「中国株急落」について考えてみる ー 国債金利低下の発する ”メッセージ” 。
日本人で中国株投資をしている個人は多勢ではないが(除.ソフトバンクグループ取締役社長兼会長)、香港ハンセン指数 ↑ など高値から▼20%程大きく下落し、トレーダーの注目を集めつつある。
論点は大きく2つ:
1.CPCによる企業締め付け
アリババグループをはじめ、配車サービスの滴滴出行(DiDi)、フードデリバリーを手掛ける美団に最近では学習塾の規制も加わり、規制を受けた企業の株は軒並み売られている。加えて銀行が直近2件のプロジェクトへの融資を停止した不動産開発大手、恒大集団の株価も急落 ↓ 。
中央銀行まで ”出動” して株価を支えようとしている日本から見れば、どうしてこんな株安を誘導する政策を発動するのか、不可解な部分もあるが、*「中国の理屈」ではまんざらこれが ”不正解” ではないらしい。むしろ所得の低い層からは「お金持ち」を叩く政策は歓迎されていると言う。
*中国史は「内ゲバ闘争」の歴史。古くは「三國志」から「文化大革命」の ”密告制” など、いわば「国内でのつぶし合い」の連続。今も「北京閥」「上海閥」「広東閥」等、熾烈な権力争いがあるという。あれだけの国土と人を纏め上げるのは至難の業なのかもしれない。統率者が怖れるのは、いつの時代も「内乱」である。
端的に言えば「ポピュリズム」という事になるが、やはり14億人による「内乱」は恐ろしいのだろう。ただこれらの政策は「諸刃の剣」であり、国の発展を阻害する怖れもある。今後も中国国内の動きからは目が離せない。
2.米中対立の先鋭化
半導体をはじめ、IT企業の米国市場からの締出しなどアメリカ政府の「対中政策」も先鋭化。中国の「最上位得意先」がアメリカなのだから、影響は避けられない。儲け口を失うウォール街は反対しているようだが、多くの中国企業の米国上場を禁止すれば「資金調達」が滞るのは間違いない。米国向輸出を経済の柱に据える中国にとって米ドル不足は致命傷になりかねない。
ただアメリカ側も気をつけなければいけないのは、ウォール街をはじめ多くの米国企業が中国と取引しており、中国を潰しに行けば必ず「返り血」を浴びる。今のところ米国株は堅調さを保っているが "バランス" が難しい。
さて、ここで株価ではなく「損切丸」の専門である「金利」、ここでは特に「国債」に焦点を当てて、市場の ”メッセージ” を読み解いてみる。
まずは「中国国債」。中銀である中国人民銀行は表向き「不動産融資規制」を続け "高めの金利" を維持してきた。2017年7月からは "債券通" (ボンドコネクト)と呼ばれる香港の債券決済システム「北向通」を開始し、海外資金を集めたい思惑もあったのだろう。
しかしここへ来て**金融政策は「緩和方向」に転換。上述の恒大集団など不動産関連企業の「資金繰り」が逼迫するにつれ、背に腹は替えられなくなった。@3.30%台あった10年国債は直近@2.90%まで低下している。
**これは「日本円」もそうだったが、国内企業支援のために中銀の「金融緩和」を多用すれば「インフレ」を起こす。日本の場合は景気が良いのに「円高抑止」を目的として "不要な金融緩和" を行った結果「バブル」になった。日本を反面教師として「バブル」抑止に努めてきた中国だが、皮肉にも日本と同じ道筋を辿っている。輸出がアメリカ頼みなのもほぼ一緒だ。
それでは最近急低下している米国債金利は何を語っているのか。CPIが@+4~5%もあるのに10年米国債が@1.20%台というのはかなり「特殊」。従来の "アメリカ人的発想" なら物価を下回る金利への投資 =「損切り」のはずで、そんな "勿体ない事" は絶対にしなかった。税制上も有利で市場流動性もある「株」に流れるのが "常道" 。
だからファンドもトレーダーも「米国債売り+米株買い」で突っ走り、順調に利益を上げてきた。それが米国債の突然の買い戻し(=金利低下)。元・金利トレーダーの目には、それだけ株の上値追いに慎重になっているように映る。 ”Risk & Reward" を合理的に追及する彼らが、***@1.20%台の10年米国債 ≧ 現在の米国株の投資価値と判断している事になる。
***ビットコインは違う理屈で動いているようだ。売買の根拠が不明瞭で市場規模も流動性も株とは異なるだけに、少しの資金移動で大きく動く可能性もある。3日で+1万ドル上がるなら逆もまた然り。
米政府を含む「お金持ちリーグ」が金融等「対中制裁の中身」をどこまで具体的に共有しているかは知る由もない。ただ、大統領が替わっても「アメリカの意志」が強固である事は疑いの余地がない。「返り血」覚悟で本気で臨んでいるならリスク資産を減じるのは当然だろう。筆者には「低い国債金利」の発している ”メッセージ” はそう読める。
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