)。

「もういいって!」はこのゲームのプレー中、間違いなくもっとも多く口にした台詞である。

せめてFPP(一人称視点)ではなくTPP(三人称視点)なら……と何度思ったか知れない。いや、わかるよ。この手のアドベンチャーやウォーキングシミュレータが、FPPによって没入感を高めていることくらい。でもそれにしちゃあ、本作は筋とは何ら関係のないアクション性に起因する無駄な死があまりに多すぎる。
本音を言えば、謎が解けたらそのルートで死ぬ心配はないくらいの操作感にしてほしかった。まあ、一定のリアリティを追求したことと表裏一体だから、痛しかゆしではある。


同じ手間を何度も繰り返さなければならない宿命

私はゲームの難易度が高いのは許せるが、失敗したらだいぶ前からやり直さなければならないといった、無駄に手間がかかるゲームは好きじゃない(『星のカービィ ディスカバリー』のアルティメットカップZについて、「プレーヤーを楽しませることを放棄している」とツイッターで批判したことがある。強化したボスたちを相手に必死で12連戦勝ち抜いてきて、最後の最後で完全初見ボスとは正気の沙汰じゃない。また12連戦やってやっと2度目の対戦=練習、それで負けたらまた12連戦……と想像した瞬間に、私は迷うことなくアンインストールしていた)。

しかしながらこの『Outer Wilds』は、22分間のループという性質上、何度も同じ手順を踏まなければならないという宿命を背負っている。
目覚めたら発射台に上がって、宇宙服を着て、目的地となる星を定め、探査艇を飛ばさなければならない。必ず毎回、ここから始まる。ループが何十回ともなってくると、これがいちいちめんどくさい。本当にめんどくさい。まして、行った先でまた何度も死とループを繰り返さなくてはならないのだ。

システム上仕方ないことと理解していたので、決してそこまでイライラしていたわけではなかったが、せめてもう少し探索の手間を省略できる親切さはあってもよかったように感じた。
一例だが、最初の数分スキップと引き換えに、一度訪れた星に着陸した状態からループを開始できるとか。そのくらいの配慮は備わっていてもよかったのではないか。
だいたい、このゲームに登場するワープはもともとNomaiが灰の双子星プロジェクトの手間を省略するために作ったらしいのに、主人公にとっては探索を進めるうえで必要になるだけで、手間の省略という点ではまったく用をなさない。あれをもうちょっと活用できなかったものか、と思う。


航行記録やインジケータ等の不親切さ

操作性については不満はなかったと先述したが、こちらはもう少し具体的なクレームである。
操作性と並んでこのゲームの初心者の心をへし折る大きな要因の1つが、序盤の説明不足である点に異論はないだろう。
何しろ航行記録を埋めていくという基本からしてちゃんとした説明はない。探査艇の操作は初心者には難解で、しかも進行方向を示すランプや惑星の軌道を示す矢印に関する説明が一切ない。どうにか着陸して探査艇を降りたところで、今度は極の位置と足跡だけが記されたミニマップ(これも最初は説明がないし、足跡以外何も記録されないので一部の場面を除いて大した役には立たない。しかも探査艇を出ないと表示されないので、探査艇を運転している状態で特定の星の南極や北極を目指すのにも使えない)、何だかよくわからないコマのようなインジケータ(水平かどうかを示している? いまだによくわかっていない)が出てきてプレーヤーを再び困惑させる。
気にせず進めていけば何となく意味がわかってくるとはいえ、もう少しわかりやすく、利用価値のあるものにできなかったのかと疑問に思う。

もう1つ、これはかなりフラストレーションが溜まった点なのだが、航行記録は探査艇でしか確認できない。
したがって、ループの途中で記録した航行記録が具体的にどのような意味を持つのかは、探査艇に戻るか次のループを待つかしないとわからない。もちろんNomaiの記録から意図が明白な個所も多いが、プレーヤーのほとんどは航行記録を見て初めて「あれはそういう意味だったのか」と理解できた覚えが少なからずあるだろう。何なら、その意味を踏まえてもう一度同じ文章を読みに行った経験さえ一度ならずあったはずだ。
これに関しては、きわめて単純な方法で解決できた。探査艇と主人公が通信できるようにしておけばよかったのである。偵察機があれだけ離れていても問題なく通信できるのだから、探査艇との通信が確立できなかったという言い訳は通用しない。
そうではなかった仕様のせいで、一度進んだ場所からループを終えて探査艇に戻り、航行記録を読んだうえでまた同じ場所に行かなくてはならない、という羽目に幾度となく陥った。航行記録さえ途中で見られれば一度足を運ぶだけで済んだのに、と何度思ったことか。
「太陽なき街」で「探索できる場所が残っています」と言われ、あのルートを何回も通らざるを得なかったこちらの身にもなってほしい(ショートカットがあったのは知っている! そこはこのゲームの非常に素晴らしい点だが、なぜショートカットまでも隠したのかは疑問が残る)。


一部の謎に対する解釈のあいまいさと、ゴリ押しで通過してしまったポイント

前回の記事にも書いたとおり、私はこのゲームの謎解きはノーヒントでクリアできるギリギリの難易度に設定されており、「最適」という評価を下している。
ところどころ膨大な時間を費やしたにもかかわらず、そのほとんどが解けた瞬間にスッキリでき、「これだ!」と確信できる答えになっていたのは称賛に値する。

しかしながら、いくつかの誤解によって無駄な時間を費やし、結果としてゴリ押しで通過せざるを得なかったポイントがいくつかあったことを、私は白状しなくてはならない。

その最たるものは、アンコウである。
私はNomaiの記録から、アンコウの目が見えないことは把握していたものの、音に反応しているという点に最後まで気がつかなかった(ほかの方の記事でも確認したが、そんな描写はゲーム内のどこにもなかった)。にもかかわらず、このゲームをクリアできてしまった。
どうやったか。「壁に背中をつけてこっそり進む」という記述を参考に、壁やイバラの近くを移動することで、アンコウを物理的に阻んだのである。
不運なことに、これが成功してしまった。とはいえ、それは種に偵察機を打ち込むところまで。その先の難破した宇宙船に続くアンコウの群れを、探査艇で切り抜けることはどうやってもできなかった。
そこでうんうん考えたあげく、私はひらめいた。

「探査艇、降りればいいんじゃね?」

あのアンコウの群れに突入する直前で、私は探査艇を降り、壁際に沿って移動を開始したのである。
当然、アンコウは襲い掛かってくるが、探査艇と違い小さな主人公は壁の溝にうまくはまり、頭上でアンコウがブチギレて牙をふるっている状況ながら、食われずに通過することができた。
しかも、この状態で迷わなければ、ちょうど燃料が切れるころに宇宙船に到着することができてしまうのである
宇宙船には木があるから、燃料がなくても酸素で推進できる。これまで燃料切れの酸素消費を使い道のないものと認識していた私は、「なるほどここで使うためだったのか」と感心したくらいだ。二度と探査艇に戻れない点だけは、不可解だと思ってはいたが。

アンコウが音に反応している点に思い至らなかったのは、完全にこちらの思慮不足だ。しかし、「目が見えない」という記述だけで、「音に反応している」ことに結びつけるには、あれらの航行記録には解釈の余地がありすぎた。結果として、私はおそらく製作者の意図しなかったであろう方法でクリアしている。私はアンコウを、このゲームにおける謎解きの数少ない失敗ととらえている。

もう1つ、私の頭を非常に悩ませたのが、量子の月への行き方だ。

量子試練の塔を経て、私は量子イメージングの法則なるものを把握した。悲劇だったのは、その内容を微妙に取り違えてしまったことだ。
私は量子イメージングの法則を、「写真に写っていれば量子は移動しない」ではなく、「偵察機が観察している状態では量子は移動しない」という意味だと誤解した。そして、そのままでも量子知識の塔をクリアできてしまったのである。

量子の月に着陸する段になったとき、私は量子の月にゆっくり近づき、偵察機を陸地につけることに成功した。だが、偵察機はエラーとなり、写真を送ってくれない。「必ず南極に着陸する」という記述を参考に、量子の月の回転から南極の位置を特定し、私は何度、偵察機を打ち込んで月に突っ込んだか。そのすべてが失敗に終わり、完全に行き詰まってしまった。まさか、写真を撮ったあとの偵察機が宇宙の彼方へ飛んで行っても、着陸に支障がないとは思わなかったのである。
とにかく写真に写せる状態でなら着陸できることは間違いなかった。だが、探査艇にはスナップ写真モードが搭載されていない。思い余った私が、最終的にどうしたか。

量子の月に向かって探査艇を進ませながら、突入直前でシートベルトを外し、スナップ撮影モードで写真を撮った。
これにより、なんと着陸に成功したのである。

もちろん探査艇は大破したが、とにもかくにも着陸はできた。僕自身、これが正解だとは思えなかったが、それでも量子の月へ行けたのである(幸いなことに、量子の月は一度の訪問で首尾よく目的を満たすことができた)。

量子イメージングの法則に関しては、誤解したこちらに非があると思う。しかしながら、理想的ではない方法でも着陸できたことは事実である。これもまた、もう少し解釈の幅を狭めるべきだったのではないかと思う。

そのほかにもいくつかのポイントで、私は足踏みをした。南部観測所は案内がありながら量子砲から何度トライしてもルートがわからず、結局別ルートで到達した。量子知識の塔へ行けたのはほとんどただのラッキーだった。太陽ステーションへのワープは、行き方がわかってからも何度か失敗して発狂しそうになった。
わかりやすくして難易度を下げてほしかった、と思っているわけではない。解けた瞬間に確信できるような美しい謎解きがたくさんあっただけに、あと一歩揺るぎのない回答へと導いてほしかった、というのが正直なところである――まあ、これは必要以上に時間がかかってしまった私の単なる恨み節かもしれない。私の足踏みの大半は、もっと素直に考えるべきだった、という反省につながっていた。

(余談だが、私は高エネルギー研究所でワープ実験ができることに、クリアするまで気づいていなかった。なぜ、「探索できる場所が残っています」にならなかったのか、はなはだ疑問である)


エピローグが長い

揚げ足を取るようだが、心臓に悪かったのがエピローグ、すなわち宇宙船が発射して以後の展開である。
博物館で星系の運命を知り、キャンプファイヤーでVenturesの合奏を聴き、14.3億年後の未来を見届けるなど、心から感動した演出はいくつもあった。この物語にふさわしい、壮大なラストになっていたと思う。

だからこそ、である。

果たして無事にエンディングまでたどり着けるのだろうか、と不安にさせる場面や展開が、多すぎるように感じられたのだ。

最たるものが、楽器集めである。ここにきて、まさかまだ謎解きをやらされるとは思わなかった。しかもその中には、レーダーのズームという、人によってはそれまで一度も使ったことがなかったであろう機能を使用しないといけないものまであった(なぜズームしただけで楽器がつかめたのか? よくわからない)。
そもそも、宇宙船を出て第6の場所らしきところに降り立った瞬間から、不安は始まる。何となく正面に歩いていけばいいのだろうとは思いつつ、確証はない。しかもこの間、燃料はちゃんと減っていくことが、ますますプレーヤーを不安にさせる(なくなったらどうなるかは試していない。酸素さえあれば大丈夫なのかもしれない)。
博物館を出てからキャンプファイヤーまでも、長い。超新星に似た無数の輝きをながめているときも、何かをすべきなのかそうでないのかわからなかった。自分に遭遇する場面は効果的だったが、いまさら木や焚き火跡が出たり消えたりする演出に何の意味があったのだろう。さっさとキャンプファイヤーまで移動させてほしかった。

何しろ、だ。
こちらは、時間を進めて灰の双子星に行き、ワープコアを入手し、そのうえで闇のイバラへ移動し、種に偵察機を打ち込み、あの憎きアンコウの群れを突破して宇宙船に位置情報を打ち込む、しかもそれを22分以内でおこなわなければならないというプレッシャーのかかる行程を、度重なる失敗の果てにようやく成功させたところなのだ。
そこでセーブできるなら問題はない。だが本作は、強制的にループの頭に戻されるという性質のゲームである。
正直、万が一いま停電でもしたらと思うと、気が気でなかった(たちの悪いことに、私が本作をクリアした時期、東京は大気が不安定でしょっちゅう雷が鳴っていたので、停電もそれなりに現実味があった)。
楽器集めをしながら、「早く終わってくれ」と祈っていたのは仕方のないことだ。要するに、私はこのいつ終わるともしれないエピローグを、満足に楽しめなかったのである
終わってみれば、そしてDLCを経てもう一度、今度は精神的ゆとりを持った状態でエンディングを見れば、あれがいかに素晴らしく余韻の残るエピローグだったかはよくわかる。
それを、ここにきて謎解きをさせたり、途方に暮れる場面を入れたりすることで、不安が勝って充分に堪能することができなかったのは本当に残念だ。


それでもなお、『Outer Wilds』は傑作だった

ここまで長々書き綴ってきたとおり(前回の記事をはるかに上回る約7000文字である)、『Outer Wilds』は複数の点で不満を挙げられる作品だった。

にもかかわらず、だ。

私はこのゲームを、人生ベスト級と評している。

月並みな言い方をすれば、これらの欠点を補って余りある――いや、そんな表現すら生ぬるいほどの、まさしくかけがえのない美点が、このゲームには宿っていたからだ。

考えてみれば、人生というのは、日常というのは、いつだって不便と徒労に満ちあふれている。
どんなに充実した毎日でも、世の中に不満が何ひとつない人など絶無であろう。ちょっとしたことから生命を脅かしかねない大問題まで、数え上げればキリがないはずだ。
そして、たとえどんなに不満だらけであろうとも、すべての人の人生は唯一無二であり、文字どおりかけがえのないものだ。

してみると、『Outer Wilds』に対する数々の不満もまた、かけがえのなさの前では取るに足らない問題、あるいはそれさえも個性のうちなのかもしれない。
どんなにおもしろく、プレーヤーに親切でストレスフリーなゲームがあったとしても、それは絶対に『Outer Wilds』の代わりにはなりえないのだから。

冒険が終わっても感想戦は続く

今回の記事で感想をうまくまとめてしまうつもりだったが、結局不満点を挙げるだけで力尽きてしまった。
言語化が難しいなりに、やっぱりこの作品の魅力についても書きたいので、それはまた次回に持ち越したいと思う。できれば、DLC『Echoes of the eye』の感想も書きたい。
いまは記事のタイトルを「前編」「後編」にしなくてよかった、と心から思っている。

というわけで、また時間が空いてしまうかもしれないけれど、引き続きお楽しみいただければ幸いです。

(『Outer Wilds』をクリアした:③に続く)

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