236

さいきん読んだ小説の感想

湊かなえ「人間標本」

少年たちを蝶に見立てた観察記録のようなものと、蝶の標本記録になぞらえた殺人記録と独白たち。とてもおもしろい。湊かなえ慣れしてるとメタ的にこんなもんじゃないだろう……と思ってしまうふしはあるけど、それでもおもしろいからおもしろい作家ってすごいね。

貴志祐介「兎は薄氷にかける」

叔父殺しの容疑で取り調べを受ける青年と、外側で事件調べる係の人二視点の法廷モノ。冤罪テーマ。いつもより描写が薄く感じる部分があって、貴志祐介慣れをしてるとわざとなのでは……疑ってしまったふしがあったけれど、それでもおもしろいからおもしろい作家っておもしろいね。描写具合のあやしさは新聞連載だったという情報により、まあ、そういうこともあるかもしれないなあと思っていた。

あつかわたつみ「黄土館の殺人」

館四重奏の3つ目。今回はくぼんだ土地に建てられた実質埋まってるげな館。殺すぜ殺すぜ~って息巻いてた男が館に行く途中、地震の土砂崩れで分断され、向こう側の女と交換殺人しようぜ!って流れになる導入はめちゃめちゃおもしろい。男が館の外側で対象を殺そうと計画を練る一部もおもしろい。でも館の内側パートになると……。幼少のころにクローズドサークルの予防接種を受けているので、クローズドサークル的なプロットだとあまり心が響かない……。クローズドサークルのためにやらなきゃいけないことをひとつずつやってるなあみたいな印象になる。となると評価点はトリックだが、伏線に見覚えがあったのと、その真相をゴリ推ししてほんまにええんか?的な印象により、ちょっとあんまり……。説明っぽい文章が多くて展開を詰めこんでる感があったので、これもう三百ページくらいあったほうがよかったんじゃ?と思った。
あおみかんのときも、その真相はちょっと……と思ったけれど、いま思うとあおみかんはおもしろかったですね。


滝川さり「ゆうずどの結末」

おもしろい! 澤村伊智にあやかったようなタイトルがB級感をかもしてるけれど、まっとうなホラー。捨てても戻ってくる、読むと呪われる本ってのはベタだけど、手を変え品を変えな連作短編なのと、栞の演出がよかったので大満足。めちゃめちゃよかった。


小田 雅久仁「禍」

へんな話短編集。ホラー? 
本を食べると本世界に行けることを発見し、ハマっていく話。
耳に入るマンの話。
灰色になるエモげな話。
バスでふくよかな女性にhなことされかけてまた会えないか探し求める話。髪の毛教の話(髪素材服!)。
全裸が感染していくゾンビものふうの話。
あともう一個くらいあった気がするけど忘れた。
アイデアじたいに奇抜なものはないけれど、文章がいいなあ。こう短文でまとめるとしょーもなさそうだけど、雰囲気が抜群なんですよ。信じてくれ……。

アントニー・バークリー「ジャンピングジェニイ」

三回目か四回目の再読。
みんなに嫌われているやばい女がやばいふるまいをし、殺される。探偵(?)のロジャーはなんとか事件をなかったことにしようと、偽装工作に奔走する。関係者に順番に話を聞いていくパートが、偽装のために偽の記憶を植えつけようとしたり、ロジャー自信が疑われたりっていうかけひきがあるので、単なる情報集めになってなくてぐいぐい読ませてすごい。
久しぶりに読んだらやばい(という扱いを受ける)イーナに、そういう人もいるよなあと感情移入して泣いちゃった。この十年ほどで、わたしもいろんな人がいることを知り、やばげな相手でも表面だけを見て批判したり、強い正論を言ったりできなくなった……。

榊林銘「毒入り火刑法廷」

毒入り火刑法廷といううみねこリーガルハイ。魔女がいる世界の、被告人が魔女であることを証明しようとする検事と弁護人の法廷バトル。被告人はふつうに魔女なんだけど、あらゆる手で容疑をくつがえしていく論戦がおもしろい。建物内の移動経路が焦点になりがちで、そんなもの覚えられるわけがないので、見取り図を印刷して読んだほうがいい。え、覚えられるの?すごい……。
登場人物の名前もなんか直感的じゃないと思う。。。「ダレカ」って子が出てくるんだけど、たぶん言ってもいいと思うんだけど、名前がうさんくさすぎて弁護人が用意した偽名かと思ったら、そのままダレカで定着したからびっくりした。
おもしろかったけどこれももうちょっとゆったり書いてほしかったかもな~。クライマックスよかったね。


片里 鴎「異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件」

魔法世界のファンタジーミステリ。異世界転生ハリポタみたいな序盤の展開から、なんか書いた犯罪だったか法だったかの卒業論文だったか(うろおぼえ)が評価されて王にまねかれて、クローズドサークル空間へ……。そして殺人が。
うーん、どうだろう。やっぱりクローズドサークルになっちゃうと、ちょっと。
やってることはおもしろい部分もあるけれど、そこまでかなあ。

卒業のための犯罪プラン/浅瀬明

独自のポイントが通貨として機能する大学。主人公の降町はポイントを稼いで単位を購入する必要にかられ、先輩の口利きで不正摘発監査の仕事をはじめるが……。
学生たちがポイント争奪戦をするコンゲームみたいなフレコミだったけどそんなことなかったw
学内の設定はおもしろいけど、話が薄かった。ビジネスアイデアと含蓄に富んでそうな会話がよく出てくるけど、大きな話があまり動かないのでビジネス書読んでるみたいだった。

「サロメの断頭台」夕木春央

ことしイチのやばミスだと思う。やばい……。
泥棒探偵と画家の大正シリーズだけど、「方舟」や「十戒」でやったこと(ロジックやシチュエーション)をさらに発展させたような印象。ミステリ星人のミステリなので、ミステリ星への移住を考えている人はぜひ。さいごひどすぎるけど、ぜったい笑っちゃうでしょ。




この記事が参加している募集

読書感想文

グッドボタン!(チャンネル登録もよろしくね)