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【俳句鑑賞】一週一句鑑賞 24.05.05

家々の隙間に川や鯉幟

作者:古田秀
出典:愛媛新聞 青嵐俳談 21.06.04

季語は「鯉幟(こいのぼり)」で、初夏。五月五日の端午の節句において、子どもの成長・出世・健康を願って立てる鯉の幟です。江戸時代から続く伝統行事ですが、令和現在でもポピュラーな風習であり、親しみやすい季語のひとつと言えるでしょう。

掲句の魅力は、なんといっても映像喚起力の高さ。それも、緻密な描写の言葉があるわけではなく、引いたカメラで集落全体をおおらかに映しているだけにも関わらず、その中身までくっきりと見えてくるのです。こういう句を僕は「絵画的」と評することが多いのですが、文字しか見ていないのに光景が目の前に立ち上がってくるこの感じは、やはり俳句の持つ大きな魅力のひとつだなあとしみじみ思いますね。

「家々」ですから、複数の家が建っていて、その「隙間」ということで、家・隙間・家・隙間・家……という映像がまず浮かんできます。この時点では都会の感じもしますが、隙間にあるのは「川」と分かり、郊外の鄙びた集落に映像が確定していきます。「間」ではなく「隙間」という狭さ、それにともなって川幅の小ささも分かり、この集落がどの程度鄙びたものであるのか、これだけの措辞でしっかり伝わってくるのです。「川」と言いつつ、生活用水を流す、あるいは農業用の水を引くような、細長い水路なのかもしれませんね。
そこを所狭しと泳ぐ「鯉幟」たち。「家々」ごとに個性があり、隙間に川があればすなわち「鯉幟」もそよいでいる。鄙びた光景に彩りが生まれ、集落の健康を伝えます。ここにも豊かな暮らしがあり、家があれば家族があり、子どもがいて、みんな元気に育っているのです。それだけで、読者であるこちらも幸せになれるような気がします。

令和のいま、子どもの健やかな成長を願う「鯉幟」という文化は、ますます尊いものになってきていると感じています。今日も全国各地で多くの「鯉幟」が揚げられることでしょう。仰ぎ見て、願いをともにする、大人としての思いを新たにする、そんな一日にしようと思います。

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