日経5年

2020年(子年)東京マーケットオープニング note。

 「1年の計は元旦にあり」。

 今年も海外に4日遅れてやっと東京市場がオープン。「相変わらず」派手な幕開けだ。年の初めでトレーダーが張り切っていることも背景にある。

 思い起こせば2019年もいきなり日経平均20,000円割れの波乱の幕開けだった(覚えてるかな?)。筆者の知り合いも一旦日本株を投げた人もいた。銀行をはじめ欧米の会社は12月決算が多いため、いわゆる「権利落ち」で1月は株の売りが多い。そのため遅れて開く日本株が追随するのがパターン。

 しかし今年はちょっと様子が違う。まず新年初日にNYダウが+300ドル超大幅に上げた。「あれ、ちょっと違うパターンだな」と思っていたら、イランに空爆。「なさそうでありそうな出来事」がいきなり起きた。うがった見方をすれば、初日の買いが「騙し」で空爆は売りのための理屈とも取れるが、さすがに軍事行動を予期するのは難しかったのではないか。

 「第3次世界大戦」

 日本でも検索ワード1位になってギョッとしたが、これでも世界では反応が遅かった方で、中には1914年のサラエボ事件になぞらえる向きもある。中東情勢の緊迫というと「オイルショック」*「湾岸戦争」を思い出すが、正直そこまでの緊迫感を今回は感じない。一昔前なら中東紛争というと原油価格が+10ドル、+20ドルと値上がりして、「湾岸戦争」の時は「WTIが70ドルを超えたら世界経済は破綻」とまで騒がれた。オイルショックの時は本当にトイレットペーパーが店頭から消えて騒ぎになったのを記憶している。

 *「湾岸戦争」は1990年のイラク軍のクウェート侵攻に始まり、1991年1月アメリカの空爆で始まった。当時邦銀でドル資金デスクのアシスタントだった筆者は開戦の様子をディーリングルームの大画面モニターで見ていた。開戦前の3か月間に「ドルを取れるだけ取っておけ」との指令が下っていたが、3か月物が15%近辺まで急騰し(>FRBの政策金利@7%、後に年末に向け4%まで利下げ)、当時のドル資金デスクの1か月分の収益(約30億円)を吹き飛ばしてしまった。本当に大変だったのである。今回はそのようなCredit Crunch (信用収縮。危機時にお金の貸し手が貸し渋るような事態)は起きていない。

 原油価格も+3ドル程度は上昇したようだが、過去の例に比べると反応はかなり鈍い。今やシェールガスなどアメリカでも原油の生産が出来るようになっているし、ロシアも今やメジャーな産油国の1つだ。中東の戦略的重要性は低下しており、仮に中東の原油が止まっても米経済に大きな支障は出ないだろう、という計算が働いたのかもしれない。

 ただ今回気をつけなければならないのは「核」を巡る動きだ。実際イランも空爆後、核濃縮の「無制限化」を宣言しているし、それで「第3次世界大戦」というワードが広がったのだろう。イランは中国、ロシアが後ろ盾で、北朝鮮ともつながっている。差し詰め米中覇権の代理戦争だ。

 実際イランは戦争をするにはかなり厄介な相手だ。それはアメリカも十分承知しているだろう。「湾岸戦争」につながった「イラン-イラク戦争」でも、開戦当初はアメリカの支援で圧倒的にイラク優勢だったが、長期戦に引きずり込んだイランの粘りで徐々に情勢を挽回された経緯がある。

 トランプ大統領にしてみれば、株も十分すぎるほど上がっているし、大統領選再選のためアメリカ人が大好きな軍事行動を選択したのだろう。北朝鮮に対しても「いつでも狙った人物を抹殺できる」というメッセージを送って米朝交渉を有利に運ぼうとしたのかもしれないが、かなり危うい。

 そもそも「湾岸戦争」では大量破壊兵器を巡ってすったもんだがあり、いかに9/11テロがあったとはいえ戦争としてはかなり無理筋だった。その後のイラク問題は「イスラム国(IS)」へと波及し、アフガニスタンも泥沼化。お世辞にもうまくいったとはいえず、かえってアメリカによる覇権を弱めてしまった。「アメリカの凋落」はここから始まったと見ていいだろう。

 さて日本は難しい立場に立たされている。その苦悩が日経平均(6日の前場で400円超安)や**107円台まで売られたドル円に現われているといえよう。例年のことだが、1月の日本の相場は本当に手掛けにくい「1年の計」ではあるのだが、ここは慎重に見極めたいところだ。

 **筆者はてっきりドル円は一旦@110円を付けにいく相場を思い描いていた。オプションの行使価格も大分設定されているようだし、プットオプション(売る権利)の売り手が買い戻しを迫られるような展開を考えていたのだが...。さすがに年明け早々の「イラン空爆」は想定できなかった。

 但し、インフレ志向の政策と強烈な金余りの基本構図は変わっておらず、今のところメインシナリオを変えるまでには至っていない。ただ「核戦争」というリスクが顕在化している以上、安易な「逆張り」もどうかとは思う。戦争にまでは突入しないだろうと個人的には思っているが偶発的な事故ということもあり得るし、ここは一旦様子見でいいのかもしれない。

 納得いかないままの「無理」は禁物である。相場は続くのだから。

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