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私の名は。

マーカスにチキンとスプライトを届けに、第5の山と名付けられた地域へ向かいます。この辺りは治安も確か悪くなかったはずなどと考えながら車を走らせていました。

目的地に近づくにつれて、見たことのある街並みが広がってきました。あれ、もしかするともしかするな?という予想はすぐに当たりました。

マーカスの家は、ゆいさんの家のすぐ向かいでした。やっぱりゆいさんちのとこだったかと車を停める場所を探していると、これまた見たことある人が乗った、見たことある車とすれ違いました。

「あ!」

向こうも「あれ?」という顔をしています。

しかし止まることも出来ず、そのままお互い通り過ぎてしまいました。

確かにその人は、ゆいさんの旦那さんでした。挨拶できなかったのは申し訳なかったと思いつつ、マーカスの家の前にチキンとスプライトを置きました。マーカスは家の中からすぐに出てきて「ありがとう!」と言って、すぐに扉の奥へ戻って行きました。

車に戻った私は、ゆいさんにメールを書きます。「旦那さんとすれ違ったけれど挨拶出来なかった。ごめんなさいとお伝えください。」という、ゆいさんからしたら何の話?というような内容になりましたが、気にせず送ることにしました。

ゆいさんはすぐに返信をくれ、笑いながらも私の謎のお願いを快諾してくれました。


渡米直後、あるイベントに参加しました。私は事前にもらっていた参加者リストの中にゆいさんの名前を見つけ、すごく緊張したのを覚えています。ここで日本の方に会う、初めての機会だと気付いたからです。

日本人同士、気恥ずかしいというか何というか、お互い「あの人、日本人かなぁ?」と思っていてもなかなか言い出せない時があります。そんな時間が長くなればなるほど、どんどん言い出せなくなり、遂には話しかけられなくなります。そうなるのは避けたかったのです。

イベント当日、私はいの一番にゆいさんを見つけ出し、大きな声で言いました。

「はじめまして!おかもち子です!」

ゆいさんは、知らない人間が日本語でいきなり名乗ってきて驚いたと思いますが、すぐに打ち解けることができました。アメリカに来て初めてのお友達がゆいさんです。

誰も私の名を知らなかったあの頃と比べたら、この街にもだいぶ馴染んできたかもしれません。

嬉しい偶然に喜びながら、ガソリンスタンドに向かいました。

(2件分)
所要時間:50分
配達料:$7.50
チップ:$9.64

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