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「給付金」や「ベーシック・インカム」は打ち出の小槌ではない。

 「国会議員は10万円の給付金を受け取りません!」

 「給料の減らない公務員は今回の10万円を給付しなくていいのでは?」

 なるほど、一見筋が通っている。これに対し:

 「貰った10万円を寄付や消費に当てれば困っている人達の助けになる」

 これもその通りかもしれない。しかし、30年も資金繰り業務に従事してきた立場からすると、大事なポイントがスポッと抜け落ちている:

 12兆円もの「お金」を国がどこから調達してくるのか

 「お金」は種をまいておけば土から生えてくるわけでもなく、空から振ってくるわけでもない(”ヘリコプターマネー”は単なる例え)。「貰う人」に対し必ず「払う人」が存在する。今回の10万円の「給付金」「貰う人」は全国民だが「払う人」は実は国ではない。やはり「国民」なのである

 だから「損切丸」の意見は「10万円は全員受け取るべき」国は必ず請求書を国民に回してくる。それを判った上で寄付するなり貯金するなり消費するなり、各個人の好きにすれば良い。公務員も今は給料が減らなくても、将来「請求書」が回ってくる可能性があるのだから堂々と受け取るべきだ。

 今は未曾有の「公衆衛生の危機」で目の前の資金が枯渇している家計、企業もあるので、こういう「ベーシック・インカム」的な政策発動もやむを得ない。しかし商売で資金繰りをしている事業者の方は、*「お金」は誰かから調達し、借金なら返さなければいけないことは理解しているはずだ。

 *デリバティブ・トレーダー(株式)が気軽に「LIBOR(London Interbank Offered Rate)で5,000億円貸してくれ」と言ってきた。LIBORという自動販売機のボタンを押せば出てくると思っていたのだろう。実際には市場取引が1回100億ぐらいなので、「無担保」で貸してくれる相手を50人も見つけれなければいけない。スワップ等のデリバティブとは重みが全く違うのだが、その点をわかっていないトレーダーとはよく喧嘩になった。

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 「財政」などと難しい言葉を使うからわかりにくいが、これは国も同じ。「給付金政策」は会社で言えば「借金」をして従業員に給料を支払うようなもので、「国債」などで一時的に支払い時期を引き延ばすだけだ。企業なら借金を期日に返済できなければ倒産だが、国には「徴税権」がある最後は全部国民に回せばいい(但し他国から借りている国は例外)。

 だから単純に「お金」が貰えるからうれしい、とは考えない方が良い。最近話題の「ベーシック・インカム」も今回の「給付金」政策と似ている平等に「お金」が配られるので一見良さそうに見えるが、果たしてそんな都合の良いことがあるだろうか?

 良く例示されるのが、AIなどが今の人間の仕事を代替して生み出す「利益」をみんなに分配するというもの。人々は余った時間をレジャーや消費に使うので社会が円滑に回り、格差が解消するという。まるで「ユートピア」だが、ここでも大事な点がスポッと抜け落ちている。

 AIが生み出す「利益」はどこにあって、その対価を誰が払うのか?

 言い換えれば「ベーシック・インカム」社会で分配できる「富」はどこにあるのか。おそらく大半はAIなどを作りだす企業に集中する。”仏のような”経営者が儲けをみんなに等しく配れば良いのだが多分そうはならない。現在のGAFAを見れば明白。かつてソ連などの共産主義国家が目指した「理想」もこれに近かったが、実際には「富」の独占が横行し、むしろ格差は開いた。**人間はそこまでお人好しに出来てはいない。

 **「カイジ」で有名な福本先生の漫画の中で「悪を倒すのは正義なんかじゃない。それを上回る巨悪だ」というセリフが出てくるが、けだし名言である。「生存競争」という意味では人間もジャングルの野生動物も一緒だ。

 「給付金」「ベーシック・インカム」も気をつけなければいけないのは、配る時は平等でも回収する時は平等ではないかもしれない点。***回収手段「増税」以外にも①医療費の自己負担引上げ②年金支給額カット、等、何れも既に実行されている。「年金の支給開始年齢引上げ」では、早死にすれば積み立てた「お金」は最悪1円も受け取れない(ひどい話)。

 ***ウルトラCは「通貨価値の切下げ」。所謂インフレである(「損切丸」ではお馴染みで恐縮(苦笑))。物価の上昇は難しい、という意見もあるが、発行当局である国が通貨価値を引下げるのは実はそう難しくない。極端な例で言えば、新通貨発行時に旧通貨1,000円を100円に切り替えてしまえば良い。没収された90%分の資産はそのまま借金返済に当てられ、1,000兆円の国家債務は100兆円になる。

 多分「コロナ危機」は更なる貧富の拡大を招く。いくら「ユートピア」のカラクリを説いても、一定層は「ベーシック・インカム」のような共産主義的政策に傾倒していくかもしれない。今日を生きるのに精一杯の人達には「自由」より目の前の「お金」だ。イタリアなど「危機不適応型」↓ で中国支援にどっぷりの国々は、今後「そちら側」に流れていくかもしれない。

危機不適応型

 「コロナ危機」後にやってくる「分断の時代」 

 A. 「自由」は制限されるがほどほどの生活が平均的に送れる社会

 B.  「自由」は守られるが高コストの格差社会 

 A, B どちらを選ぶかは各々の判断になるがもう「コロナ前」戻ることはないだろう。大袈裟でなく画期的時代の転換点に今立ち会っている。

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