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ウォークラリーの夢《閉会式とお通夜》

 その夢は「ウォークラリーをしている」という場面から始まっていた。

 私のチームメンバーは、Iさん、Cさん、Yさん。場所は、学校の校庭のようだった。詳しくはわからない。もう、薄暗かったからだ。
 最後のポイントだとYさんは言った。もう勘弁してくれと、言外に込められているような気がした。
 きっと疲れているのだろう、と、私は盤面の見えない腕時計を見た。もうスタートから10時間は経っている。Yさんには協力を仰がず、Iさんと一緒に誰かから何かを受け取った。
 誰か――先生だろうか。何か――これは、手紙か?
 Cさんが「帰ろう」と言った。

 酷く長い道のりだった。
 すっかり無言になっていたYさんについて気に留めつつも、私はIさんにこれからのスケジュールについて、やや強い調子で確認していた。
 21時までにゴールしなければならないからだ。
 ウォークラリーのポイントはすべてまわってクリアできていた。そして、自分たち以外では2、3チームしかクリアしていないという確信があった。ただ、自分たちがゴールできなければ意味がない。
 Cさんに同意を求める。Cさんは、私が渡した“手紙らしきもの”を気にしていて上の空だった。
 開封したらどうかと促したら、Cさんは首を否定の方向に振った。これは届けなければならない、と。
 誰に、という問いに答えはもらえなかった。

 山のなかには不自然な、ビルのような建物――夢のなかの私は自分たちが泊っている施設だと理解していた――そのなかに入るなり、Cさんは走って階段を駆け上がっていってしまった。戸惑う私をよそに、IさんはYさんとエレベーターに乗ってしまい、取り残された私は階段を上ることにした。
 ウォークラリーにかかわるものを持っていたのはCさんだ。あの調子なら21時には間に合うと、私は安心したまま白い階段を上り続け、9階につながる重い扉を開けた。
 そこにはCさんとともにKさんいた。Kさんはウォークラリーのスタッフだ。そのKさんは、あの手紙のようなものを私に見せながら言った。

「これは、遺書ですね」

 私が驚いて何も言えないまま立ち尽くしていると、Kさんは「お通夜をしましょう」と言った。
「勝手にお通夜をしていいのですか?」
 Kさんは「22時から閉会式があるから」と。
 ウォークラリーの閉会式と■■■■■■さんのお通夜を同時にする。無茶苦茶だと思いながらも、私はどこか納得していた。理由はわからない。
 私はスマホから親しい関係者にメールを飛ばした。「■■■さんのお通夜がこれからあります」と。
 返事は期待していないし、見てもいなかった。
 もうすぐ22時だ。間に合うこと、閉会式用として準備された6つの会場のなかの、少しでもいい会場に席を取ることの方が、私のなかでは重要だった。
 薄情だ、と私のなかから声がした。
 でも、私のなかでは、IさんとCさんが、荷物置き場になっていた調理室から宿泊部屋に、荷物を運び出していることの方が気がかりだった。
 閉会式と、お通夜と、その2つが終わったあとも、私は荷物を運び出すことができるのだろうか。そもそも、順番は? ウォークラリーの閉会式を先にやってくれるのだろうか。ウォークラリーで自分たちのチームはクリア扱いになっているのだろうか。

 明日もまた早いのに。

 目が醒め、メールを確認した。
 誰にも余計な連絡をしていないのを確認し、私は再び目を閉じた。

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