2.17

旅の途中、廃墟を訪れたさい瓦礫の中でオルゴーリェンヌという本を見つけたので読んだ。海に沈んだ島。オルゴールを作る人々。月の音楽。そして悲恋。
「わたしをオルゴールにしてください」

あいかわらず序章がおもしろすぎる。序章のテイストでさいごまでいってほしかったが、やはり本編がはじまると本格ミステリのガラパゴス諸島へと旅だってしまう。ガラミスだ。
いろいろなものが詰めこまれているが、少年検閲官にある一部のネタよりは弱いと思う。だから少年検閲官のほうが好きだと昔も思ったことを、また思いだした。
この本でたいせつなのは全体像で、個々よりも引いた絵をみるべきなのだが、その一瞬のおどろきというのは、時間がたつにつれてうすれてしまう。細部を吟味すればするほど、全体があきらかになったときの鮮烈な印象はぼやける。やがてはじめて読んだときの驚きは解体され、体験のバラバラ死体が残った。
本格ミステリ作家はそんな、いずれ失われる一瞬のために祈っている。北山猛邦は人々が推理小説を忘れた世界で、百年、千年、一万年と祈り続ける機械だった。本格探偵小説の幽霊たちが成仏できるまで、ずっと……。

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