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続:エディトリアル演習 #000

はじめまして、岡本健デザイン事務所の岡本健と申します。

グラフィックデザインを生業として小さなデザイン事務所を都内に構え、スタッフ5名と共に切磋琢磨しながら日々様々な仕事に取り組んでいます。

この昨今の状況を踏まえ、2月中旬からリモートワークに切り替え、気づけば4月。元々副業OKだったことが功を奏し、各スタッフの在宅作業環境も整っていたため比較的スムーズに移行できたものの、やはり顔を見ながら会話することの重要性を感じ始めています。zoom等での定例mtgを行い、日々の健康状態やモチベーションをヒアリングしつつ、この状況下で我々ができることは何かと話し合っていました。そしてふとスタッフから「岡本さんがやっていた授業を配信してみてはどうか」というアイデアが挙がりました。

遡ること4年前、私は多摩美術大学統合デザイン学科にて「エディトリアル演習」という授業を受け持つことになりました。プロフィールに記載の通り、私は大学等での美術教育を受けておらず、実務経験での叩き上げでどうにかデザインの仕事に関わらせてもらっている身です。人に教えるという行為そのものも初めてながら、学のない私が講師を務めて良いものかどうか、不安と迷いの中で教壇に立ちました。

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「エディトリアルデザイン」と聞けば大抵の方が雑誌や書籍の紙面デザインを思い浮かべると思いますが、統合デザイン学科なりのエディトリアル演習として、雑誌や書籍だけでなく、ポスターやパッケージ、 プロダクトや展示空間、webやUIなど、様々な分野でのエディトリアルを教えてほしい、というのが依頼内容でした。

editorialという言葉が広義に "編集" を意味する通り、エディトリアルとして扱うべき媒体は雑誌や書籍だけに留まりません。ポスターの文字情報、パッケージの成分表示、電化製品に施すスイッチとその中にある文字でさえも、誰かが情報を整理し、人に正しく伝わるように工夫をしています。比較的そういった整理や作業が得意だという自負があった私は、この統合デザイン学科的エディトリアル演習の依頼をすんなりと受け入れることができました。

それではどうやって、様々な状況下での「エディトリアル」を生徒に伝えるべきか。散々思い悩んだ末に考えた方法は、まずは自分がこれまで経験した全てを晒け出すことでした。自分が実務経験を経て、自己流で学んだこと、先輩から教わったこと、上司の背中を見て盗んだこと、ボスが発した神がかった言葉や、事務所の過去のデータを血眼に見て研究したことなど、自分が叩き上げでやってきたことを一旦全て生徒に伝えてみることにしました。

奇しくも私が初めて担当した生徒達は、新設された学科の一期生。ある生徒から「私達は一期生だから、モルモットだと思って何でも試してくださいね」と言われた時、授業内容が正しいのかどうか分からず不安に思っていた私の心が救われたのと同時に、「このモルモット達が社会にでて大暴れできるくらい強靭に育ててやる」と講師としての熱量が一気に上がったのを覚えています。

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授業を開始してすぐに、私は大きな誤算に気づきました。それは「学生は想像以上にPCでの作業ができない」というものでした。美術大学に行きたくても行けなかった私は若かりし頃、果てしない実務作業をしながら「美術大学に行っていれば、きっとこんな作業もサクサク終わらせるスキルを身につけていたはずなのに」と悔やんでいました。そんな曖昧な悔やみから勝手に美術大学を神格化し、大学生の作業スキルを見誤っていたのです。
改めて考えれば、大学というものは幅広く学びと気づきを与える場であり、決して職業訓練を行う場ではありません。しかしながら私は身勝手に学生のスキルを信じ「さあエディトリアルをはじめよう」と意気込んでいたのでした。

この誤算により、私の中である疑問が生まれました。「このまま生徒達が社会にでたら、どうなるだろう」。大した作業スキルもなく学もないままアルバイトを転々とし、本当にデザイナーになれるのかどうか不安になりながらも目の前の作業が終わらず、ひとつの作業に途方もない時間をかけた上で、思うような形すらつくれない。もがき苦しんでいた昔の自分と重なりました。

学びや気づきを見つけることはできても、日々の作業に忙殺されてしまっては学問を活かす場所はありません。そしてその日々の作業は、大抵新人に回ってくるのです。その新人ならではの最初の荒波ともいえる「日々の作業」を乗り越えられるかどうかで、その後の働き方が大いに変わってくると感じています。

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上記の図は、授業中に生徒に出したタイムアタックテストです。もしご興味があれば、Adobe Illustratorを用いて上記の指示通りに黒いオブジェクトをレイアウトしてみてください。皆さんはどのくらいの時間でつくることができるでしょうか。まだ何もスキルを教えていない状態で、手練れの学生は5分程度。15分経っても終わらない生徒もいれば、そもそも作り方が分からずに挫折する生徒もいました。(ちなみにやり方さえ分かれば、1分を切ることが可能です。)

同じ作業を、5分かかる人と15分かかる人がいる。少し拡大解釈ではありますが、分を時間に置き換えると、5時間で終わる作業に15時間かかってしまう人がいる。働き方改革が実施され長時間労働の是正が行われる中、デザイン業務には逃れることのできない沢山の作業があります。しかしながらそれらの作業を行う時間は人によって、1時間にも、5時間にも、15時間にも変化してしまうのです。長時間労働により体調を崩したり、時には命を落としてしまうような辛いニュースを耳にする度に、会社の仕組みや制度だけではなく、作業効率の向上が、ひょっとしたら状況を打破できたのではないかと考えてしまいます。

こうした考えのもと、エディトリアルの授業の中ではエディトリアルデザインと同時進行で、Adobe Illustratorを中心とした作業スキルを上げるための演習を行いました。結果的に生徒達の作業はみるみるうちに上がっていき、PCでの作業が "なんとなく" 苦手だったという生徒は苦手意識がなくなり、手練れだった生徒は更なるスキルアップを実感してくれていました。卒業した生徒から今でもときたま「あの時教わったことが役に立っています」と報告があることが、私の何よりの喜びです。

これらの授業は3年間という短い期間でしたが、自分が今までやってきたことを改めて言語化し、他者に伝えるためのツールをつくる非常に光栄な機会でした。そして今、昨今の状況によりオンライン授業しか受けられない生徒や、在宅勤務により少し手が空き更なるスキルアップを目指したい社会人の方、また趣味でAdobe Illustratorを触っている方など、様々な人がポジティブに有意義な時間を過ごすことができるよう、私が教えてきた内容をnoteで公開し、多くの方に学びを得てもらう機会を作ってみてはどうか、と考えた次第です。

まずはAdobe Illustratorの基本動作、ショートカットや時短作業のTipsから、そして文字情報の整理整頓のための思考法、さらにはマニアックな文字間の微調整まで。伝えたい内容は山ほどあるので、それらを少しずつ、お知らせしていければと考えています。

ご覧の通り文才もなく読みづらい箇所も多々あるかと思いますが、ひとりでもこの内容を必要としてくれる人がいるのであれば、今こうして文章を書く意味があるのではないかと感じています。

こういった発信も不慣れですし、どのくらい続けられるのかもわかりませんが、自分なりに精一杯伝えていければと思います。

それではこれから、よろしくお願いします!

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