神隠しが必要
先日公開された山口敏太郎先生の「神隠し」に関する授業はご覧になられたでしょうか?
半年以上ぶりの山口先生。一時期、体調を崩されていましたが元気になられたようでホッとしております。
現代を生きる人々にとって”神隠し”は、ほぼファンタジー用語です。
「天狗や鬼がどこかにいて異世界に連れ去ってしまう!」
そんな事を信じている人は、まずいないでしょう。それよりも行方不明・失踪・誘拐などのリアルな事件性を想起する人がほとんどかと思います。
しかし、神隠しという言葉には謎の魅力があります。映画『千と千尋の神隠し』の影響もありますが、怖さよりも、懐かしさ・淡さ・儚さ・切なさなど。どこかロマンやノスタルジーを感じてしまうのは私だけでしょうか?
そのためなのか、意味としては死語になっても表現や響きは全く色褪せない。そんな不思議な魅力を神隠しという言葉は持っています。
ここからは非常に個人的な話となります。
私は犬を飼ってます。今年の12月で12歳になる柴犬です。だいぶ年を取りました。長年付き添う相棒であります。
3月頃に癌が発見されました。急ぎ放射線治療を受けて今は落ち着いています。しかし再発の可能性もあるようで油断禁物です。
近所を散歩などで歩いていると、よく電柱に「行方不明犬」のチラシが貼っているのを見かけます。犬を飼っている人なら分かるかと思うのですが、このチラシを見ると心が激しく動揺します。
もし自分の犬が行方不明になったらどうするか?
恐らくYouTubeの更新はストップせざる得ないでしょう。仕事をするプロとして失格かもしれません。しかしまだ私のような未熟者には平然とした態度で仕事を続ける事は出来ません。
そして色々と嫌な事を想像するでしょう。
寒い中ご飯も食べれずやせ細っているのではないか?
誰かにさらわれたのではないか?
まさか車に轢かれて・・・。
そんな時に、もしも“神隠し”という現象を信じる事が出来たならば「犬には会えないけど神様の元で暮らしているはず」「会えないけど、どこかの世界で元気でいるはず」という安心を得る事が出来るかもしれません。
そしてどこかで諦めがつくかもしれません。
行方不明や失踪事件において、残された者が最もキツイのは「無事かどうか?」という安否確認が出来ない事なのではないかと思います。人間は分からないことが一番の不安なのです。
かつての農耕社会では当たり前のように受け入れられていた神隠し。大切な家族や子供が突如いなくなっても、神隠しという言葉があれば「ここではないどこかで神様や天狗と一緒に暮らしているはずだ」と思えることが出来たのかもしれません。
つまり、精神的な安心を多少でも得る事が出来る力を神隠しはもっていた。だからこそ神隠し信仰は根強く、今でも人々を引き付けるのではないでしょうか。
現代では、身内・恋人・友人・愛犬などの失踪に直面しても精神的な安心材料はありません。
リアルで残酷な現実と向き合う以外に方法はないのです。そこには淡さも儚さもありません。あるのは絶望のみです(もちろん当時の農耕社会もそうだったと思いますが・・・)
よく陰謀論の世界では、この世を陰から操る世界統一政府や秘密結社が登場します。これは「自分の人生が辛くて苦しい理由」の答え(原因)を作り出す事で、どこか自分を安心させる効果があるからではないかと考えられています。
人間は分からない事が一番不安で一番恐ろしい。「人生が辛いのは自分ではない誰かのせいである」という陰謀論思考は、すぐに答えを求めたがる人間の性質を考えれば見事にマッチしていると言えるでしょう。
私も犬がいなくなったら自分を責めると思います。どうしてちゃんと見てやらなかったのだろう?と。
そして答えとなる原因が分かれば、良くも悪くも進むべき道が見えてきます。それが陰謀論であれば、陰謀論に身をゆだねる事で、(いるかどうか分からない)悪の組織を打倒したり批判する事に人生を費やせば良いのです。何もせず不安に苛まれ自分を責め続けるよりは、よっぽど精神的には気楽です。
近代科学はオカルトの正体を次々に暴いてきました。科学は人々を健康にして、長寿にして、世の中を便利にしてきました。ですがその反面、オカルトが不可思議なままであった方が実は幸福なのではないか?と思う場面がいくつもあります。
私は(全てとは言いませんが)陰謀論などはかなり否定的です。しかし神隠しは「あった方が良い」オカルトの一つだと考えます。
神隠しを信じる事が出来なくなった現在、自分の力ではどうする事も出来ない辛い現実を、どのようにして受け止めればいいのか?まだその答えは出ていません。今こそ他人を傷付けず自分を癒す、そんな優しいオカルトが必要なのかもしれません。
今日も最後まで読んで頂きありがとうございました。
オカルトエンタメ大学 運営代表・小柳
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