桜の木の下には

死体が埋まっている、だから桜の花びらはあんな色をしていると、昔、無責任な誰かが言っていたのを思い出す。

面白くなるという目標を掲げたがなにも成し遂げられず、何も変わらず、ひょんなことから自分がかつて「おもしろい」と思った人と出会ったが、かつては、かつてだったと思い知り、僕は素の彼に何の興味もなかったことにも気が付いた。

桜の木の下には頑丈な根が伸びているに決まっているが、何本かに一本は僕のようなつまらない人間の独り言が埋まっていると思う。ほぼ死に体のような、人間の独り言が。

かつて「おもしろい」と思った人から、一緒にやろうと言われた。が、断った。立ってるだけでいいと言われても、そういうことじゃない。
ただ漠然と面白くなりたいと思ってるだけだ。

それに今の彼は僕がすごいと思ったあの時の彼とはまったく違っている。

捨てられる前に捨てた、ってすごく寂しい言葉だと同情しかけたが、結局は僕のアイドルが拾いあげたのだからなんだか不思議な気持ちになる。

拾われるあてのある人はいいなあ。
僕がもし人との関係を捨ててしまったら、そのままゴミ箱ゆきだ。入るゴミ箱はあるのか、
果たして僕自身は可燃ごみの部類なんだろうか。
だったら燃えるようにたぎっていきたいものだ。

世に出ている人が、何年か経ったのち、あの時は無理をしていたなどと話しているのを見る。
僕も本来の彼とかけ離れたものを「おもしろい」と思ったのだから、無理をしているその人が好きだったことになる。

簡単に言えば、今の彼に何も興味はないということだ。

おもしろくなりたいが、漠然すぎるのか。  

どうしようもない本音を桜の木下に隠す。
花びらと共に散ればいい。
僕のつまらぬ目標なんて。

僕の夢は、また一つ遠のいた。

気がついたら、紫陽花の季節になっていた。