不確定日記(汚れの存在の不確かさ)

水回りの掃除をした。マスクと手袋をして風呂場のカビを取り、トイレを磨き、台所の油汚れを落とす。
元来鈍いからなのか、掃除をしていないとその環境に順応してゴミや汚れにまったく気づかない。あるのに無視するのではなくて本当にまったく見えない。光り輝いた部屋に見えるわけではないが、どこを掃除すべきかわからない。どうも最近、見える世界に薄グレーのフィルターが。疲れてるのかなー、という日々が続き、頭痛、胃痛、しつこい眠気などの症状が出始めると辛くて薄目になるので余計に見えない。
呪いが解けるのは一瞬で、人に会うとか映画を観るとか、美味しいものを食べるとか、「正常に美しい」物に触れて、あ、今日ちょっと体調良くなったかな、というときに突然、床の上に落ちている折れ曲がった茶色いものが劣化してベタベタになった輪ゴムだと気づく瞬間がある。そうなるとすべての汚れが高解像度で露わになり、それを端から潰してゆく。人生の陰と思われたものは大抵カビか埃。なぜ髪の毛がこんなところに。自分の底の浅さにガッカリしつつカビハイターを吹き付け続ける。わたしの掃除はいつもそのようにして行われるので一度始めると4時間くらい止まらない。

食品棚の整理もしたら、何ヶ月か前に、突然亡くなった知人の通夜で少し遠くに行った時に買ったお菓子が出てくる。すぐ食べる気がしなくて、しまったまま忘れていた。賞味期限はとっくに切れている。しょっぱい系のやつなのでビールを開けて齧ってみるととてもおいしい。パッケージには複雑なスパイスやキノコのパウダーなんかが書き連ねてある。あの時私は状況がよく飲み込めていなくて、帰ってきても行動が感情に落とし込めていないな、という気がしていたが、美味しそうなお土産を選んでいて、それが今ちゃんと美味しい、という事がなんだか悲しかった。一枚だけ残した。部屋はピカピカ。

そんな奇特な