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日銀が10年国債を100%以上保有??? ー JGBマーケットを壊し続ける「国債無制限買取オペ」。

 ”10年国債、日銀保有比率100%超え4銘柄”
日銀保有比率(1/20):新発369回債@111%、368回債@104%、367回債@106%、358回債(チーペスト=先物受渡適格最割安銘柄)@115%

 ニュースを見た瞬間何の事かわからなかった読者もいたかもしれないが、実際、日銀が保有する10年国債4銘柄の保有比率が100%を超えた ↑ 

 JGB市場では実は往々にしてこういう事が起きる。少し専門的な話になるので説明しておこう。鍵になるのが「レポ市場」(貸借)だ。

 銀行やファンドのトレーダーが「金利上昇」を見込む局面では「JGB売り」から入る。これは等の取引にも用いられるいわゆる「空売り」という手法だが、*JGBや株の現物を持ってないトレーダーが「賃借料」を払って「レポ市場」でJGBを借り、それをJGB市場に売却して値下がり=「金利上昇」を待つことになる。

 ファンド等が好んで行う、いわゆる「レバレッジ取引」の鍵を握るのがこの「レポ」売買と「レポ」を繰り返せば、理屈上はリスクを5倍、10倍に膨らますことが出来る「高収益」を求められる彼らにとってはまさに ”打ち出の小槌” なのだが、リーマンショック(2008)以降、バランスシート縮小を迫られた銀行が「レポ」を減らしたため、かつてのようにリスクが取れなくなっている。

 相場が荒れて売買いが交錯するとJGBの売買とレポ取引が増え、JGBがグルグル回る ”ループ” が起る。日銀による国債買占めとも関係してくるので、少し説明しておこう 

  の例ではA、 B、C3行の間で369回債がグルグル ”ループ” し、決済が付かなくなる。最終的に ”ループ” を解消するには本当に369回債を持っている銀行( ↑ D銀行)を見つけ出してJGBを回す必要がある。現在の様に日銀がJGBの半分以上を買占めている状況では、当然日銀にJGBを借りなければいけない事になり、1/20現在「売現先」が8兆円にまで膨らんでいる

 端的に言えば「売現先」で貸している8兆円分のJGBを日銀が発行残高を超えて保有していることになる。実は「JGB保有+レポ」で発行残高以上に取引が膨らむのは珍しい事ではない"異様" なのはそれが日銀に集中している事市場参加者の売買いで値を決める「自由市場」に対し、今のJGBは政府主導の「規制市場」マーケットの価格調整機能が損なわれている

 それでも ”羊のようにおとなしい日本人” 相手なら日銀が牛耳る「規制市場」でも対応できそうだが、そうならない ”裏事情” もある。実はJGBの裏側でやり取りする「お金」の方に歪みが生じつつある。

 ”ループ” 防止のためもあり、日銀は「売現先」でJGBを貸出し。その「担保」として銀行から「お金」を預かる。これにより銀行から「お金」を吸収するため、インターバンクのコール市場に「引締め」効果を生む

 以前 「政府預金」の謎。 ー 日銀バランスシート速報@9/10。|損切丸|note でも詳説したが、財務省は余った「お金」を日銀に「政府預金」している。これは湧いて出た「お金」でも輪転機を回して刷った紙幣でもなく、短期国債(TB)を発行して市場から吸上げた「お金」。実際「感染症対策特別貸出」が150兆円に膨らむ過程ではTBをガンガン発行して日銀の「資金繰り」を支えた

 元・専門家の「損切丸」はコッソリ(苦笑)研究してきたが、日銀の「売現先」+「政府預金」=マーケットからの「資金吸収」、が増える局面ではTONAR(無担保コールO/Nレート)がゼロ%に接近している ↓

 市場残高が20兆円を超えない現状コール市場は著しく柔軟性を欠いており、市場残高の倍を超える40兆円もの「資金吸収」はかなりの金額短期金利には上昇圧力として作用する。

 「国債無制限買取オペ」をこのまま無造作に続けていけば、「政府預金」にしろ**「売現先」にしろマーケットからの「資金吸収」が増加し、TONARはゼロ%を超える「強制利上げ」に向かう。日銀から借りる「ロンバード借入」は@+0.10%のため、最大そこまで「利上げ」は有り得る

 **「売現先を止めてJGBだけ貸せばいい」そう思うかもしれない。だがそこは 日銀は方針を変えたのか? ー 「5年物共通担保オペ」の意義。|損切丸|note でも解説した「資産健全性の原則」=「有担保主義」が立ちはだかるJGBを貸した銀行が破綻した場合、「お金」同様日銀が損を被る事になるため、「担保」として「お金」を預かる事は必須

 日銀の「資金繰り」を司る現場(市場調節課等)は雨宮副総裁を筆頭にブレイン・ストーミングが続くが、かなり "崖っぷち" なのは間違いない。

 そう考えてくると「共通担保オペ」の期間を1年から10年に伸ばしたのも、現総裁退任までの2ヶ月をやり過ごすための苦肉の策に映る。ただ「共通担保オペ」中心のオペレーションに戻す事自体は、銀行等の市場参加者に「価格形成機能」を返していくために必要な措置でもあり、日銀が直接株やJGBを買い付ける「バズーカ方式」は減っていくだろう。

 もっとも ”寝た切り” だった日本のマーケットをベッドから起こして運動出来るよう "リハビリ” するにはかなりの痛みを伴う。たが方向性は間違っていない。上手く通過できれば実りもある。2023年はその最初の年となる。 

 

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