見出し画像

「こんなの見たことない」。- 米新規失業保険申請件数が急増。それでも ”株価が下げてはいけない” 「百人の村 アメリカ」の事情。

 米新規失業保険申請件数(Initial Jobless Claims)328万3000件

 一瞬誤報かと思った。3月1週(3/1~7)の21.1万件から2週(3/8~14)に+7万件増えて28.1万件になったのが「急増」と伝えられていたのに...。1週間で一気に+300万件増えるのはまさに桁違い。これまで最多だった*1982年10月69.5万件を大幅に上回り、1967年の統計開始以来過去最多を更新した。

 1982年と言えば、アメリカは「レーガノミクス」真っ盛り。それまでの需要重視の政策から「サプライサイド(供給側)政策」に舵を切り、財政赤字が問題化していた。FRBの政策金利は@14%までに達したが(1982には@9%まで低下)、その高金利故に米景気が後退局面に陥った時期だ。

 大体「損切丸」が現役の頃は、このJobless Claims が30万件を上回ったらアメリカは景気後退入りのサインと解釈されていた。よく話題になる失業率や非農業部門雇用者数よりも先行性があってデータ精度も高く、金利トレーダーには重用されていた指標だ。

 4月には2,000万人の雇用が失われる、との予測もあり、失業率の悪化についても、リーマンショック後の10%はおろか、1939年の世界恐慌時の25%を例示するメディアもあるほど。それだけ今回の328.3万件は衝撃的だ。

 しかし...。それでもNYダウは上昇を続け、ついに「損切丸」で一次ラインと見ている22,000ドル台を回復している。

主要株価 25 Mar 20

 無理に理屈をこじつけようとすれば、企業は倒産を免れるために迅速にレイ・オフ(Lay Off)=「首切り」→ デフォルト・リスク減退 → 株は買い、ということにでもなるだろうか。確かにアメリカは日本やドイツに比べると解雇に厳格ではなく、雇用の流動性は高い。だがそれだけではなさそうだ。

 よくアメリカは家計資産における株の比率が高い、と言われる。「資金循環の日米欧比較」(2019.8日銀調査統計局) を参照してみよう。

家計資産

家計資産(グラフ)

 確かに米国は株式の運用が3割を超え、投資信託を加えると50%近い。日・欧と比較しても圧倒的に多い。参考に「企業負債」も見てみよう:

企業資産(グラフ)

 企業の資金調達となると株式が日・欧でも5割を超えてくるが、それでもアメリカ(59.7%)には及ばない株によってアメリカの経済構造は成り立っている、といっても過言ではない姿が浮かんでくる。

 つまり、アメリカで株は下がってはいけないのである。だからトランプ大統領も100兆円規模だった経済対策を急に倍の200兆円に増やしたりする。日本では考えられないことだ。

 「下働き」の3,700万人から出ると予想される200~300万人の失業者も、株さえ上がればなんとかなる、とも言える。だが本当に大事なのは「百人の村 アメリカ」では10%にも満たない「富裕層」、「資産家」である。なにしろ一京円近い膨大な個人資産の殆どを彼らが保有しているのだから。

 つまり大統領選のある2020年、株価の下落は選挙での敗北に直結する。「富裕層」「資産家」のバックアップなくして大統領戦には当選できない。これが米株価が下がらない(下がってはならない?)**真の事情である。

 **家計であまり株を持たない日本では実感できないかもしれないが、アメリカでは株価の下落は個人消費に直接大きなダメージをもたらす現代では失業、雇用より株価の方が大事と言っても良いぐらいである。

 そこに都合良く「買いバイアス」のかかり易いAI、アルゴ、HFTなど便利なマシーンが登場。使わない手はない。大手証券会社の株は今や「機械取引」が主流なので、凄まじい力で買い相場を「増幅」してくれる。

 しかし...それでもなおこの「株高・絶対」のアメリカ経済、本当にうまくいくのか?パンデミックは想定外とは言え、トランプ大統領の「株高戦略」は失敗に終わりつつある。失業率が10%を超えようか、という時に、いくら「機械」の力を使ってもNYダウを29,000ドル台まで戻すのは並大抵ではない。デフォルト(倒産、破綻)も正念場はこれからだ。

 パンデミックとの「先が見えない闘い」はかなり厄介だ。今後も「違和感ありあり」の相場がアメリカ中心に続きそうだが、こちらも気持ちを切らさずに冷静に見ていきたい。マーケットにも「神の手」は必ず働く

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?