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有川浩『阪急電車』何回も楽しめる、学べる、考えさせられる

ご存じない方は、阪急電鉄と東宝の公式サイトがあるので、ご参照ください。

もう10年前の作品ですが、小説版とDVD映像版、今でも、時々読み返したり、観直したりしています。私は阪急の神戸・宝塚・京都の各線にある街歩きが好きなので、この作品はツボにはまりました。

作品全体を貫いているストーリーは、もちろん大好きです。私は、より一層楽しむために、登場人物でも、沿線風景でもいいのですが、何か一つテーマを決めて、読み返したり観返したりしています。そうすると、私なりの発見、学び、楽しみがありますから。これから、この場でも、何回かに分けて、感想やらレポートのようなものを書いてみたいです。

今回は、「作品唯一の悪役」、カツヤ君(映画では小柳友さんが熱演)に注目。ミサちゃん(戸田恵梨香さん演)をDVで苦しめ、時江さん(宮本信子さん演)に「くだらない男ね!」とバッサリされていた人物です。

なぜ、私がカツヤ君に注目したのか。それは、作品の中で、ただ一人、笑顔が描かれないまま、消えていくから。

恋人のミサちゃんを殴るわ怒鳴るわ、阪急電車のドアを蹴るわ(映画では叩く)、乗客の幼い女の子を泣かすわ・・・ついには、ミサちゃんの親友のお兄さんが別れさせ屋的な立場で登場し、ようやく身を引く。イケメンだけど、これといった特技や趣味もなさそう、女性やモノにしか当たれないサイテーな男・・・(あまり書くとネタバレになるのでこの辺で)

人の嫌がる言動を平気でやってのけるこのカツヤ君、どういう子供時代を送り、どういう育ち方をして来たのか。そして、どういう大人になるのだろう。有川浩さんだったらその辺をどう書くのだろう。こんな勝手な想像をしてしまいました。

そういう勝手な想像をしたきっかけは・・・DVの被害者の支援活動だけでなく、加害者の状況を把握し、その立ち直りの支援の現場に詳しい方に、お話を聞いたことです。カツヤ君のような人も、自身の置かれた環境に悩み、生きづらさに苦しんでいる、人一倍繊細で弱い場合もあるのだということでした。

小説、映画の舞台になっている阪急今津線・神戸本線の沿線は、DVに限らず、いろいろな生きづらさを抱える人たちを、民間レベルで団体やサークルを作り、支援する活動が盛んな地域だと思います。宮本信子さん演じる、時江さんのような気持ちの人が、こうした支援活動を支えている面が大きいと考えます。

その話を聞いた後、『阪急電車』の映像を観て、小説を読んでみました。カツヤ君も、こういう支援のことを誰かに教えてもらい、自分のしたことを後悔する。ミサちゃんへの償いの気持ちを抱きながら、苦労しながら、社会性を身に付けていくような存在であってほしいな、と感じました。

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