『古書通例』巻一「凡欲読古書から職是故也」まで

巻一 案著録第一

諸史経籍志皆有不著録之書

凡欲読古書、当知古之学術分爲若干家、某家之書、今存者幾種、某書爲某人所撰凡若干篇・若干巻、而後可以按図索驥、分類以求。又或得一古書、欲知其時代撰人及書之真偽、篇之完闕、皆非考之目録不爲功。自唐以前、目録書多亡、今存者漢・隋・唐之経籍・芸文志而已。宋以後私家目録、雖有存者、然所収僅一家之言、不足以概一代之全、仍非先考史志不可。蓋一代之興、必有訪書之詔、求書之使。天下之書既集、然後命官校讎、撰爲目録。修史者拠爲要刪、迻写入志、故最爲完備、非蔵書家之書目所可同年而語。張之洞書目答問、歴挙漢以下諸史志、謂爲「目録之最要者、雖非専書、尤爲綱領」、職是故也。

凡そ古書を読まんと欲するに、当に古の学術 分かれて若干の家と爲り、某家の書、今 存する者は幾種なるか、某書 某人の撰する所の凡そ若干の篇・若干の巻と爲るかを知るべく、而る後に以て按図索驥①し、分類して以て求む可し。又 或いは一の古書を得、其の時代の撰人 及び書の真偽、篇の完闕を知らんと欲するに、皆 之を目録に考ふるに非ざれば功を爲さず。唐より以前、目録書  亡ぶもの多く、今 存する者は漢・隋・唐の経籍・芸文志のみ。宋より以後 私家目録、存する者有りと雖も、然れども収むる所は僅かに一家の言②のみにして、以一代の全③を概ぶるに足らず、仍りて先に史志を考ふるに非ざるは不可なり。蓋し一代の興るや、必ず訪書の詔④、求書の使⑤有り。天下の書 既に集まり、然る後に官に命じて校讎し、撰して目録を爲らしむ。史を修むる者は拠りて要刪を爲し、迻写⑥して志に入る⑦、故に最も完備爲り、蔵書家の書目の同年にして語る可き所に非ず。張之洞書目答問、漢より以下の諸々の史志を歴挙し、謂爲へらく「目録の最も要たる者、専書に非ずと雖も、尤も綱領と爲す⑧」、職 是の故なり。

①按図索驥:訓読すれば図を按じて驥を索む、つまりここでは、某書の篇や巻数をなどを知ったうえで捜索することを指す。
②一家の言:独自の見解といった意味。だが、ここでは「一代の全」と対になっているから、一人、ないし一つの流派の本しか収録できないというような意味か。『文選』「与呉質書」に、「著中論二十餘篇、成一家之言、辭義典雅、足傳于後、此子為不朽矣」とある。
③一代の全:ここでは、「一家の言」と対になっているから、その時代におけるすべての書物というような意味であることがわかる。
④訪書の詔:書物を訪ね求める詔。『宋会要輯稿』崇儒 求遺書藏書 紹興二十九年条に、「二十九年、詔、昨降指揮、求訪書籍、至令投獻尚少。蓋監司郡守視為不急、奉行滅裂、可檢舉申嚴行下。」、「十月十二日、上因諭輔臣曰、祕府求 訪書籍、近日来者稍多、前日所立賞格、宜更加勸誘、庶幾繼有来者。」とある。
⑤求書の使:書物を求める使者。
⑥迻写:移書に同じ。
⑦入志:『志』に入れる意味にとった。正直よくわからない。
⑧張之洞『書目答問』巻二 史部に、「『古今偽書考』一卷。目錄之學、最要者『漢書』藝文志・『隋書』經籍志・『經典釋文』敘錄・『舊唐書』經籍志・『新唐書』・『宋史』・『明史』藝文志。『文獻通考』中經籍考、雖非專書、尤為綱領。」とあり、具体的な書名は省略されている。

およそ古書を読もうとする際に、いにしえの学術が分かれていくつかの流派となり、どの流派の書で、現存するものは何種類か、ある書物はどの人に撰述されたおよそいくらかの篇・いくらかの巻であるのかということを知るべきであり、その後にようやく捜索し、分類して探し求めることができるのである。またある時一冊の古書を得て、その時代の撰述者および書物の真偽、篇の完闕を知ろうとした際、どの場合においてもこれを目録に調べるのでなければ分からない。唐より以前、目録書は多く亡佚してしまい、現存するものは『漢書』・『隋書』・『旧唐書』・『新唐書』の経籍志・芸文志だけである。宋より以後には私家目録の中で、現存するものがあるけれども、収録しているのはただ一つの流派の書物だけであり、時代全ての書物をまとめるには不十分で、よってまず(その時代の書物を調べるには)先に史志を調べなければならない。思うに一つの時代が興隆した際、必ず書物を求める詔書があり、書物を求める使者がいる。天下の書物が集め終われば、その後に官僚に命じて校讎し、撰集して目録を作らせる。修史を担当する官僚は(目録に)依拠して要点を選び出して刪定し、(完成した)書物を移して『志』に入れる、だから(官製の目録書は)最も完備されており、蔵書家の書目が同級生のように(同じ目線で)語ることのできるものではないのである。張之洞の『書目答問』は、漢より以降の様々な史志を歴挙し、「目録においてとりわけ重要なもの(『漢書』など)は、(史書であるため)目録専門の書物ではないけれども、もっとも大切である」といっている、目録作りが専門の職であるのはこのためである。


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