不確定日記(1番遠い体)

メモ帳に残っていたメモ。

ニッパー型の爪切りは歯科医の道具を思わせる鋭利さで、引き出しの中でも威厳がある。刃先に触らないようにゆっくり取り出し、机の長い辺と並行に置く。鑢も隣に厳かに並べる。椅子に深く座り体を出来るだけ深くふたつに折る、足をゴミ箱の縁にかけ、切られたほうの爪が飛び散らないように経験で会得した角度まで斜めに倒し、まずは親指に刃をかける。角を丸くしすぎてはいけない。切られた爪の面積を肉が埋めると、伸びた爪は行き場を失い自分の場所を取り戻すために肉を傷つけてしまうからだ。指の形に逆らわぬよう、ほんの少しのアールをつけて三度爪切りのハンドルを握る。自分の体から分厚いものを切り離す快感。ここを切り抜ければあとは簡単だ。なんと薄く小さいあと4枚。たどり着いた小指はしかし、親指の5分の一もなく、自分のではなくもしかしたら誰かちがう人の体が紛れているようなものだ。そう思うとかえって緊張し、全て切り取ってしまわぬよう息を止めて手の指を一度タオルで拭う。

そんな奇特な