お看取りカルテ case6:脳腫瘍
80歳代 男性
この患者さんは6月に訪問診療が導入されました。脳腫瘍に対しては、専門医を2週間に1度抗がん剤投与のために受診されていました。
お薬もそちらからずっと出されていたため、在宅医である自分はほとんど薬剤調整をしていません。
若干何のために訪問しているんだろう?って思うこともありましたが、最後に患者さんを看取る医者として、関係性を構築していかなきゃなと思っていました。
綺麗なお家に住んでいて、奥さんと2人暮らし。僕が訪問診療に初めていった時は不穏状態で、支離滅裂なことを言っていましたが、徐々に落ち着いてきました。
元パティシエでお菓子を作っていた様です。正直、そんな感じに見えないお父様でしたが、お菓子の話を奥様からたくさん聞きました。
脳腫瘍の影響で左半身は動かない状態。奥様が一人熱心に介護されていました。
毎週1回訪問に行きたわいない話をして帰る。そんな日々が続いていましたが、9月に入った頃から徐々に発語もなくなってきて傾眠傾向になりました。
それからは、奥様との面談が中心になりました。残される人の心の負担は大きいですよね。
脳腫瘍ということもあり、身体的な症状はほとんど訴えず徐々に衰えていっていました。奥様は相変わらず熱心に介護されていました。
10月に入り、容態も悪化の一途を辿っていました。妻の精神的疲労も蓄積されており、訪問のたびに涙を流されていました。僕は話を聞くことしかできません。ただ、一生懸命介護している様子はしっかり伝わってきました。これも夫への愛なんだなぁということがよくわかりました。
なくなる、数日前から食事が取れなくなりました。それでもご飯をあげたい様子の妻。食事が取れない=死んでしまう。という認識だと思います。その後、水分をとるのも危うい状態になりました。
その日の訪問診療の際に、妻に水を飲ますのももうやめた方がいいと正直に伝えました。その日は、(ずばっとものをいう)娘さまも同席されていましたが、娘様は亡くなることへの覚悟はされていたようで、「私は何もせずに逝かせてあげた方が良いとおもう。」といっておりました。しかし、妻は浮かない様子。
医学的には点滴は延命効果はなく、痰が多くなってしまう可能性があるため僕自身は終末期の患者さんには勧めていません。ただ、よく診ている家族にとってはエビデンス云々じゃないんだと思います。
奥様はやはり何かしてあげたいと。いままで、熱心に看病していたのにやってあげられることがなくなると辛いのではないと思います。相談の結果、皮下点滴を始めることにしました。
数日、穏やかに経過し亡くなられました。その前日、僕は訪問診療したのですが、奥様から「先生も辛い仕事だね。ありがとうね。」と言われたのが印象的でした。
確かに、人が死んでいく姿を喜んでみることはできません。でも誰かがやらなきゃいけないのだと思います。そこには患者さんを取り巻く家族がいます。そうした人たちの小さな支えになれればと今は思っています。
お薬を出したわけでもなく、医学的な処置をしたわけでもありません。ただ、訪問して、お話しして、、、最後に診察をして。
正直、医者じゃなくてもできる仕事かもしれません。でもこれでいいんじゃないかな?医者っぽくない医者が自分の理想系です。
気軽に相談できて、ちょっと頼れるくらいを目指して頑張ろうと思ったケースでした。
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