ただいま、くすぐったい春
バスに乗り、どこかくすぐったい気持ちで鴨川を目指す。ずっと昔、あの頃は自転車だったけれど、同じように落ち着かなかった。
朝早く、1Kの部屋のままごとみたいなキッチンで、コンロとシンクの間に無理矢理まな板を載せ、パンの耳を切り落とした。前日から試行錯誤した照り焼きチキンのサンドイッチを100均のタッパーに詰め込んだ、あの日。私はまだ高校を出たばかりだった。
久しぶりに鴨川に集まるというだけで、どうしてくすぐったいのだろう。膝の上に抱えた和菓子の包みが、ちょっと場違いに思えてくる。あのいびつなサンドイッチから、随分と大人になってしまった。いや、大人のフリをするようになってしまった。
薄い小さな花びらが、ひらひらと私たちの髪に降りてくる。川の水面が、きらきらと光る。そのうち裸足になって、砂の上でバドミントンをするのだろう。まだ覚束ない私を、街が迎え入れてくれたように思った。
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