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#14 シナイ山で死にかけた話⑨

シナイ半島で乗り換えたワゴン車は、片側に砂漠地帯、片側にゴミひとつ無い真っ白な砂浜とエメラルドグリーンの海という風景の中、進んでいきます。
 
すし詰めに近い車内と、現地の方の濃厚な絡み、それらに気を取られていましたが、目の前には神々しい光景が。

晩年のキリスト

高い鼻梁と窪んだ眼窩と青、いや緑の瞳、比較的小柄な白人男性。
 
金髪と茶色の中間色の髪はウエーブのかかった長髪でペタッとセンターで分かれ、同色の無精ひげ、服装は現地の民族衣装である白いガラベーヤ(単なる布か?)を独自に着崩したスタイル。
 
いわゆるヒッピーの白人男性、しかしその姿は晩年のキリストを彷彿とさせる。

今まさに大麻かケミカルドラッグでキマっているのか、過去からの蓄積で常にある程度飛んだ状態が続いているのか知りませんが、キリスト(仮)はトロンとした目で私を見ています。

しばらくするとキリスト(仮)はおもむろに腕を私の顔面20cmくらいに突き出し、指を影絵のキツネのような形にします。

何か危害を加えられるのか、宗教儀式的なものが始まるのか、指から白い粉でも出すのか(サイババ)と身構える。
 
キリスト(仮)は息を吸い込み腹に力を蓄えている。
 
や、やばい。
 
次の瞬間キリスト(仮)の口が開きます。
 
「がちょ~~~~~~~~~ん!!!」

腹式呼吸の発声、そして手を前後に揺らします。
 
41歳の私でもリアルタイムでは知らない谷敬の往年のギャグである。

先日今の大学生は有吉を知っていても猿岩石は知らないという事実に驚愕したので、「ガチョーン」は到底知らないと見越して、若い読者のためにリンクを貼っておきます。
 
※念のため音量注意
 
https://www.youtube.com/watch?v=MR4k4g2QEVQ
 
こう見るとちょっとちゃうやんけ!

もうええて再び

これも海外あるあるです。

海外で日本人相手に商売をする人や、日本人と接触する機会の多いバックパッカーは、過去会った日本人から対日本人向けの「掴み」のギャグを自ら入手していたり仕込まれているケースが多々ある。
 
大体何世代か古いケースが多く、私がバックパッカーをよくしていた20年前であれば、ビートたけしの「コマネチ」であったり、志村けんの「アイーン」であったりしました。

キリスト(仮)のドヤ顔。
 
正直勘弁してよ&面倒くさいしかないのですが、外国人が日本のギャグを覚えてくれる精神性は下心があろうと嬉しいので、それなりに愛想よく対応します。
 
そうすると味を占めたのか、いやそんなことは関係ない人がほとんどですね、、、キリスト(仮)は10分、20分おきに、うっかり目が合う度に、
 
「がちょ~~~~~ん。」
 
をかましてくる。
初回よりは気合いが入っていませんが。
 
こちらも段々苦笑いの度合いが強くなってきますが、お構いなし、ワゴン車が到着するまでひたすら続きます。苦痛でしかない。
 
もう、ええて!!!
 
もっとトレンドのギャグを伝授してやろうかとも思うものの、次会った日本人の二次災害とこちらのメンタリティー的にもその気力はおきません。

記憶はインドへ

各国で類似案件はありますが、そういえばインドでもこんなことがありました。
 
あれはインドにニューデリーから入国し、途中下車をしながらカルカッタに電車で向かう道中。
 
今はどうか知りませんが、当時のインドはお前絶対切符買ってねえだろ勢でひしめき、電車の中、中心の通路では乗客が七輪で何かを焼いて食事をするようなカオス状態です。

長距離移動の私は奮発して購入した寝台車両の指定席へ。
 
するとその席にはすでに4人くらいのインド人が座っている。
 
あれ?ここじゃないかな?と思ったが、何度確認しても間違っていない。
 
「あの~、ここワイの席なんやが・・・」
 
するとインド人たちは全員詰めて少し隙間をつくる。
 
「おお、そうか。ほい、座りや!」
 
全く悪びれがない。
 
なんでやねん!!そう思いながらも大人しくその隙間に収まる。

インド版もうええて

全然納得のいってないまま、恒例の濃厚な絡みを受けます。
 
しばらくすると、正面に座っていたインド人が持っているラジオのイヤホンを外し、私に渡し付けることを促します。
 
何やら周りはにやにやしている。
 
流れているのはインドの曲。

ん?インドの曲でも聞かせたいのか?と思っていると、5秒くらいするとそのインド人は手に持っている本体の音量調節ダイヤルを回し、突然爆音にしてくる。
 
「うるさっ!!」
 
イヤホンを慌てて剥ぎ取ると、インド人たちは大爆笑。
 
こんな機器知らんやろばりのドッキリです。
 
こっちは電化製品で世界を席巻している日本から来てるんやぞ!
なんならそれも日本製の超旧式や!!
あれ?そんな日本はどこへいった??
 
これが何度も何度も繰り返される。

こちらも爆音になるのがわかっているので、イヤホンは浮かした状態です。

序盤はびっくりリアクションを続けてあげるものの、後半はこちらも心が死んでいく。
 
でもインド人は気にしない。
みんなどんなメンタルしとんねん。
 
本来一人で横になれる席もみんなで座ったままうたた寝&地面に転がったり。
納得いかねぇ、、、
 
ちなみにこれは欧米でもそうですが、列車やバスでは次にどこに着くのかといったアナウンスはほとんどありません。

今自分がどこにいるのか、目的地にいつ着くのか、細心の注意を払っておかないと、目的地を過ぎていたり違うところに向かっていたりします。

日本のように丁寧なアナウンス、しかも英語、中国語、韓国語等々、なんなら日本語のアナウンス時間の方が短かったりする国は他にありません。

 余談ですが、インド列車でのお薦めはホームでチャイを飲むこと。

コップは土を素焼きしたもので、チャイが入ったケトルのようなものから注いでもらいます。

飲み終わったら、コップは線路にポイっと捨てる。

地面でコップは割れて、土に還ります。

これぞエコシステム。

夕暮れ時のホームでこれをすると、何か物凄くエモい気分になれます。

ついに着くぞシナイ山

余談に余談を重ねてしまいました。
 
現地の人からの濃厚な絡み、隙間に挟まれる「がちょ~~~ん」に悩まされ、折角の景色にうっとりする暇もありません。

とは言え、素敵な風景も数時間見ているともう飽きてきているのですが。
 
そうこうしているうちに、ワゴン車は海岸線を離れ山間に突入、標高をどんどん上げていきます。

説明は不要かと思いますが山、山間といっても日本のそれとは全然違います。

例えるならば、ドラゴンボールのナメック星のような感じ、いやナメック星の方が緑が多いか。
 
山は茶黄色のゴツゴツした岩の塊で、植物はほとんど生えていません。

未舗装の道は岩山の山間部に敷かれ、伏兵を置くにはもってこいの地形、諸葛亮孔明の罠がありそうです。
 
そりゃイスラエル人もここには留まらんよな、つーかモーセはこんな奥まで行くってどんだけメンタルやられてたんやろ、標高が上がるので気圧が下がり耳抜きを何度か繰り返しつつそんなことを考えている中、ワゴン車は進みます。
 
そしてついに見えてきたぞ、シナイ山!!
 
そう、シナイ山につくまで9話も要したのは、実はいかにシナイ山が遠いかをお伝えするための深謀遠慮だったのである。

深謀遠慮とは、先のまた先のことまで考えて、周到に計画を立て準備することを指す。
 
と後付けをしてみましたが、実際は脇道に逸れてばかりいたのと、逸れサポーターの方々から日に日に大きな声援を頂いたことが原因である。
 
とは言え、やっとシナイ山で死にかけることができます。

なんかハードル上がっちゃったな、、、

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