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活字で食べるごはん 四国編

2023年GW、どこもかしこも信じられない密度で賑わっていた。目的地の四国へ到着する前から「ぜったいに食べたいものは押さえつつ、あとは直感と運命に従う」と早々に諦めた。負けるが勝ち。

《旅程》
初日 夕方の新幹線で移動、神戸泊
2日目 フェリーで香川へ移動、高松泊
3日目 レンタカーで愛媛へ、松山泊
4日目 レンタカーで高知へ、高知泊
5日目 夜の飛行機で帰途
宿泊地を毎日移動する攻めプラン。日数がどうにも足りず、比較的行きやすい徳島は今後のお楽しみにとっておくことにした。

初日に新幹線駅へ向かう時点で、ぎゅうぎゅう詰めの電車に乗り込む。ひと区間だが荷物が多いのでしんどい。うわあ、これが満員電車か、と子どもたちが興奮を見せる。私は狼狽えた。休みにわざわざ混雑に突入し、疲れて帰ってくる未来、ヤバすぎる。そうして冒頭の諦めに至る。

活字で食べるごはんとは、その名の通り文字で記録するごはん。いつか読み返してもぐもぐ食べるためのもの。

今回は、狙っていた名物とその土地に全く関係ないものと期待値超えと想定外が組み合わさった壮大な番狂せ。せっかくなのでランキング形式で書き残す。

優劣ではなく、私の舌の感覚のため順位は書かない。けれど下に行けば行くほど、個人的においしかったものたち。つらくなったとき、自分で読み返してフルコースをいただくのだ。

松ちゃんの餃子

高知と言えば屋台の餃子。以前にテレビで広末涼子が紹介していた松ちゃんの餃子。夫が食べたい!と熱望していた。

商店街をぶらぶら歩いた後、つかれた〜ホテル帰る〜という子どもたちに漫画1冊ずつとタピオカミルクティを買い、ルンルンモードに回復させる。そう、子どもの成長により、機嫌がお金で買えるようになったのだ!私はビールを、夫は松ちゃんの餃子をテイクアウトで手配。ほんとは屋台で食べたいが、落としどころはここだろう。

泊まっていたホテルはめちゃくちゃ部屋が狭くて、しかしコネクティングルームで二手に分かれられる。子ども達はベッドでゴロゴロ漫画を読み、大人たちは餃子にビールで乾杯!けたけた笑う子どもの声を聴きながら飲むビール、さいっこう。

屋台料理とあって味は濃いめ、揚げ焼きなのでカリカリしていてスナック菓子のよう。ビールが進む進む。時々息子が餃子を食べにやってきたり、ベッドに横になって休憩したり。とても自由でおいしかった。

次は屋台で食べたい

竹清のひやかけうどん

高松に着いたのが昼過ぎだった。急いで向かった竹清は14時半が閉店時間。店先に50mくらいの行列が出来ていて、ひるむ。

夫に並んでいてもらい、近くのさか枝うどんへ様子を見に行くも、こちらは完売のため営業時間より早く閉店。世知辛いものだ。しょうがなく小さな公園でシーソーしたりした。小学生と中学生が仲良くシーソーに跨がる、かわいい写真が撮れた。ゆっくりと店に戻ると意外にもすぐ順番だった。

時間が遅かったので、天ぷらはちくわ天と半熟卵天以外売り切れ。それでも十分にありがたい。先に天ぷらを注文し、みんなうやうやしく天ぷらのお皿を持ってうどん列に並んでいるのがおもしろい。

プラスチック容器に入った冷たいお出汁をかけて、いざ。出汁はさっぱりと優しい薄味で、麺はもっちりしているが歯切れが良く爽やか。卵の天ぷらからとろりと流れた黄身を麺と絡め、ずずずと食べる。讃岐うどんに求める、模範回答の味だ。

息子は、丸亀製麺のほうがうまいと仰せだった。息子のそういうところが好きだ。

かんぺき

あまくま堂のルーロー飯

高知にて、タダノヒトミさんが教えてくれたあまくま堂。大きなJAに寄った後、大雨に見舞われた。近くの芋屋金次郎のカフェにでも行こうか、と移動した先でふと思う。

私は、甘いものが食べたいのか?
ここは、あまくま堂の近くである。お腹はさほど空いていないが、気合いで食べられなくは無いのでは?

「ちょっと私、カフェはいいからその間にごはんもっかい食べてきていい?」とんでもない打診をまじかと笑って快く受け入れてくれる家族のありがたさ。雨の中、急いで向かう。

小さなお店のカウンターに腰掛けて、悩んだ末にルーロー飯。台湾のソレとは違うが、わくわくする見た目。

肉は角煮のようなずっしり感で、ほろほろと柔らかい。玉ねぎときのこを炒めたのと、ピンクの大根、きゅうりのお漬物が乗っている。煮卵を崩しながら、ごちゃ混ぜにして食べる。うまい。

タイ料理屋さんでよく見かける、4つに分かれた調味料の容器に、青唐辛子の酢漬け・青唐辛子のナンプラー漬け・粉唐辛子(あと一個忘れちゃった)が入っていて、酢漬けをパラパラと肉の上にかけて食べた。

からい、おいしい!あ〜からい!気がつけば平らげていた。お腹がぽかぽか、おいしかった。

たのしいルーロー飯

居酒屋の骨付鳥

香川の夜、狙っていた居酒屋はどこもホテルから離れている。まあ近場で骨付鳥が食べられればいっか、と適当な焼き鳥屋へ。

正直なところ、焼き鳥やサラダはあんまりだった。おいしいけど、まあ、ふつう。だからこそ、最後にやってきた骨付鳥に安堵した。

山賊焼きのようなサイズのジューシーなお肉をハサミで切り分け、せーので一口。じゅわっと肉汁がしたたり、しっかりと胡椒が効いている。ひな鳥だからか、柔らかくて食べやすい。

名物料理って、ハズレがないよね。香川に来たぞ!!という満足感とともに、豪快なお肉と冷たいビールをいただいた。

骨の周りがいっそううまい

瀬戸内ジェラートMAREの和三盆ミルク

こちらも香川。フェリーでもジェラートを食べたのだけど、せっかくだから…と商店街でもう1回。私は和三盆ミルクを選んだ。

まっ白で美しいジェラート。ああ、旅先で食べるアイスクリームはなんておいしいんだろう。歩き疲れた体に、すうっと溶けていく。ミルクの優しい甘さが口に広がる。

家族でひとくちずつ分け合い、互いのジェラートをただ褒め合う。思い出すだけでほっとするような、良い時間だった。

おまけでつけてくれたいちご味がかわいい

麺や倉橋のチャーハン

仁淀川でカヌーを楽しんだあと、立ち寄ったラーメン屋さん。ラーメンもおいしかったけれど、なぜだかチャーハンが妙においしかった。

見た目は素朴で、期待していなかったので写真すら無い。卵、ネギ、ハムのかなりシンプルなチャーハン。さみしい印象すらある。

けれど、れんげで掬って口に入れると、白コショウが効いていて止まらなくなるおいしさ。チャーハン好きの娘が、目を見開いて絶賛している。ネギ油だろうか。食べ慣れた味覇的なうまみ調味料の味ではなく、深みのある自然な味。

写真が無いので醤油ラーメンを貼っておく。こちらも川遊びで冷えた体が震えるおいしさだった。

メンマは太いほど良い

手作り豚まんの店Oopsの豚まん

こんぴらさんの帰り道、ザ・観光地なごはんもそれなりに楽しかったけれど、やはり心は動かない。お腹が膨れて良かったね、という程度。

そんな私の心の穴をピタリと埋めてくれたのが、参道から歩いて5分程度の場所にある肉まん屋さんだった。はじめは息子が食べたいと言い、夫と娘も便乗した。私はそんなにお腹が空いていないから、写真を撮るね〜と言っていた。かわいい感じのお店だったから、ほんとうに皆を撮る係に徹するつもりだった。

が。おまたせしました、と手渡された肉まんを夫に渡すときにドキッとした。あっつあつの提供、もっちりした見た目、肉まんの下に引いてある皮の感じ。ひとくち食べて、夫がうまい!と唸る。

私も夫に飛びついてひとくち。うう…うまい。黒いチーズカレー肉まん。生地の感じも好き、具も手作り感があり、ちゃんとしてる。思わず、私は角煮まんを追加でオーダー。「お好みで、にんにくポン酢をかけてくださいね」なんて言われちゃって最高。お腹すいてないという発言が恥ずかしくなるくらい、ぺろっとたいらげた。

こんぴらさん、行ってよかったねー!!という気持ちになった。肉まん詣で。

左がカレーまん、右は塩豚まん

食処おがわの牛タタキ

神戸についた夜、私たちは夕食難民だった。妥協はしたくないけれど、狙っていた餃子屋はどこも満員で門前払い。もういっか〜何か買うか、チェーン店でも入る?と会話しながらホテルに戻る道すがら、「食処おがわ」の看板が目に入った。

おがわ?おがわ!おがわだ!
私は料理家の今井真実さんを信仰しているのだが、以前神戸に行ったときにTwitterで教えてくれたのが居酒屋のおがわだった。

恐る恐る暖簾をくぐると、テーブル席に通してくれた。家族連れ4人で申し訳ない。

牛タタキは大変に美しく、卓に来た瞬間から「おいしい」と思った。薄切りの牛肉はピンク色に輝き、貝割れやもみじおろし、ガーリックチップが添えられている。

娘が食べて「え、やば、こわ」と言った。娘の「こわ」はおいしさを表す最上級である。口に入れると香ばしさが広がり、疲れが一緒に溶けていく。

鉄火巻やコロッケも大変おいしかった。息子は疲れて半分寝ていたが、茶そばをズルズルすすって回復し、なんとかホテルまで歩いてくれた。

圧倒的な美

コンフォートホテルのオリーブごはん

コンフォートホテル高松の朝食メニューが、まさかのランクイン。

前提として我が家はコンフォートホテルが好き。愛していると言っていい。コンフォートだけでほんとはnote1本書ける。

・小学生まで添い寝無料だから安い
・トリプルルームなら家族全員で泊まれる
・朝ごはん無料なのでつけるかどうか迷わない
・朝ごはんにスムージーがある
・朝ごはんにその土地のメニューがある
・たいていyoutubeが見れる
・たいてい立地が良い
・場所によっては新しくて設備がきれい(場所による)

最高である。だから、香川では早朝に松下製麺所のうどんを食べに行って、ホテルに戻ってからコーヒーだけ飲みに行った。朝ごはん自体は正直ふつうのビジホビュッフェ。お腹いっぱいなら、飲み物だけでいい。

けれど、オリーブごはんがふと目に入った。
私はブラックオリーブに目がなくて、普段から瓶詰めを際限なく食べる。好奇心からひとくちだけ食べようと大きな炊飯器を開けてみる。ぶわり、立ち上る湯気とグリーンオリーブが刻まれたかわいいごはん。

なんだか妙においしそう。グリーンオリーブは時々苦手だから、小さなお皿に茶碗半分くらいよそった。小さなスプーンで、まずはひとくち。

えっっ
えっ?!
うま

オリーブオイルと、オリーブの旨味、なんだかサフランライスみたいな…なんだろうこれ。グリーンオリーブのクセは一切ない。

思わず辺りをキョロキョロと見渡す。みんななんの変哲もないパンやワッフルを皿に積んでいる。オリーブごはん、めちゃくちゃおいしいのに!!!怒りすら感じながら、とりあえずおかわりして食べた。お腹パンパン。

周りは誰も興奮しておらず、私にだけおいしいのかもしれない。この日から私は、道の駅でも土産屋でもオリーブごはんの素が売っていないか探す人間となった。(売ってなかった)

こう見えておいしい

ひろめ亭のカツオの塩たたき

最後は、この旅最大の目的であり、私の人生でも5本の指に入る塩たたき。結婚前、23歳のときに夫と訪れた場所。

思い出補正が入っているかもしれない。彼氏とブラック勤務から解放されての旅行、ひろめ市場はフードコートみたいな居酒屋の楽園で、近くに座った陽気なおじさんや老夫婦との楽しい会話、唸るほどおいしいカツオの塩たたき。帰り道にスキップしたくなるくらい、楽しかった思い出。

17年の時を経て、ついに…!と夜のひろめ市場に突撃したら、超満員で席が無く、お目当てのやいろ亭も90分待ちだった。ゴール目前でのリタイアは、あまりにも悔しい。

そこで翌朝、10時オープンに1番乗りで並んでリベンジ。8時台から並んだ甲斐があり、2番目に購入できた。その価値がある、舟盛りの美しいカツオ!強めに塩が振ってあり、薄切りの生ニンニク、わさびを乗せて食べる。

厚切りのカツオをそおっと箸でつまみ、ニンニクとわさびを乗せ、いざ。じゅわっと柔らかく、香ばしく、ニンニクとわさびが爽やかに追いかけてくる。朝10時だけど生ビールも飲んじゃう。あああ〜期待していたけど、その期待を上回るうまさ。記憶を超えてきた。

夫もう〜んうまいと唸り、娘は「やっば、こっわ」と言う新たな最上級表現で目を丸くしていた。死ぬまでにもう一度食べたいなあ。

これを食べるための旅だった

***

旅は無礼講。
家族でたくさん歩き、それを理由にたくさん食べた。人生の楽しさを凝縮したような、しあわせな旅だった。ごちそうさまでした。

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