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「景気後退」は本当に「利下げ」に繋がるのか? ー 「スタグフレーション」のリスク。

 米国債を中心とした「金利相場」は次のステージに突入。ポイントは「景気後退」は本当に「利下げ」に繋がるのか?

 現状の米国債の「イールドカーブ」(  標題グラフ)からマーケットのシナリオを紐解いてみよう:

 ①2023年内は政策金利@5.5%に向けて「利上げ」
 ②2023年末~2024年1Qに「利下げ」転換
 ③2024年央に現在の政策金利@5%を下回り実質「利下げ」
 ④2025年央にかけて@3.5%まで低下
 ⑤その後「利下げ」効果で景気回復に転換

 このシナリオはFX、株、コモディティ(商品市場)でも共有されている。気が付いている方もいるかもしれないが、このところ5~10年ゾーンは金利がブンブン動き、FXも振り回されている。それだけ市場が迷っている証拠でもある。

 ①FRBの「利上げ」は5.5%程度がターミナルレートは共通認識になっており問題ない。焦点は②「利下げ」転換。この点確証がないため売買が不安定になっている。やはり「インフレ」が収まるかどうかに尽きる。

 景気後退(リセッション)への懸念が先に噴出しているのがヨーロッパ。現在の「戦争」のコストがエネルギー価格上昇という形でモロに現れており、直近の経済指標の悪化が著しい。

 経済基盤の弱いスペイン、ギリシャなどはCPIの低下が顕著だが、比較的経済規模の大きいドイツ、フランスでは物価上昇が収まらない。おそらく「人手不足」による人件費上昇圧力が高く「インフレ」抑制は簡単ではない。このところECBメンバーから安易な「利下げ」期待を戒める発言が続くのはそのためだ。ところが 世界は「過剰流動性」中毒。ー 「テーパリング」(薬抜き)は並大抵ではない。|損切丸 (note.com) で「利下げ」が恋しくて仕方が無い(苦笑)。

 だが先日+0.5%「利上げ」を敢行したBoE(イギリス中銀)を除けば、アメリカ同様10年国債ー政策金利のギャップが▼1%を大きく下回る「逆イールド」が続いており、これを維持するのは容易ではない。実際に買いポジションを持つと判るが、1日▼1%以上のキャリーコストはキツイ。早期に「利下げ」が実現しなければコスト+「損切り」のダブルでやられてしまう。

 それでは一番「儲けやすい」国債市場はどこだろう。実はJGB(日本国債)だ。絶対金利は低いが政策金利+0.46%で、保有すれば毎日利益が出る。これは今の米国債や欧州国債とは雲泥の差。だから植田総裁が 1年半の猶予。ー 対称的に「利上げ」を続ける「借金大国」アメリカ。|損切丸 (note.com) と宣言すれば買いに転じやすい。

 それでも「不思議の国・日本」の金利市場は他国のトレーダーにとってハードルが高く、 "売っては(金利上昇方向に賭けては)やられ” の繰り返し。中には "JGB禁止令" が出ている外資やファンドもある。市場の半分以上ものJGBが日銀に買占められて市場流動性が低いのも厄介。

 そして最も困っているのは何と言っても巨額の「預金」の運用先に困っている邦銀勢だろう。昨年12月のYCC解除時には@0.20%まで跳ね上がった5年金利だが、気が付けばもう@0.04~0.05%。完全に肩透かしを食らってまた元の ”キャッシュ潰し” に逆戻り

 では「逆イールド」の米国債や欧州国債が手掛け難いからといって「順イールド」のJGBを買いにいけるかというとこれまた難題そもそも絶対金利が低過ぎる10年JGBの「実質金利」が▼4%を下回る圧倒的低金利でもあり、一度YCC廃止や「利上げ」に動き出せば大混乱は必至どんな巨大ファンドでもメジャーな国債の半分以上をスクイーズ(買占め行為)した事は無く、600兆円近いJGBを日銀が買占めているリスクは半端ではない

 2022~2023年相場で「お金持ち」も含めて「投資」に四苦八苦しているのは1にも2にもこの金利市場の不安定さが原因。こうなるとFXも株も方向感が定まらない。そして「利下げ」が市場シナリオ通りにいかないと、最悪「スタグフレーション」(景気後退下のインフレ)の怖れも出て来る。

 それでも**現状の米国債の金利レベルは、行き過ぎた「逆イールド」が修正されて、相場材料としては随分こなしてきた。

 **敢えてリスクシナリオを挙げるなら もし「戦争」が終わったら。|損切丸 (note.com) 先週末もクーデター騒ぎでバタバタしたが、その恩恵が最も及ぶのはヨーロッパだ。ただそうなると今の弱々しい「逆イールド」は吹き飛び、本格的な「利上げ」局面に突入するだろう。仮にFRBが@6%まで「利上げ」を続ける展開になってドル円が@160円を突破するような流れになれば、米国債もJGBもタダでは済むまい。その時NYダウ日経平均にどう影響するかは未知数だ。ちなみに5月米新築販売は+76.3万戸(予想+67.5万戸、前月+68万戸)と欧州とは対照的に堅調を維持している。

 筆者は日米欧とも2016年から30年周期の「インフレ」循環に入ったと判断しているので、安易な「利下げ」予想は慎みたい、という立場。最悪「スタグフレーション」に陥っても、まずは火=「インフレ」を消す事が最優先。これを基本線として、今後も米国債JGB、それに伴うFX株式市場の動向を見つめていきたい。

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