「金利」は語る ー「株価上昇」の正体。米国債金利の「時系列評価」から。
今回のように突発的な出来事やパニックが起きてマーケットが荒れると、投資家やトレーダーはよく「迷子」になる。市場の中で今自分がどの位置にいるのかが掴めないと売り買いの判断をよく間違えるもの。そういう時に有効なのが「時系列評価」だ。「損切丸」は専門としている「金利市場」、ここでは米国債市場の金利を用いて分析してみようと思う。
2/10時点の米国債金利のFF(O/N、今日-明日の1日物でFRBの目標政策金利)-2-5-10年のイールドカーブの変化を、昨年の8月から見てみよう。
今の米国債金利は昨年の10/4時点の水準に近い。覚えていらっしゃるだろうか? 昨年の8月頃から2007年以来の「逆イールド」、「リーマンショックの再来」などと騒ぎ立てていた時期である。「損切丸」は当時から強く異論を申し立てていたが( ↓ 記事ご参照)、今振り返ってみるといかに胡散臭いものだったか、改めて実感させられる(市場では良くあること)。
当時のアメリカの株価を見てみると、NYダウで▼1,000ドル近く下げており、それがこの「騒ぎ」の元になった。↓
しかし...金利は「景気後退」を示した水準に戻しているのに、NYダウの株価は2,000ドル以上高くなっている! これは一体何を意味するのか。
米国債金利の動きは極めて整合的だ。今回の「新型コロナウィルス」のパニックを見れば「景気後退」は現実的判断であり、金利低下は妥当だ。むしろ特筆すべきは株価上昇の動きだろう。論点は2つ:
1.AIプログラムの「学習効果」
直近の「こんなのおかしい!!」の罠シリーズで指摘してきたが、2018~2019年の相場の「学習効果」から、AIが「売られた株は買い」に傾いている可能性。「成果」が出ているうちは稼働し続けるだろう。
2.金利低下と「過剰流動性」
金利には2つの側面がある。①お金の需給という量的な側面と②景気の動向を示す「体温計」としての役割だ。
①については、昨年9月のFOMC前後にレポ金利が10%に急騰したこと ↓から銀行に対する規制を緩和しようという動きが影響している。これも需給面から金利の低下を促すことになる。
②については文字通り景気が悪化し、FRBによる利下げ再開が期待される点である。何れも金利低下を正当化できる理由だ。
上記1,2を勘案すると米株価上昇の正体は明らか -「過剰流動性」による押し上げ効果である。これが「景気が悪化しているのに株が上がる」という、一見矛盾している事態を引き起こしている。くべられる「薪」が供給されるうちは、プログラムはどんどん「窯」の火を燃やし続ける事になる。(例えが朝ドラに影響されているかな(笑))
「窯」の火の温度を「物価」に例えるとわかりやすいだろうか。特に「体温の低い」(=デフレ状態だった)日本は温度が上がって丁度良いと感じるかもしれないが、それも程度の問題。温度が上がりすぎれば「暖かい」などとは言えなくなり、「窯」(=経済)自体も壊れてしまうかもしれない。「凍え死ぬ」のと「焼け死ぬ」のとどちらがいいのか、究極の選択になる。
「金利」が語りかけている実情は重い。そうすると株の上昇も素直には喜べなくなる。もちろん現金を抱え込んだまま「凍死」するよりはマシかもしれないが、窯が壊れて(=景気後退、或いはデフォルト、倒産)「焼死」するリスクも増すことになる。起きているマーケットの動きはとても楽観できるものではない。ずっと気を抜けず、緊張状態を強いられるだろう。
「損切丸」としてはマーケットの「迷子」にならないよう「金利市場」のウォッチは続けていく。本当に2020年は大変な年になりそう。ただ、こういう苦境を乗り越えた先に本当の実りはあるものである。
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