投資マクロ

成功したトレーダー vs いなくなったトレーダー達 -「損切丸」が双方に感じた「違い」。

 「(100-価格B7(セル))÷ 残存年数C7 + 利回りD7... 」

 鳴り物入りで大手ヘッジファンドからやってきたイタリア人トレーダーが初めて東京に出張してきてやった作業である。「損切丸」がエクセルで組んでいた日本国債JGB、Japanese Government Bonds)投資マクロのチェック。初歩的な算式しか用いていない簡単なものだったが逐一確認していた。

 何せやってきてすぐに「円で2兆円ポジションを張ろう」と言ってきた彼。さぞブイブイ言わせてくるのだろうな、と思っていたのでやや意外だった。しかし、同時に変に感心もした「こんな細かい作業するんだ」。人の作ったプログラムでも自分で検証しないと納得しないのだろう。もの凄く地道な作業だ。その後も彼とは意見を交わしながらJGBの取引で収益を出していくのだが、最初の「細かい作業」で筆者は彼を信用するようになっていた。

 26年間マーケットをやってきて、成功するトレーダーには一定の類型があるように感じている。銀行の信用をバックに大きなリスクを取っていたのでどこまで参考になるか判らないが、相場に向かう心構えという点では個人で行う投資とも共通する点が多いと思う。

 1.Respect

 うまい日本語訳が思いつかないので英語表記としたが、文化や人に対して意見、風習などを尊重する姿勢のことだ。こんな日本のローカルトレーダーの「損切丸」の意見を良く聞きにきてくれたりした。外資で日本円の取引などをすると痛感するのは、日本がいかにわかりにくく特殊な文化、風習を持った国かということ。伝えるこちらも責任を感じるが、聞いた説明に納得して取り組んだ取引は勝った事が多いように記憶している。

 逆に東京の言うことなど全く聞かずに勝手にJGBをやるトレーダーもいたが、ほとんどやられていた。それぐらい日本のマーケットは特殊。これは逆も真なりで、日本人がドルやユーロを手掛けようとするならアメリカ人やドイツ人の意見は尊重(Respect)すべきだろう。

 2.自己責任

 仮に「損切丸」のアドバイスを聞いた上で円のポジションを取って損してしまった時、当然筆者は責任を感じて謝るのだが、大体返ってくる答えは同じだ。「自分で納得して取ったポジションだから、あなたのせいではない」

 逆に儲かった時は「あなたのお陰」と言ってきたりする。自分の手柄、と吹聴したりもしない。

 こうなると「次は(も)儲けて貰おう」と、もっと良いアドバイスをしたくなるのが人情。この辺は万国共通であり相互の信頼感が深まっていく成績の良いトレーダーとはこういう強固なネットワークを築いているものだ。

 3.公私の区別

 仕事が終わると(いい時代には)昼からビールを飲みに行ったりしたものだが、こういう時公私をはっきり分け、上下関係や年齢差、人種など全く関係なく楽しもうとするだから相場やマーケットの話はあまりしない。

 サッカー日本代表の長友選手が言っていたが、「ワイ談」は万国共通。イタリアでは「乾杯」「tin tin 」といったりするが、「それは日本語では ”Cock” の意味」とか冗談を言うと一気に打ち解けたりする。イギリスならサッカーの話題、それから音楽などの話も良い。

 もちろん景況感、中央銀行の政策姿勢、資金フローなど精緻な検証を行った上でのリスクテイクではあるが、上記1~3は儲かっているトレーダーに共通の素養だと感じた。

 逆に駄目になるトレーダーの類型はどうだろう。上の1~3をひっくり返せばほぼ該当するのだが、業界からいなくなった人達の類型を挙げてみよう。

 A. 無駄な自尊心+人を見下した態度

 「余計なことを言うな。どうせ日本人なんか当てにならない」 確かに外資系の東京支店では日本人の発言権が低いところが多く、残念ながら一定のレベルに達していない日本人トレーダーが多かったのも事実。しかしだからといって頭ごなしにこういう態度のトレーダーはいただけない。

 特に上のランクと思われている金融機関から転職して来る連中は厄介。「Jx Mxxxan ではこうだった」。邦銀から来ても「Mx銀行ならこう」等々、正直うっとうしい。それなら前の職場、辞めなきゃ良かったのに...。この手のトレーダーで3年以上留まった人を見たことがない

 B. いつも人のせい・「自分は不運」・「マーケットが悪い」

 あきらめが悪いというか、こんな言い訳ばかりしているトレーダーは長続きしない。負けた時だけ「運が悪かった」といったりする。想定外のことが起きても、自分に厳しいトレーダーはそのような事態を想定していなかったことを悔いたりするものだが、この手の人にそういう発想はない。

 上記2.自己責任の例で言えば、下手にアドバイスして損しようものなら全部こちらのせいになってしまう。当然誰も何も助言したりしなくなる。こうして彼らは自分の世界を閉じていき、儲ける術を失っていく

 C. 公私混同

 「あの人とのランチは ”色付き” だから」”色付き”とは目的がある、ということ。ビールを飲みに行くのも全部「理由あり」。奢ってなど貰おうものなら見返りに何を求められるかわかったもんではない。人と人としての信頼関係を築くのはほぼ不可能で、やることなすこと全て疑ってかからなければならない。マーケットの世界ではあまり必要のない素養だ。

 サラリーマン社会なら  A~C > 1~3 ということもあるかもしれない。リーマンショック以降「コンプライアンス」の大合唱となっている投資銀行業界しかり。生きていく術としての「寝技」は必要な時もあるだろう。

 しかし純粋に「投資」の結果を目指すなら、明らかに 1~3 > A~C だ。サラリーマン社会でも、本当のトップになる方は同様ではないだろうか。

 全て自分自身で飲み込んで勝負するのは辛いところもあるが、結果が出た時の喜びもまた格別のはず。他人を叩いていい気分になったり言い逃れをしても結局はその場凌ぎだ。自分自身で「腹を決めて」こそ、の結果である。

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