ドル金利市場、再び動き出す 其の2 -「ドルプレミアム」のインパクト

 前稿の追加として、少し入り組んだ話になるのでしばしご辛抱頂きたいが、ドル資金を調達するときに上乗せされる金利、「ドルプレミアム」について触れておこう。

 例えばドル金利は国の発行する国債の金利を出発点に、次に信用の高いと考えられている銀行間市場があり金利が形成されている。BBA(British Bankers Assosiaton、英国銀行協会)で決められている LIBOR(London Interbank Offered Rate)がその基準金利の代表格で、銀行間市場で最も信用が高いと思われる銀行向けに貸し出される金利、と定義づけられている。(O\N~1か月~12か月までの金利が毎営業日更新されている)

 銀行をはじめ企業、あるいは国でさえも、いつもこのLIBORで資金調達出来るわけではない。それぞれの信用力によって上乗せ金利が市場では課されている。これが「ドルプレミアム」である。一般にはこの上乗せ金利は表出しないためなかなか捉えにくい部分ではあるのだが、実は市場の動向に大きな影響力がある。リーマンショックのように銀行間市場が大荒れになった時は、まさにこの「ドルプレミアム」が大問題であった。その上乗せ幅が最近じわじわと拡大しているらしく、ちょっと不気味にはなってきている。

 ↓ はも3か月物の対円、対ポンド、対ユーロのドル上乗せ金利(BP、ベーシスポイント)。マイナスに行くほど上乗せが拡大している、という意味。

 最も現状の上乗せ金利はさほど心配する水準ではない。山一証券破綻など日本が金融危機になった時などは、日本の銀行にLIBOR+200BP=2%以上の上乗せを要求され、「ジャパンプレミアム」などと呼ばれた。(筆者は既に外資に転職していて外から見る立場だったのでまだ良かったが)今、この「ドルプレミアム」が一番心配なのは韓国だろう。

 もともと韓国の銀行は資金調達力が弱く一定の上乗せ金利が要求されている。日本の銀行からもドルを借りているが、ここへ来て政治でこれだけ揉めてしまうと、この上乗せ金利は更に拡大していくことが懸念される。2日の相場を見ても韓国株式指数は前場で目処である2000ポイントを割り込み、為替ではドル/ウォンが1190を上回るウォン安水準で推移している。ドル円が大きく円高に振れているのとは対照的で当面目が離せない。

 関税による直撃を受ける中国も影響は免れず、上海株式指数は2900ポイントを割り込んでいるが、通貨安についてはこちらはほとんど懸念がない。それどころか人民元安は望むところだろうし、仮に人民元買いの介入するとしても、ドルの外貨準備が3兆ドルもある。(世界一。2位が日本の1.2兆ドル)中国の銀行がドル資金調達に困っても、この外貨準備を回せば大幅な上乗せ金利は回避できるはずである。このあたりは韓国とは全く事情が異なる。

 韓国の外貨準備は2018年6月時点で4000億ドル(世界8位)と発表されているが、金額的にこれでもウォン安を止めるには十分とは言えない(何しろ世界の為替市場の取扱高は一日1兆ドルと言われている)。

 更にこの3か月間、市場には公表されていないので確認できないが、断続的にドル売り・ウォン買い介入をしていたのは公然の秘密として市場では扱われており、外貨準備はかなり減ってきているのではないだろうか。市場はいわゆる「弾切れ」を虎視眈々と狙っており、2日の夕刻には防衛ラインの目処とされていた1200を上回ってきた。韓国政府にどれだけの「実弾」が残されているのか、市場は今後も介入の動きなどを探りながら仕掛けていく展開が続きそうだ。

 サムソン電子も韓国外への移転が噂されているし(2日の取引では比較的株価が値持ちしている)、日本企業の韓国からの資本引き上げも実は着々と進んでいると聞く。韓国内からの資本逃避(キャピタルフライト)の動きには要注意だが、一番怖いのは、ベネズエラのように国民が自国通貨に見切りをつける時。さて今後の動きは...。

 今回日本も2009年2月の時のようにスワップ取引でドル資金援助はしないだろうから、さらなる事態の悪化も想定される。何せ現在の韓国政府が実質的な対策に動こうとしている気配がない。(元々の予定通りか?)

 アジアに限らずイランやBREXIT by ボリス英新首相など不確定要素が山積み。「ドルプレミアム」を巡っては今回アジアが主戦場になるかもしれないので、銀行のマネーマーケットトレーダーは寝苦しい夜が続きそうだ。

 お金を調達できない、というのは本当につらいもの。筆者も体は丈夫な方であると自負しているが、リーマンショックの時は銀行の資金調達が困難を極め、遂に帯状疱疹になってしまった。もうドルプレミアムはコリゴリ。二度と銀行の資金繰りはしたくない、と今つくづく思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?