砂漠、鷹、最悪の子供時代
見渡す限り一面の砂、砂、砂。僕の生まれ育った場所では、こんな鳥取のような風景は見られません。代わりに、きれいな海がありました。
しかし恥ずかしいことに、5歳の時の僕は全く泳げなかったのです。たまに父親に海に連れて行ってもらいましたが、水を怖がってギャンギャン泣くばかりでした。6歳になっても7歳になっても水は怖くて、学校のプールの授業ではみんなの笑いものでした。
そんな僕に転機が訪れました。ある時僕はテレビ番組を見ていました。たぶん、不思議大自然というNHKの番組だったと思います。南米ロケだったでしょうか、大空を悠々と飛ぶ鷹の特集でした。その広げられた翼は自由に空を舞い、カメラを構えたスタッフを遥か見下ろして飛ぶのです。川の上に浮かべられたボートで、ただ天井の点を仰ぎ見るだけのスタッフが想像できました。
すると突然その鷹は何を思ったか、スタッフの乗るボートめがけて突っ込んできたのです。スタッフはカメラを構え続けますが、鷹は真っすぐにこちらに飛び込んできて、あわやぶつかるとなったところで角度を変え、森の中に飛び去って行きました。
その映像のなんと美しかったことでしょう。そして、真っすぐに水や人を恐れず突っ込んでくる鷹の、なんと格好良かったことでしょう。僕はその時初めて、水に飛び込んでみたいと思ったのです。
僕がぐずるから嫌だという父に駄々をこねてプールに連れて行ってもらいました。夏だったので人も多く、小さな市民プールは子供でいっぱいでした。
僕には翼はありませんが、鷹よりもしっかりした足がありました。プールサイドに立った僕は何の躊躇もなく、高く跳ねてプールへ飛び込み、飛沫を挙げました。
その瞬間に僕は、翼のない鷹となったのです。
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