マツでもクスノキでも焚こうじゃないか

 薪ストーブユーザーには根強い「ナラ・クヌギ信仰」がある。

 乾かせばなんでも燃えるのにコナラやクヌギなど里山の代表樹ばかり欲しがるのは、聞きかじりの耳年増ユーザーが増えてきたからだ。

 耳年増ユーザーの増加は産業に弊害をもたらすこともある。たとえば「備長炭はウバメガシで作る」というのはビーパルやサライの読者がいかにも得々と語りがちなネタだ。しかし備長炭焼きのトオルちゃんによるとウバメガシは最高品質の備長炭を焼くのに都合のよい樹種というだけで、昔はカシでも焼いていたのだそうだ。

 「備長炭=ウバメガシ」という流言がひろまり、今となってはウバメガシの備長炭しか売れなくなってしまったし、カシで備長炭を焼く技術もすたれてしまった。もともと岩山にしか生えないウバメガシはいまや調達が困難になり、備長炭の値段もメチャクチャに高騰している。東京の一流料亭の高額の飲食代のいくぶんかは、ひと箱15kgで軽く1万─2万円もするこの驚異的に高価な燃料代金も入っている。

 たしかに薪ストーブの燃料としてナラやクヌギは火持ちがいいし、皮がゴツゴツしていて「いかにも」な見栄えである。雑誌やWEBの写真ばかり見ていると「こういうのがステキ」と刷り込まれるのだろう。

 しかしナラやクヌギ(当地では多くがアベマキ)にも欠点がある。いちばんの問題は腐りやすいことだ。

 盛大に植えられ、シイタケの原木やウイスキー樽の材料などいろんな用途に使われてきただけあってほかの生物が好む栄養分が多すぎるのだろう。いろんな昆虫や菌類のエサになりやすく、雨に濡らしたりしばらく放置したりするとすぐに材の中に菌が走って質が落ちていく。コルク質の樹皮がはがれやすく室内にゴミを落とすのもめんどうだ。

 反対にあまり好かれないクスノキなどは庭に放りっぱなしでもぜんぜん腐らない頑丈な材質である。樟脳(防虫剤)の原料になってきたただけのことはある。この性質はテキトウな管理で燃料を調達したい我が家のような家にはとても有用だ。割らなくても庭に転がしておけばそのうち乾いて使えるようになっている。

 こんなふうに樹種を選ばずなんでもござれ。ストライクゾーンをひろげておくと、我が家にはナラやクヌギ以外の樹種の丸太がいくらでも造園屋さんなどから手に入る。しばらく作業をさぼっていたら、今年はひさびさに庭が丸太の海みたいになってきた。

 今年はマツの入荷が多かったので、庭の大型焚火台でガンガン焚きながら、室内のストーブにも混ぜて使っている。

 「マツは樹脂が多すぎてストーブを傷める」とか、誰が言いだしたんだろうか。50年前以上前、日本各地の小学校にあった国産ダルマストーブですら石炭を焚いていたのである。ダルマストーブより圧倒的に高品質な現代の舶来薪ストーブがマツくらいで傷むわけがなかろう。自分で考える力がないとそういうウソにすぐだまされる。

 とはいえマツをじっさいに集中的に使って観察してみるとじつに感動的なくらい樹脂の塊である。薪から噴出してくる可燃性ガス(黒煙)の量がハンパではない。ブスブスいわせてヘタクソに焚きつづけると煙突が詰まりやすくはなるだろう。

 ウチのストーブでは1/2から1/3くらいの量を他の薪に混ぜて使っている。すると1時間たってほかの薪がほぼ燃え尽きたあとも、マツの薪はまだ樹脂を放出しながら燃えている。いっぽう同じマツでも立ち枯れ材はやっぱり樹脂が抜けてしまっていてたいして火勢が出ないのもおもしろいものだ。

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