不確定日記(白の気配)
子供の頃、雪が降りそうだとなると起きてすぐカーテンを開けに行った。分厚いのを一枚開けるとその先のレースのカーテン越しに庭が光って見える。賭ける気持ちで柔らかいレース布を剥ぐと一面平らに雪が積もっていることもあった(当たり!)が、大半は縁側の先の庭に張ってあるグレーがかった石のタイルの反射だった。冬は特に白く見える。その先には黒い土が剥き出しだ。いつもより寒いだけの普通の庭にがっかりしてストーブの温風の数センチ前に猫と競ってうずくまる。古い木造家屋はとにかく寒く、家にいる間じゅうそこにいて、よく「燃えるよ」といわれた。燃えたことはないが尻ポケットに入れていたリップクリームが液状になったりした。
今日も雪が降るのだという。一人暮らしの部屋はとても細長く、長辺はすべて窓とベランダに面しているので、起き抜けに寝ながらカーテンを開ける事ができる。しかし寝ながらだと角度的に空しか見えないので積もっているかはわからない。仕方なく上体を起こしたが、向かいの家の屋根や庭木にはもちろん積もってはいないし眼鏡を外しているので細かく降っていても見えない。再度布団に戻る。今年は暖冬だしこの建物は鉄筋だが、相変わらず私は寒がりで雪を期待している。あの頃、まわりの大人は雪に興味がなさそうだったが、本当にそうだったろうか。しばらく目を凝らすと、雪は斜めにチラチラと降っている。布団をかぶったまま薄く開けたカーテンから目を凝らした。
今日は夜にイベントでタコスを売る予定で、部屋にはトマトに紫玉ねぎ、スパイス、青唐辛子、パイナップル、ライムなどが積んである。大雪だったら外は白くてより南国風食材の色が映えたのに、と少し思う。夕方前には雪は雨になって、それも止む予定で、それは大量にタコスを運ぶのにもよいことだ。
そんな奇特な