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【コックリさん】作家・川奈まり子先生が学生時代に体験した奇妙な話

いよいよ今週末公開です。新番組『学級怪』。

昨日のいたこ28号先生に続いて、作家の川奈まり子先生にも番組を視聴頂きました。セーラー服!!先生、ありがとうございます!

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本日は、川奈先生が学生時代に体験した奇妙なお話しをご寄稿頂きました。ヒットを飛ばすプロの怪談作家さんがこのために書いて下さって本当に感謝です・・・!!是非ご覧ください。

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小学校の低学年までは近所の男の子たちと外遊びをするのが好きな活発な子でしたが、次第に絵を描いたり本やマンガを読んだりする時間が長くなりました。 

小4のときに八王子市に引っ越して、居間に父の蔵書の一部が置かれるようになってからは、その傾向が顕著になって、すっかり活字中毒に。 特に、居間の書棚の最上段にしまわれていた山田書院の『傳説と奇談 日本六十余州』全18冊にはすっかりハマってしまい、古典的な怪談と月岡芳年の怖い浮世絵が好きになったのはこのときからです。 

その一方で、中学のとき魔夜峰央先生の『パタリロ』がマン研の子たちの間で流行り、マン研部員だった私は、バンコランとマライヒがきっかけで耽美沼に落ちて「JUNE」や「ALLAN」を読みふけるように……。 しかしALLANでまつざきあけみ先生の怪奇マンガに出逢ったり、初期の魔夜峰央先生のホラー作品を探して読んだりしたことで、またしても怪談方面に引き戻されたのでした。 

この怪談志向が、中2の夏休みに父と2人で旅行した遠野でさらに重篤に陥った経緯については、拙著『迷家奇譚』に書いたとおりです。 

今も私の一部は、猫を抱いた隻眼のイタコが語るおしらさまを父の隣で聴き入っているようですし、あのとき泊まった旅館で座敷童子を目撃したのも忘れがたい想い出です。

そんなふうに耽美系の美少年とオバケに憧れる思春期を過ごしましたが、高校に入った頃から、美容院やヘアメイクのカタログなどでカットモデルのアルバイトをしたり、彼氏ができて恋愛の真似事をしたりするうちに、多少は現実にめざめていったのでしょう。 活字中毒はあいかわらず。 でもノンフィクションや人文系の読み物、詩集や哲学書など、さまざまなジャンルの本を手当たり次第に読むようになりました。 

仲の良い同級生数人と休みの日に集まってビデオ鑑賞しながら持ち寄った料理を食べる会を何度か開いたり、原宿のラフォーレやピンクドラゴン、渋谷のパルコを冷やかしに行ったりと、女子高生らしい遊びもそれなりにしていましたね。 お菓子づくりに開眼して、しょっちゅう何かこしらえていたのも高校時代。父が「あいつは菓子職人になるつもりか?」と心配していたと、後で母から聞かされました。

 学校の友だちや家族には内緒で、キャンパスノートに長い作文を書くようになったのもこの頃でした。 身辺雑記や小説的な散文をだらだら書いていましたっけ……。いわゆる黒歴史ですが、あまり面白い内容だったとは思えません。 平凡な学生だったのではないでしょうか。 成績は真ん中ぐらい。絵画展で入賞していたのも小中どまり。

そんな風にパッとしない高校時代、唯一、髪型だけはカットモデルをしていたせいでパンキッシュで目立っていました。 刈り上げがどんどん極端になっていって、とうとう頭のてっぺん以外、全部ゾリゾリになってしまった時期があり、そのときはクラスメイトから「栗」って呼ばれました。 長く残ったてっぺんの髪の毛をゴムで結わえたところ、後ろから見ると栗みたいになっていたようです。 

15歳の頃、カットモデルとしてヴィダルサスーンのコンテスト国内決勝戦の舞台に立つことになり、いつものようにその辺のスタジオでやるのかと思っていたら、両国国技館だというのでビックリしました。

そのとき私の髪をカットした女性の美容師さんがなんと優勝して、ヴィダルサスーン本店のあるロンドンに留学したんですよ。 彼女が『八王子怪談』を読んだといってSNSで連絡してきてくれて、近々、三十数年ぶりに再会することになったのですが、聞けば離婚されたとか……。 彼女の夫も美容師で、私が学生の頃は、八王子駅の南口付近で夫婦で美容室を経営していたものです。 夫氏が美容室の店長、彼女が副店長でした。

そうそう、高1だったと思うのですが、あるとき、カットモデルのバイトが終わってスタッフのみんなとお弁当を食べていたら、店長が急に変なことを言いだしたのです。

「僕はUFOが呼べるようになったんだ!嘘だと思うなら、みんな屋上においで」

 思うならって、いや、それは絶対嘘でしょ? と内心呆れていましたが、とりあえず2人ばかりのスタッフさんと一緒にノコノコ屋上についていくと、店長がいきなり「ベントラー、ベントラー!」って夜空に向かって叫びだすじゃありませんか。

両手を上に突きあげて、いい歳をした大人が……。正気の沙汰とは思えませんでした。 でも、そうしたら何処からともなく、コウモリの大群が飛んできて屋上で低空飛行しはじめたのには驚きましたね。 UFOは現れませんでしたが、「ベントラー」でコウモリが来た。そんなことがありました。


中学1年生のとき、こっくりさんが流行りまして、昼休みや放課後にこぞってこっくりさんをやるようになりました。

 最盛期には教室に4つぐらいこっくりさんのグループができて、みんなで真剣に「こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいましたら……」と唱えていたのですから、今にして思えば奇妙な光景ですよね。 


ピリオドが打たれたのは2学期の始め頃だったでしょうか。 昼休みのことでした。 9月の、まだ暑い日が続いている時季でしたが、風が爽やかで、空は真っ青に晴れ渡っておりました。

朝から何も変わったことはなく、また、前の日までに何事かが起きたという記憶もありません。けれども、そのとき一緒にこっくりさんをしていた女子のひとりが、急に奇声をあげて窓に向かって突進していって、開いていた窓から飛び降りたのです。 ――まず、なんの前触れもなく「キェーッ」と突然叫びながら、勢いよく立ちあがった。 そのときの顔つきが異様でした。

白目を剥き、顔中の筋肉が引き攣って、パカッと大きな口を開けていて。 私は呆気に取られてしまいました。 私だけではなく、居合わせた子たち全員、固まってしまった。 そのため、窓に向かっていく彼女を誰しも追いかけそびれたのだと思います。 

落ちた直後にハッと我に返り、みんなで慌てて窓から下を見ると、幸い窓の下に昇降口の庇が大きく張り出していて、彼女はそこに着地して無事でした。 でも、そのようすが、やはり変なんですよ。 庇まで2メートルは優にありました。 うまく着地したとしても、すぐに立ちあがって悠々と歩きまわっているのは、如何なものでしょう?

 やや猫背になって、檻の中の熊みたいに、右へ左へ、無言で往復を繰り返しています。 庇から地面に飛び降りようとしているかのようにも見えました。 そのうち誰かが呼んできたようで、先生がわらわらと駆け寄ってきました。 昇降口の下で待ち構える先生方や、梯子を持って駆けつける用務員さん。 私たちの教室の窓から庇に降りて捕まえようとする先生方。大捕り物です。 

結局、窓から庇に降りた体育の先生が彼女を捕まえて、他の先生方と協力し合って梯子を下ろさせて事なきを得ました。 ひとまず彼女は保健室へ。迎えに来たご両親の車に乗せられて、帰っていきました。その背中を他のクラスメイトたちと見送った覚えがあります。 庇を歩いていたときのまま、猫背で、うつむきっぱなしでした。 

ふだんの彼女は、元気溌溂として体格も良く、背中を丸めているところなど見たことがなかったのですが。


 以後、私の中学ではこっくりさんが禁止になりました。 ところが、それから間もないある日のこと、朝礼のときに、ふと気づくと、その子がまた昇降口の庇の上を歩きまわっていたんですよ。 さっきまで列に並んでいたはずでした。 私の5人ぐらい前にいて、並んでいる姿をたしかに見たのに。 

だけど、誰かが「アッ」と叫んで昇降口の方を指差したら、庇にいるじゃないですか。 わけがわかりませんでした。 ――再び大捕り物が、こんどは全校生徒の前で繰り広げられかけました。 しかし先生方が、さすがにそれはまずいと思ったのでしょう。 すぐに生徒はみんな教室に追い立てられました。そして私が教室に着いたときには、もう、彼女は庇から下ろされた後でした。

 その日は早退して、翌日から彼女は欠席しました。 みんなで気を揉みましたよ。「お祓いを受けたらしい」とか「精神病院に連れていかれたんだって」とか、無責任な噂も流れましたし……。 

……真剣に心配するのではなく、クラス全員が軽躁状態に陥って、怖がっているとも面白がっているともつかない、興奮に包まれていたように思います。

 しかし、一週間ほどして、彼女が何事もなかったかのように登校してくると、みんな次第に落ち着きを取り戻していきました。 運動会も、近かったのです。 昨今は5月に運動会を行う学校が多いそうですが、私の頃は10月でした。 11月には文化祭もありますから、やることがめじろおしで、秋は忙しなく過ぎていきました。 だから彼女の噂を囁く声はみるみる低くなっていったわけですが……。 


ただね……。

彼女、教室では、通路を挟んで私の左斜め前の席だったのですが、授業中、ときどき彼女の机の脚が、ほんの1センチ程度なのですが、床から浮いていることに気がついてしまったんですよ。 4本の脚の先がどれも同じ高さで、並行に宙に浮いている。 揺らがずに、空中に固定されているようでありました。

彼女は平気で机に肘をついたり、ノートに鉛筆を走らせたりしているのですから……。 ほんのわずかだから、私以外誰も気がついていないのか、それとも……。 私と同じように、それについては沈黙していた……?

 誰にも指摘されないまま、その学年の間はずっと、彼女の机はときどきそんなふうに浮かんでいました。 2年生に進級するときクラス替えがあって、別の組になったので、後のことは私は存じません。 この一連の出来事については、長らく忘れていましたが、何年も後に、成人してから戯れにこっくりさんをやったときに突然思い出して、それからなぜか頭を去らなくなりました。

 ――彼女が飛びだした後の窓が怖いほど青い空に覆われていて、白いカーテンが風に大きく翻った、そのとき。 ――机の脚の先に嵌めたゴムが、床からジリッジリッと浮いてきて、指一本ほど隙間を空けて宙に停止する、その瞬間。 

そうした断片的な、しかし非常に鮮やかな情景が心の隅にいつでも控えていて、不思議とは何か、怖いとはどういうことかを考えるたびに、「これだよ」と私にそっと教えてくれるような気がするのです。






先生、ありがとうございました!

★新番組『学級怪』

▼映画館の大スクリーンで上映イベントがございます!
・日程 :11月19日(金) START 19:00
・場所:池袋HUMAXシネマズ
・料金:3,000円(別途ワンドリンク代500円 ※特典のステッカー付)
・登壇者:田中俊行・早瀬康広・深津さくら・吉田悠軌
・チケットは以下よりご購入下さい

ファミリー劇場CLUBでは11月20日(土)より配信スタートです。

今日も最後まで読んで頂きありがとうございました。

オカルトエンタメ大学 運営代表・小柳

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