円安

忘れた頃にやってきた「円安」。

 109円台後半でもぞもぞやっていたと思ったら、いきなり1円以上円安になって111円台。今回の円安、何か「薄気味悪さ」を覚えているのは筆者だけだろうか。まさに「忘れた頃にやってきた」

 まず「円安」が起こると原因としてよく挙げられるのが「日銀」。しかし今回は関係ないだろう。日米とも金利市場に目立った動きがなく、金利差も開いていないからだ。黒田総裁がインタビューで追加緩和に前向きな発言をした後も円金利市場はほとんど動いていない。

 *「円安」になるといつも登場するのが金融緩和で「日銀がドルを買う」という怪情報。法律の建付けからもそれは無理。(現役時代「損切丸」も何度もロンドン本店やファンドなど海外勢の顧客に説明させられてウンザリ)他国の通貨に手を出すことは他国の金融政策に干渉することになるからだ。もしFRBやECBが突然為替市場で円を買ったらどうなるか、考えてみればわかりそうなものである。

 「円安」に動くタイミングにやや唐突感は否めないものの、やはり今回の「主犯」は日本の景気後退懸念だろう。2019年第4四半期に続いて2020年第1四半期もマイナス成長が濃厚で、2期連続のマイナス成長は「定義」ではリセッション(景気後退)だ。

 円の需給面からは円買いを減らす要因が2つ。①インバウンド関連の旅行客が減ること②中国とのサプライチェーンの分断で輸出が減少すること。実際タイ政府から日本向渡航の自粛要請が出るなどしており、日本向けの観光客が減ることは確実だ。中国からの部品が入らずに生産が減少している輸出製造業もかなり多い。これらは確実に為替市場での円買いを減らす。

 そしてもう1つ、マーケット面から気になっているのが「通貨オプション」絡みの動きだ。2.13稿.「マーケット同窓会」其のⅡ。↓ で現役のオプショントレーダー達から聞いた話として書いたが、手口が売り(=オプション料を受け取る手口)ばかりに偏っていることが急な「円安」要因の1つ

 **専門用語でいうと「ボラティリティ(Volatility、市場変動率)が潰れている」状態でオプション料はかなり安くなっていたはず。それが1日で1.5%も急に動くとオプションの売り手(おそらく今回はかなり多くのトレーダー)が買い戻しを迫られ、損切りなど相場が加速するケースがある。今回もそれに該当するだろう。

 **オプションには「3か月」など期限があり、期限が到来した時に相場が一定以上動いていないとオプション料は買い手の払い損/売り手の貰い得となる。例えばドル円@111円の3か月のコールオプション(買う権利)が80銭だとして、3か月後にドル円が@112円になっていれば買い手が+20銭の儲け(売り手の損)となるが、@111円だった場合は80銭丸々売り手の儲け(買い手の損)となる。市場が動かないと売り手口が広がりやすい

 日経平均は一応「円安」を好感して△300円以上上げているが喜ぶのは早い。円が▼1.5%安くなって株価が△1.5%上げているだけで、実は投資の儲けはゼロ。まあそれでも株が上がっているだけまだましとも言える。通貨安で株まで下げ始めたらまさにベネズエラ・アルゼンチン型の危機だ。ここは日本の優秀な製造業や観光資源などに感謝した方がいいのかもしれない。

 「リセッション(景気後退)」から元の「デフレ」に戻ると「期待」している向きもあるようだが今回それはないだろう1番大きいのはグローバルな価格低下を促していた中国からの安価な製品の供給が今後大きく減ることだ。この影響は計り知れない。景気動向とは関係なく、物価そのものが上がってしまう可能性が高い。世界的に金利が下げ渋っているのは、こういうインフレ的要素も含んでいると思う。

実質金利G7

 あまり悲観的な事は言いたくないのだが、景気後退となれば雇用も給料も増えない。なのにこの日本では、中国の影響 +通貨も安くなってエネルギーなど物価が上がる蓋然性が高い。つまりスタグフレーション(景気後退下の物価上昇)。これはある意味デフレ時代の「失われた20年」より過酷だ。

 本稿冒頭「薄気味悪さ」の根源はここにある。株のパフォーマンスが思ったより芳しくないので、ファンドや投資家が主要市場であるドル円に回帰したのかもしれないが、いずれしにろ今回の「円安」は従来のように日本にとってあまり歓迎すべき事態ではないのかもしれない

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