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実質のGDP -NHK 中国“経済失速”の真実-


NHKスペシャルの番組

「調査報道・新世紀 File1 中国“経済失速”の真実」というNHKスペシャルの番組が2023年11月5日に放送された。

通常の政府広報のような報道と違って、NHKスペシャルの番組は優良なコンテンツが多くてとても見応えがある。(組織的に違う部署なのかも?)

今回の調査方法やまとめ方、そして見せ方においても、素晴らしい仕上がりでした。

番組の趣旨

近年の中国では、不動産大手の経営危機などもあって各地で賃金未払いが多く発生して不満を訴える人々が増えている。これは、政府の計画した経済政策が失敗しているのではないだろうか。といった疑いを前提として、実情の検証を進めていく番組の構成だ。

検証には、政府の公式発表やオープンソース、SNS、衛星画像、GPSデータなどさまざまなデジタル技術と有識者の見解も交えて行われる。

手法を駆使して調査を進めていくと、公表されているGDPの数値が本当なのだろうか?ということが大きな問題となっていく。

少し詳しい内容(今回の趣旨ではないのでスルーしても問題なし)

2023年現在、中国からアメリカに亡命する人が去年の10倍以上もいて、実際の中国国内の経済状態は、表面に見えているよりもかなり厳しい状況がありそうだ。かつては公表されていた国家統計局のデータも、年々少なくなり事実の公表が差し控えらる傾向になっている。

中国版SNSには、賃金未払いの労働者のデモの様子が全土からの投稿があるのだが、すぐに削除されてしまう。香港にあるNGOでは10年以上前から、削除前の事実確認がとれた動画を収集してデモ発生件数や背景の分析をしている(それでも全体の10%ほどにしかならない)。

SNSにあげられる各地でのデモ

分析によると、デモは中国全土に広くおよび、2023年の1月から9月までの間で少なくとも1148件起きていることが確認できた。そのうち賃金の未払いでの訴えがなんと86%!近年は中部や西部などで特に増加傾向にある。

陝西省で未払い交渉をしている代表の話では、陝西でのプロジェクトに参加した労働者に支払いが無く、9700万のうち6700万もの未払いが確認されている。発注元に交渉に行くが、会社の前でも相手にされない。裁判でなんとかしてくれとのこと。八方塞がりな状態が続く。

このプロジェクトの資金繰りをしているのは、地方融資平台という地方政府傘下の投資会社だった。地方融資平台は、各地方政府にもあり2000年以降、中国のGNP8%の成長率を下支えてきた。同様に融資平台の資金繰りに問題がありそうだとして、全国の地方の状況を探る。

地方融資平台

公開してある予算と決算の報告書では、地方政府債務残高の合計が2020年末時点で700兆円余あるのだが、この中に融資平台のデータは勘定されていない。調査の結果、ある民間企業が入手したデータによると債務残高の合計は1100兆円(2022年末)という数字がでてきた。

この債務は銀行の融資は地方政府が返済を保証すると見なされていて、実質の地方政府の隠れ債務になっているという。

一般的に、中央政府と地方政府の債務合計がGDP比60%以下で健全と言われている。公表されている中央政府の公式債務500兆円と地方の公式債務700兆円だけの数字であれば問題は無い。

財政健全ライン

しかし、ここに隠れ債務の1100兆円をあわせると健全ラインを大きく上回ってしまい、債務の返済は今後相当難しい見通しになる。

隠れ債務をあわせると大幅に超えてしまう

実際の数字は、想像を超えて悪化している。元IMFの職員に聞くと、公表よりも債務が膨れ上がっていて、完済の見込みもなく今後の資金調達はできないのではないか。

実際に地方に行ってみると開発されているはずの地域が裕福になっている現状は見えない。ムダな公共工事によってむしろ悪化している様子。

新しくできた6車線の道路には車が走らず人が歩いている

この現状から察するに、公表されているGDPの数値には疑いの余地がある。
実質にみあった本当のGDPを知る方法があるのだろうか?

夜間照明で測るGDP

今回の番組の中で最も興味深かったのがこの手法だった。衛星画像からみた夜間照明の明るさを元に、光の強さと密度から計算式を通して現実にみあったGDP値が測れるという。

シカゴ大学ルイスマルティネス

近年、世界銀行の指標としても注目され信頼性も高く、各国のGDPの値がどれだけ信用できるのかが一目で確認できる。

推計値の差が色で判断できる

巨大なインフラをすすめることで実際の富につながらなくてもGDPの数字だけを上げてきた可能性があるということだ。

発表と衛星画像で導きだした数値との差

番組はここから中国経済の現状について、もっと詳しく詰めていくのだけれども、自分が驚いたポイントは、衛星画像から見た夜間照明の明るさを指標にするという画期的な調査方法があるということ。そんな手法をよく思いついたものですねという感心と、調査報道にこのデータを使おうと気づいた番組はすごいとおもいます。

この調査報道の番組は、他のテーマも取り上げていくみたいなので、あまり取り上げられない側の切り口でいろんな事例が見られるのは楽しみです。これからの放送にも期待しております。

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