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ハンター×ハンター史上最高傑作のキメラアント編(蟻編)を岡田斗司夫が解説|冨樫先生のポテンシャルを越えた作品

ハンター×ハンター キメラアント編

キメラアント編というのは

ハンター×ハンターの今のところ

最高傑作と思ってる

あの完成度は奇跡

実は偶然かも

ストーリーの流れをまとめました

まずグリードアイランド編のラストで

ジンに会えるはずが

カイトに飛ばされて合流

ここでキメラアントの女王の

体の一部を入手して

新たな脅威が来たとわかる

次に女王蟻が色んな生物捕食して

捕食交配

食べた生物の特徴を持った
子供を産卵することが分かる

これが人類の天敵として設計された敵役

師団長コルト 不思議なコアラなど

人間ぽさを残したアリ達が出てきて

素直にこれは 将来駆除できない

駆逐出来ないという伏線も張られる

とてつもなく強い親衛隊

ネフェルピトーにカイトは殺され

ゴンとキルアは修行エピソードに島流し

これ島流しになると俺が言ったのは

事実上ここで
ストーリーラインは二つに分かれて

キメラアント側の どうやって

誰が主導権握るのかとか

そういうお家騒動な話に比べれば

ゴンとキルアが修行のために

ナックルとシュートと
闘わなければいけないけど

そっちの方の温度が
だいぶ違ってくる

まあ島流しみたいになります

王がついに生まれて

キメラアントが分裂する お家騒動

各師団長を倒す個別エピソードに移って

転換ポイントですね

軍議という
将棋の進化版みたいなものの名人

コムギが登場してラストへの流れ

これが前半の大きい流れなんだけど

上の方の3つのエピソード

人間ぽさを残したアリ達は

後半であまりうまく機能してない

そっから分かるのが

富樫さんって漫画家は

完全な構成を決めて

その順番でエピソードを出すって言う

バクマン・デスノートタイプの
漫画家ではなく

キン肉マンタイプの漫画家

ものすごい設定考えて

本宮ひろ志タイプと言ってもいいかも

とにかくすごいことを考えて

どうなる?って言ったら

俺もわかんない!
どうなる!?って言って

続きは来週までに考えるって

とりあえず寝てしまうタイプの
漫画家だということが

天空闘技場編とグリードアイランド編の

念能力の設定の
バラバラ差から分かるように

キメラアント編でも最初に出した伏線が

これどうすんだという状態になってる

特にジャイロっていう

悪の象徴みたいなキャラクター出てきて

街の中に消えていったって話になって

ファンの間で次ジャイロが
出てくるのはいつか?ってなってるけど

俺思うんだけど

もう出てこない

作者にしてみても

もうあれ今更出せないものの一つ

あの設定が・・

<コメント>
ジャイロもうでないよな

設定を次々と使い潰すことはないんだけど

後で矛盾が出てくるよりは

一番面白い手を常に探してるから

どうやっても捨ててしまう設定が出てくる

軍議の名人コムギが登場して

ここで転換ポイントがあって

ドラゴンダイブという技を使って

キルアのおじいちゃんだよね

おじいちゃんとネテロ会長が

キメラアントの本部に突入する

ここでももう敗北は決定してる

実はなんでかって言うと

キメラアントは王というただ一人の存在
に向かって種が進化していくもの

これをもって凄いと書くんだけど

逆に言えば
人間に比べて何が弱いか

王が殺されれば全て終わり

すごい脆弱な組織

人間は誰が倒されようが
生き残ってる奴がいる限り

もう1回リベンジ出来る

それが人間の多様性の強さ

これがラストに向かって行ってる

実はその

独裁政治と民主政治では
どちらが優れてるのか

それも政治的な意味で優れてるのか
という話に繋がってくる

王が一人いればいい

王一人の進化のために全てを捧げる
というのは逆に言えば

王一人が攻略されれば
全てが終わってしまう

すごい一点突破の才能しか
持っていない人間が

それが折られると全部終わりっていう

そういう不幸を描いてる

その次の
ネテロ会長と王との戦いで

ネテロ会長が死んで
ミニチュアローズ(核兵器)が爆発する

これもね

ネテロ会長と王は実は戦う必要がない

正直言ってしまえば

ネテロ会長がやるべきことは

王に会った瞬間 自分の心臓をついて
ミニチュアローズを起動させること

そこでもう彼のミッション終わり

グリードアイランド編の
ゴンと全く同じ事やってんだ

ゴンはゲンスルーに会って
これぐらい怒らせたら

すぐに次の段階に入りなさいと
あんなにビスケに言われてたけど

ごめんビスケ
俺やってみたいんだ

どこまで自分がやれるのかって

もう死にそうになってから
ビスケの言うこと聞いたんだよね

全く同じで

強化系は似てる

ネテロ会長が思ってるのは
ごめん各国の首脳

でもどこまで自分が通じるかやってみたい

これまで人間相手だったら
試せなかった技を全部出して

だから 幸福だったと思うよ本当に

生涯に一度だけ
全力で闘える相手と闘って

その後
じゃあそいつと闘った自分の中に

熱い思いはあるのかと

王の中に熱い思いがちゃんと出た

ところがネテロ会長の中に出たのは

王と散々闘って出てきたのが

でもアリンコのために人間滅ぼせねえよな

自分を殺すって言うひどい裏切り

人間の方が汚い

人間の方が汚いって言うのか
ネテロ会長が汚いと言うのか

なかなか凄いシーンがあって

これで王は核爆発の被害を受けてというか

ミニチュアローズって書き方してるんだけど
その後で死んでしまうと

ゴンはサイドストーリーになっちゃってる

親衛隊のネフェルピトーを倒して

強制的に自分が成長して
瀕死の状態になってしまう

王とコムギの最後が描かれて

キメラアント編は終わります

何が異常なのかって言うと

ゴンが王と対決しない

それどころかね

ゴンは一度も(王と)会いもしない

これ何かと言うと

大河ドラマの作り方

機動戦士ガンダムってあるじゃん

機動戦士ガンダムって
テレビ版・劇場版を見ても

一度もアムロ・レイは
ザビ家の人と会ってない

ドズル・ザビにも会ってない

ドズル・ザビ名言「やらせはせんぞ」

なんだこれって言う

ザビ家の人と主役が会ってないまま

何のことかわからないまま話が流れる

でも見てる人はそこに
大きいものを感じるって言うのは

大河ドラマ・歴史ドラマの作り方

ハンター×ハンターも
これまでの少年漫画的な文法で

グリードアイランド編までの
作り方だったら

王とゴンを合わせることも可能だった

でもそれを敢えてせずに

全く別のステージで話を進めたのは

歴史ものの大きい流れみたいなものを
漫画の中に入れ込んでいこうとする

次に後半

ゴンがサイドストーリーに
なってしまってるのは何か

キメラアントの王様が
真理に達するかどうかのクエストもの

つまり 隠された

忠実な部下によって
隠された真実を知るとか

自分の本当の気持ちを知るという

自分探しみたいな話が中心

後は さっきも話した

よく政治で言われる
永遠に終わらない論争として

独裁制と民主制どっちがいいのか

パっと決めれて

優秀な人が決めてくれるんだったら
何でもいいという独裁制と

そうじゃなくて

みんなで考えて
代表で選んだ人が色々決めれる

それ全部俺たちが
突っ込むからいいんだっていう民主政と

どっちがいいんだっていう話があるけど

どっちがいいって言うのは

倫理的にどっちが正しいかって話じゃない

倫理的に正しいんではなくて

どちらの方がよりグループが
生き延びやすいかという話

キメラアントは
種族の中心であり頂点である王が

ただ一人進化の頂点に立ってても

あんまりいいことなかった

もちろん最後彼が
ちょっと状況が変わったら

正しい独裁者になれた可能性はある

最後の最後で
コムギとの関係を考え直すことによって

人間とキメラアントとの
完全な共生というの考えて

対等な存在として考えて
っていうこともできたんだけど

個があるのが限界

個人があるのが限界
独裁制の

民主制っていうのは

コムギのような純粋さも

ネテロのようなその他の
世界各国の首脳のような悪意も

両方持てるのが民主制のすごいところ

民主制が持つ矛盾性ゆえの多様性

王に対して

悪意と
コムギが持ってる無償の愛と

両方を与えてしまえる

幅の広さが民主制の強いところ

政治劇として見ても

ハンター×ハンターのキメラアント編
すごい面白かったと思う

富樫さんが別のインタビューで

何でヒソカを出さなかったのか?
という質問に対して

師団長クラスならヒソカが瞬殺してた

親衛隊クラスだ

ネフェルピトーとかのクラスだったら

ヒソカは簡単に殺せたと言ってる

例えば幻影旅団の団長とか

キルアのお父さんのシルバとか

ゴンのお父さんのジンだったら

たぶん王に勝てたかもしれない

どういうことかって言うと

キャラクターの強いやつの
上が固まりだして

大混雑状態になってる

えらいことになってしまったということで

キメラアント編ここで終わるね

次のナニカ編

キルアの妹でアルカっていう女の子

それが

何でも望みを叶えてくれる
ナニカという存在に時々切り替わる

その話になったのが

これ何かって言うと
(※ナニカではない)どういう意味か

ゴンの死にかけの状態を治すために

万能の存在を
出さなきゃいけなくなって

ミッションをクリアすることによって
キルアが成仏して

じゃあしばらく俺は
妹と一緒に旅に出るわっていう

憑き物が落ちたさっぱりした顔して
旅に出てしまってる

これはもう既にキルアという存在が

あのお話の中で

ゴンの相手役としては
不十分なものになっちゃったから

これまではずっと

キルアは実は
すごいんだすごいんだっていう

隠し玉を作者なりに
一生懸命考えて出したんだけど

もう限界に達したので

キルアはリストラされたと

今どうなってるのかっていうと

前回(前々回?)も話した通り

孫悟空から孫悟飯へ
って言っていうような

父親から息子への
主役の世代交代はかつてあったが

子供から親へという世代交代は
かつてないって言ったんだけど

今はジンと・・

ゴンの親父のジンと
バリストン(⚪パリストン)っていう

ハンター協会の裏切り者
って言えばいいのかな

なんかユダみたいなやつとが

主役になってコンビを張ってる

それをネテロ会長の息子である
めっちゃキャラの強いやつがかき回してる

ネテロ会長の息子が
押しは強いんだけども

慎重に漫画を読むと
何一つ悪いことしてない

何ひとつ悪いことしてないということは

これはその

後々になって
対立するコマではなくて

主人公たちが乗り越えるべき
大きな壁になることを暗示してる

倒すべき存在ではなくて
乗り越えなきゃいけない存在

パリストンだな ごめん

ジンとパリストンっていうのが

おそらくゴンとキルアの関係

何が失敗だったかって言うと

単行本の1巻の早いうちに

ゴンとキルアが仲良しになってしまった

そっから先キルアは永遠

お前のおかげでこんなに真っ直ぐに
物が見れるようになった

ゴンありがとう しか言えない

内面だだ漏れのキャラになってしまった

物語も佳境に入ってきたから

もうちょっと仲が悪くても大丈夫だと

お互い似た者同士だから

どんなにお前がゲスか分かる とか

あとパリストンはパリストンの方で

私は人に対して憎しみとか
嫌いと思ったことがないんですが

あなたのことは初めて
嫌いになれそうですよジンさん

なんだこんなBLみたいな展開

お互いにラブラブ告白しまくって

どっちがナンバーツーだとか
っていう話になる

そういう話の中に

二人とも全然頭が上がらない

ネテロの息子が出てきて

もうドラゴンボールだよこれは

亀仙人のところで
ようやく修行する話になるのかなって

まあとりあえず今の

暗黒大陸 導入部っていうのは

選挙編って言うね

作者の大チョンボ
大ミスをリカバーする戦い

とりあえず

十二支ん 役に立たなかったやつら
をなんとかできるのか

クラピカやレオリオという
賞味期限切れのキャラクターと

あと 十二支ん というので

残り物のチャーハンが出来るのかどうか

ジン パリストンが
互いに信頼しあって共闘するか

その前にゴンが復活するか

一番ありそうなのは
連載がまた終わってしまうのか

休んでしまうのかと

そういう段階に入ってると思います

漫画家がその漫画を終わらせられない

またはいつまでかかるんだろう
という問題ついて

本来作者が持っている

漫画家として持っている
ポテンシャルの限界点というか

何で俺にあれが描けのかわかんない
という作品あるじゃないですか

そういう意味では

ハンター×ハンターのキメラアント編

特にラストにかけての

王とは何か
人々の頂点に立つとは何かとか

人間の悪意とはなんなのかみたいな
一連の話っていうのは

富樫さんの漫画家としてのポテンシャルを

越えてたような気がする

元々 富樫さんという漫画家は技巧派だし

天才漫画家なんですよ

どれぐらいすごいかっていうのは

ヨークシン編だったり
グリードアイランド編を見れば

普通の漫画家とは外れて
すごいことがよく分かる

でもキメラアント編に関しては

そこまでの「富樫さん凄い」

「ハンターハンター凄い」という予想から

平均値から大きく越えて
ものすごい高すぎる

計算違いにまで良くできてしまった

その結果 今ね

余計辛い状況にあるんじゃないかな

キメラアント編もですね

もちろんストーリーは続いてるし

ちゃんと面白いんですよ

その面白さっていうのは

ヨークシン編とかグリードアイランド編
並には面白いんですよね

ただ計算外れにすごいものが
キメラアント編でできちゃった

流れとして読んでると
失速したという評価になりがち

よくよく読んでみると

前と同じくらい面白いんですけど

キメラアント編が・・

グリードアイランドから
キメラアント編の流れが凄すぎた

あんなものを書かなきゃいけないという

自分のかつて描いたものに縛られる

漫画家に限らず
あらゆる表現者にあるんでしょうね

彫刻家にしてもですね
絵描きにしても

ものすごいもの作っちゃった人は

永遠にあれは越えられないと
ずっと言われる

あらゆるクリエイターが
この感覚を味わうと思います

富樫先生に関しては

そんなには苦しんでないような
気がするんですけども

ただもう打つ手がなくなって
しんどくなってるのが見えてきちゃう

作家・漫画っていうのは

ダメなものを作ったら
食っていけないし

かと言って
良すぎるものができてしまったら

ずっとそれが自分の枷になってしまう
因果な商売じゃないでしょうか

#岡田斗司夫 #ハンターハンター #キメラアント #hunter ×hunter #メルエム #コムギ #冨樫義博 #漫画

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