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自転車を越えつつある乗り物(VanMoof S3 購入レビュー)

 電動自転車のVanMoof(バンムーフ)のS3を購入した。試乗報告やYouTubeレポートはWEB上にもたくさんある。おれはマウンテンバイクユーザでもあり、工業製品を作っている会社を経営してもいるので、そういった観点からも入れたレビューを書いてみる。
 あくまで購入して数日段階での覚え書きだ。長く使うことで印象もまた変わるだろうことを楽しみにして、ひとまず。


【根本的特徴】
□自転車の定義とはなにか。これは自転車の定義からはずれつつある乗り物ではないか。
□作り手の趣味で作っていない。ほとんどのバイクや自転車は好事家の集まりが作っていて、それが多様なテイストの違いになっていておもしろい世界を作っている。しかしVANMOOFのスタイルは一線を画し、ユーザが認識していない自転車の課題、社会問題までを課題として解決した好例。
□キックスケーターや電動スケボー、スマホ連動、GPS管理、乗り捨てサービス(シェアサイクル)などのあたらしい競合が出てくる中で、2輪のシティコミューターはどうあるべきかの体験を設計しなおした。新しいものを取り込みつつ「自転車」というだれもがすぐになじめるものに落とし込んだ。
□VANMOOFは盗難にあっても同社が提供する「ピースオブマインド(POM)」保険によりタダで戻ってくる。GPSで追いかけて回収チームが奪還をこころみ、できなかったらもう1台提供される。→自分が所有しているのか、VANMOOF社の製品をレンタルして借りているのか微妙な感覚になる。(購入してるんだけど、レンタルかサブスクみたいな感触になる)
□安い。これだけついてて25万円。導入のための戦略的価格設定なのか。ロードレーサーが高すぎるのか(考えてみればレーサーは先鋭化して高価になるのはあたりまえかも)。
□アーバンコミューターという大きな市場を狙っているからこそ値段を最初から安くして大量販売で回収する。


【既存自転車の要素を変換、それによる体験の変化】
□前例無視のしかたがすごい。「ふつう必要」と思われるものを削ったり別の方法を採用し、デザイン+技術+ITで解決する。その結果「こっちのほうが断然いい」と思わせる。
□e-bikeという複雑な仕組みを採用しているのに、変速機すらついていない。新しい道具にはつきもののはずの乗車前の説明が自転車より少ない。「はいどうぞ」でただ乗るだけ。
□乗ってみると、これまであたりまえだった変速操作や夜間走行のためのライトの準備、カバンにワイヤーロックを入れたりといういっさいの作業がいかに不便だったかはじめて気づかされて愕然とした。
□モーターは前輪ハブモーター。つまり前モーター、後ろ人力の2輪駆動(ブリジストンに前輪駆動のアシスト車の例がある)。
□前輪モーターの採用は意味がちゃんとある。オランダという平地国家のコミューターという、アップダウンより街中の段差のほうが自転車の敵になるユーザーシーンにマッチさせた結果か。
□手元の変速レバーなし(→オートマ4段)
□カギなし(→スマホ、スマートウォッチでロック解除。手動でも3ケタコードで可能)
□ベルなし(→クラクションがついてる。ブヒーとかいろんな音が出せる。人のいるところで試してみると、1度も聞き逃されることがなかった)
□他社製に交換できるのはペダルとグリップだけ(→でも大多数のアーバンコミューターユーザはそれでいい)
□ヘッドライトがやや操舵に遅れてふわりと追従してくる有機物感。
□前照灯・尾灯は明暗センサーによる自動点灯なのでなにも気にする必要がない。バッテリは本体に存分にあるから電池交換や充電の必要もない。
□グリップはやや扁平になっている。体重がいちばんかかる位置が平たくなっている。ブレーキレバーの位置はグリップと連動していて動かせない。「グリップはこう握るから、ブレーキはここにあるべき」という設計思想がある。
□自転車に乗るのにヘッドランプも尾灯も乾電池の交換もUSB充電もカギもズボンのスソを留めるバンドもなにもいらない開放感。
□チェーンカバーを装着してメンテナンス頻度を下げ、かつルックスをすっきりさせている。
□通信販売という形態で自転車を売るため、組み立てが素人でもできるように工夫されている。IKEAの家具プラスアルファくらいの手間で組み立て可能。(ハンドルの固定、前輪と配線の接続、ペダル装着)

【バックグラウンド】
□VANMOOFはオランダという風の強い、平地の、巨人の多い自転車国家から生まれた。
□ちなみにオランダ人男性の平均身長は180cmを超える。
□大柄な車格がもたらすゆうゆうたる乗り味。ママチャリ電動アシスト車のようにチョコマカしていない。


【環境インパクトの低減】
□緩衝材をVANMOOF本体に留めるために使っているタイラップがすべてリピートタイだった。


【欠点】
□工具やライト部の仕上げに品質管理のまずさを感じる。塗装のはがれと工具(六角レンチ)のゆがみが見つかった。

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