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ドイツでベーシックインカム実験始まる - 究極の「インフレ実現策」?

 ドイツでベーシックインカムUBI、Universal Basic Income)の実験が始まるという。内容は下記の通り:

 ・120人が毎月1200ユーロ(約15万円)を受け取る。

 ・その後、1380人の現金支給を受けていない人々の体験と比較分析を行う

 きっかけはこの「コロナ危機」であるのは間違いないが、UBIについては実は様々な国々で既に「社会実験」(または計画)が行われている: 

 デンマーク ー 労働者が解雇されない限り、その給与の75%から90%を雇用者の代わりに政府が負担。

 フィンランド、オランダ ー 既にUBIの実験を行った(2017~)。

 香港 ー 6カ月間、労働者の給与の50%を政府が負担。

 フランス - 自営業者に最大1600ドル支給。

 アメリカ - 16歳以上で年収13万ドル未満のアメリカ国民に、少なくとも月に2,000ドルを6カ月にわたって支給。

 日本 ー 国民1人当たり10万円を給付(総額約10兆円)。

 スペイン ー 最貧層の100万世帯に対して毎月の収入を保障(計画)。

 スコットランド自治政府 - 現金支給する形のUBIについて、真剣に検討。イギリス政府と「建設的議論」。

 「コロナ後の世界」の変化として「本丸」がやってきたかもしれない。大枠で見れば「社会保障費の前払い化」と言えよう。少子化による年金財政の逼迫等の問題を、根底から変えようとする試みである。

 この「社会実験」、実は最近1億人サイズで行われた国がある。そう、例の「10万円給付金」だ。「損切丸」「ドラム式洗濯機現象」と書いたが ↓ 、エアコンなど普段は買うのを躊躇するような商品(あるいはサービス)が売れる現象が起きた。

 まあ今回は「財源」の問題に全く触れず急転直下決まったので、貰う方は「ただで貰える!」と認識してしまったのかもしれない。「貯金」が大好きで堅実なはずの日本人ですらこうである。日本よりも遙かに「楽天的」な国では一体どうなるやら。それとも20年に渡る「デフレ我慢疲れ」で消費欲が溢れだしたか。いずれにしてもやはり「現ナマ」の威力は凄い

 前にも書いたが、筆者の地元郡山では東北震災時の給付金で似たような現象が起きた。確か自宅の全・半壊に対し50~100万円給付されたが、駅前の居酒屋とパチンコ屋が来店客でごった返した。残念ながら「現ナマ」を手にすると豹変してしまう人達は結構多い

 今回、ヨーロッパでも財政赤字やインフレに最も厳しいドイツで実験が行われるのは興味深いフィンランド、オランダの「実験結果」はどうだったのだろう?)。規模が小さいとはいえ、おそらく実験の「条件設定」が鍵を握るだろう。例えば  ”受け取る予定の年金から支給額を差し引く”  ”給付金に見合う増税を行う” といった「条件設定」を行うのだろうか。

 まあ仮に条件が付いても一定数の人々の「消費欲動」は止められないので、むしろ実験としては「条件無し」の方がストレートな反応が見られて面白いかもしれない。ドイツ全体の物価に波及するような現象が起きなければ、120人だけが一方的に得をすることになる。

 日本でも総額10兆円ぐらいだと国全体を動かすまでには至らないが、無条件に「給付金」を増やし続けるとどうなるか。折しも与党から「少子化対策」として3人目の子供から1人当り6万円給付するという。15歳まで支給すれば6万円x12か月x15年=1,080万円にもなる。どうも来る選挙を見据えた施策らしい。当然**「財源」に関する議論はない

 **これまでは「減税」でも「給付金」でも国民にメリットがある政策には必ず「財源」の議論がついて回った。それだけ財務省の発言力が強かった訳だが今は様変わり。「後で徴収する」と言われて消費が滞り預貯金だけが増えていったのも事実だが、この「財源論」は政府の良心の一部だったとも言える。いずれ誰かが負担するのだから

 「財源論」の欠けたUBIには実は落とし穴がある。「損切丸」を読んでいらっしゃる方はお気付きかもしれないが、増税や支出カットをしなければ、あとは法定通貨の発行を増やすしかない。そうなると***「物価上昇」というよりも「通貨価値下落」という面で「インフレ」が起きる

 ***簡単な実験で考えて見よう。子供3人にお小遣い50円づつ配り、@100円のパンが1個だけ有るとしよう。この状態では誰もパンを買えないが、ここで突然100円づつ3人に配ったらどうなるか。パンがそれ1個で売り切れなら、@100円どころか@150円払ってでも手に入れようとする子が出てくる残る2人は150円持っていてもパンにはありつけないのだから

 「コロナ危機」をきっかけに、どうもこの「現ナマ政策」に世界が流れそうできな臭くなってきた。もしインフレになるなら「ドラム式洗濯機」を買った人は「買っておいて良かった!」となるかもしれないが、喜んでばかりもいられない。もっと大きなところで「インフレ税」の負担が発生することになるからだ。そう、最も危ないのは「現金」と「預貯金」

 「うちは貯金なんかないから関係ない」

 そういう方が多いのも事実。だが、そういう家計こそインフレの直撃を受けることになる。一玉200円のレタスが500円に、一斤300円の食パンが800円にetc. etc....。富裕層は株、不動産、外貨などインフレリスクをヘッジしているのでダメージを減らせるが、一般庶民はそうもいかない。「給料」はそんなに急には上がらない。必ず物価の後追いとなる。

 そうなると少し遠回りになるが:①家計を見直して投資資金を作る、②必要な家具等耐久消費財を購入(含. 自宅)、③インフレ型の企業の株に投資、等々、少し時間を掛けて準備するしかない。④返済に無理のない範囲で「借入」をする、のもインフレヘッジにはなる。

 マーケットや投資の話と同じで、うまい話には必ず「裏」がある。確かに「給付金」はうれしいが、何の裏付けもなしに貰える「現ナマ」ほど怪しいモノはない。浮かれそうになる心をグッと抑えてみることをお勧めする。

 「何もしないのに儲かる」ー そういうのが一番危ない

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