見出し画像

【人口3万人以下、中核市から20-30km】人口増加している市町村の特徴

兵庫県新温泉町の人口問題対策に関わる調査と検討なので、全ての町村の人にとって参考になる記事ではありません。あらかじめご了承ください。

日本は2008年に人口増加のピークを迎え、人口減少に転じました。
一方で、人口減少社会でありながらも人口増加している自治体があります。
有名なところで言えば千葉県流山市、和歌山県上富田町、兵庫県明石市、北海道東川町、長野県軽井沢町、沖縄県あたりがよく出る名前ですね。

都市部に近い自治体や人口がそれなりにある自治体とそうでない自治体では、人口減少についての感覚に大きな差があります。
日本の人口自体が2008年まで増加していたわけですので、そのあたりまでは増加していた自治体も多いです。しかしながら、地方(農村地域)は1950年代から人口減少を続けているような状況です。

今、世に出ている人口増加についての記事を見てみますと、農村地域も地方都市も中核市も一緒くたに「地方」として書かれています。

本記事では、非常に限定された地方の人にとって参考となる内容(当たり前すぎる内容かもしれませんが)となっています。
タイトルにありますとおり、「人口3万人以下」かつ「中核市から20km以上離れた」自治体における人口増加の可能性について論じます。



人口増加している自治体

まずは人口規模など関係なく、全国1741自治体で数字を見てみましょう。
こちらが2015年から2020年で人口増加している自治体のランキングです。
人口増加数でみると福岡市が1位のようですね。
東京都内の区が上位を占めています。
ちなみに政令指定都市20のうち12市がランクイン。中核市62のうち18市がランクインしております。

人口増加数ランキング


次に人口増加率のランキングを見てみましょう。
福島県が上位に並びますが、目を引くのはあの流山市ですね。
メディアにも非常によく出ています。
沖縄県も多いです。沖縄は県自体が人口増加傾向にあるので、福島と並びイレギュラーな立ち位置にあります。

人口増加率ランキング

上位だけでなく、下位も見てみましょう。
下図のとおり、322の自治体が人口増加(0以上)となっています。

人口増加率ランキング(プラスの下位)


人口3万人以下、中核市から20km〜の人口増加自治体

☑自治体の絞り込み(322→18→9)

人口増加した322自治体のうち、人口3万人以下の自治体は82でした。
沖縄県と福島県はサンプルとして扱うのが難しいため、除外すると、64自治体となります。

さらにそこから、中核都市(※1)から20km以上離れた(※2)自治体に絞ると、18になります。
※1 中核市は人口20万人以上の市ですが、ここでは中核市に準ずる市も含むこととします。
※2 近隣中核都市の中心地から任意の自治体の中心地までがおおよそ20km以上離れていることを地図上目視で確認

以下がその18自治体です。

人口3万人以下、中核市から20km〜の18自治体

特徴の調査にあたり、自治体が発行する人口ビジョン等の資料を見ていくことにしていたのですが、18は多いので増加率0.5%以下および人口5,000人以下(上表のピンクのところ)は候補から外したいと思います。

というわけで、正確には「人口5千人以上3万人以下、中核都市から20km〜、人口増加率0.5%以上」の自治体9つの調査となります。

申し訳ありません。
兵庫県新温泉町(人口1.3万人)のために開始した調査ですので、少し絞りました。


☑9つの人口増加自治体の特徴(個別)

人口ビジョン等で書かれている人口増加の要因を、簡単にまとめます。

長野県上伊那郡 南箕輪村
1965年から人口増加継続中。
信州大農学部のキャンパスがあり、20歳前後での転入超過。
先進工業団地があり、研究開発型の企業が数多く立地。
面積が40.99km²(385.4人/km²)。伊那市(6.5万人)、塩尻市(6.6万人)が隣接。

山梨県南都留郡 忍野村
1950年から人口増加継続中。
電気機器の世界的企業ファナック(1972年創業、従業員は連結で8,675人)の本社および工場群が存在。
面積は25.05km²(368.7人/km²)。富士吉田市(4.5万人)が隣接。

長野県北佐久郡 御代田町
1960年から人口増加継続中。
人気移住地である軽井沢に隣接。
軽井沢よりも土地が安く、住環境が良い。(宅地造成、アパート、社宅のある地区に転入者が多い。)
面積は58.79km²(264.6人/km²)。佐久市(9.7万人)、軽井沢町(1.9万人)が隣接。

北海道虻田郡 ニセコ町
1980年から人口増加ほぼ継続中。
季節労働者が多く、日本人だけでなく外国人も定住している国際環境リゾート都市。
面積は197.13km²(25.7人/km²)。隣接する自治体は小さな町ばかり。

和歌山県西牟婁郡 上富田町
1960年から人口増加継続中。
田辺市(人口6.7万人)が隣接。
近隣市町のベッドタウン。
企業誘致、スポーツセンター整備、巻き込みによる公民連携、教育と住宅の整備。
自然増減、社会増減ともにプラスである年が多い。
面積は57.37km²(265.6人/km²)。田辺市(6.7万人)が隣接。

長野県諏訪郡 原村
1975年から2010年まで人口増加。そこから減少に転じたが、2015→2020で人口増加。
別荘団地やペンション区画の分譲と福祉行政の充実。
移住促進策が効果を上げており、転入超過。
移住者の多くは村外出身者。特にシニア層の転入が多いが、10-24歳を除きの全ての年代で転入超過。
面積は43.26km²(177.5人/km²)。茅野市(5.5万人)、北杜市(4.3万人)が隣接。

千葉県長生郡 一宮町
1970年から人口増加継続中。
国内屈指のサーフスポット。移住者の大半が移住の理由をサーフィンと回答。
都心や千葉市から移住。
面積は20.02km²(594.3人/km²)。隣接自治体は小さいですが、約40kmで千葉市(97万人)。

長野県北佐久郡 軽井沢町
1970年から人口増加ほぼ継続中。
別荘により育まれた高い文化力と教育環境の整備。
リモートワークの環境整備と都心が遠くない立地のため移住者が多い。
面積は156km²(123人/km²)。高崎市(37万人)、安中市(5.3万人)が隣接。

宮崎県北諸県郡 三股町
1985年から人口増加継続中。
宅地開発により住宅事情改善。
隣接する都城市に比べて地価が安い。
20歳前後で転出超過であるが、その他の年代では県内からの転入超過。
面積は110km²(232.6人/km²)。都城市(15.8万人)、宮崎市(39.9万人)、日南市(4.9万人)が隣接。

☑9つの人口増加自治体の特徴(まとめ)


特徴を一言でまとめると…

長野県上伊那郡 南箕輪村 → 大学&先進工業団地!
山梨県南都留郡 忍野村 → ファナック!(巨大企業)
長野県北佐久郡 御代田町 → 軽井沢より土地安い!
北海道虻田郡 ニセコ町 → 観光産業!(外国人も定住)

和歌山県西牟婁郡 上富田町 → ベッドタウン!(子育て環境も)
長野県諏訪郡 原村 → 別荘地からのベッドタウン化!
千葉県長生郡 一宮町 → サーフィン!

長野県北佐久郡 軽井沢町 → 別荘からの移住!(高文化)
宮崎県北諸県郡 三股町 → ベッドタウン!

基本的に近隣中核市よりも土地が安く、住環境が良い
基本的に40年以上人口増加している(長野県原村を除く)
人口密度が全国自治体中央値の187.60人/km²以上(北海道ニセコ町と長野県軽井沢を除く)


☑その他の自治体の特徴

ついででいくつかの自治体の増加理由も調査しました。

千葉県 流山市(人口約20万人)
1950年から人口増加継続中。
人口43万人の柏市と34万人の越谷市が隣接。
東京駅まで電車で60分。
都内待機児童が問題となっているときに保育所を新しく建設した。
出生率は1.55(R2)
現在は子育て環境が良いイメージが定着。

北海道勇払郡 占冠村
人口減少している最中に2015→2020で人口増加。
星野リゾート トマム。(2005年から星野リゾートがリゾート地の単独運営開始)

秋田県雄勝郡 東成瀬村
人口減少している最中に2015→2020で人口増加。
成瀬ダム建設に伴う作業員の「一時的」移住。


まとめ

人口増加には「近隣中核都市よりも土地が安く、住環境が良い」が最低限必要というのが私の中での結論になります。
「土地が安く、住環境が良い」はいわばコスパの良さです。

試しに、私の住む兵庫県新温泉町(1950年代から人口減少中)と人口増加している町および近隣中核市との地価を比較してみました。
町の中心地をA、Aから車で5分以内程度の便利なB、Aから10分程度のC、Aから10分以上離れており袋道エリアのDで公示地価を比較。

表には、ABCDと各市町の地価があります。
上段は新温泉町、下段は人口増加自治体です。

注目していただきたいのは、赤枠部分の比較です。
人口増加している町のAエリアは、中核市のBエリアよりもしっかりと安いです。なので、中核市で仕事しながら、隣町で安い住居費で暮らすことができます。

一方で、新温泉町のA,Bエリアは鳥取市のBよりも高くなっています。
新温泉町周辺での居住を考えたときに、中核市から離れてたのに地価が安くない現象が起きてしまいます。ちなみに新温泉町はA,Bエリアに購入できる土地が少ないです。
ここで3人の脳内をシミュレーションしてみます。
👨新温泉町民「家建てたいなぁ。町内は土地の選択肢も少ないし高いなぁ。鳥取に建てよう。」
👨鳥取県民「隣町よりも市内の便利なところの方が安いので、市外に出る必要ないな。市内一択だ。」
👨移住検討者「新温泉町好きだけど、鳥取市街地に近くて便利なエリアの方が、選択肢も多くて安いからそっちに行こう。」


人口問題対策について、
子育て支援を良くすると、出生数が増え、移住者も増えて良いということが盛んに言われます。
各種メディアで人口増加する自治体に取材して得られる回答も「子育て支援を充実したから移住者が増えました」というものが多いです。

しかし、今回の調査で見えたのは、土地の条件が同様の町がいくつかあったとき、集客力があるのは子育て支援が充実している町ということではないかなと思います。
ソフト面でいくら支援しようとも、基本的には、住宅事情が良いという土俵に上がらないことにはゼロサムゲームで勝ちようがないように思えます。
なので、住宅事情に関して手の打ちようがないのなら、忍野村やニセコ町、一宮町のようなものすごい影響力のある資源が必要になります。


さいごに、
今回は人口増加に焦点を当てました。
人口増加で考えたときに効果のある施策と、人口減少対策で考えたときに有効な施策は異なると考えられますので、必ずしも子育て支援の充実が無意味だとは思いません。
※新温泉町は子育て支援策が結構充実してますが、兵庫県北部および鳥取県の子育て支援の水準が高いので埋もれがちなんですよねぇ。。。

人口減少対策に焦点を当てたとき、どのような施策が有効かはまた少し別のお話です。

「人口は減少しちゃうんだ、かなしいね」ではなく、
「人口が減少するのは仕方ないけど、幸せに暮らせる町でありたいね」のベクトルで考えたいです。



余談ですが、
本調査に関係するレポートがありますのでご紹介します。
一般社団法人 移住・交流推進機が民間企業に委託し調査したレポートです。
就業機会が人口変動に及ぼす影響 https://www.iju-join.jp/material/files/group/1/report5.pdf?fbclid=IwAR2hHtonZgS2gvxusONXQ2bcC-PyfhVOlI7o-jzGPnTt6IN2hIZbolBL7m0

よろしければ、サポートお願いいたします! 塾の生徒のためにクリエイティブな本を購入します。