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大衆演劇「劇団朱雀」2代目座長の早乙女太一に生き方を学ぶ!『③仕事ができる喜びを感じた日』

ゴールデンウィークど真ん中の5月3日。
この日は、両親の結婚記念日だ。

以前は、両親の結婚記念日にプレゼントを送っていたが、10年ぐらい前からお祝いの品は食事会へとシフトチェンジしていった。

なんでも、70歳を過ぎたころから物欲がなくなったらしい。

「欲しいものなんてなんにもないよ。」
と悪たれをつくばかりで、何をあげても喜ばなくなったのだ。

だったら、お食事会のほうがいいか!

と、3姉妹(ちなみに、私は3姉妹の長女だ)で相談して、結局食事会に落ち着いたのだ。

高級店での焼肉ランチ会は、私にとって初めてだったが、サービスもよく、個室だったこともあり、とてもリラックスできた。

それに加えて、美味しいお料理のおかげでもあるし、なにより「あの母」が、かなり穏やかになったことも、私がリラックスして食事ができた理由の一つだと思う。

ニコニコしながら焼肉を食べる母をみて、10年前の食事会を想いだした。

あの年の恒例の両親の結婚祝いのお食事会。
溜池山王の某ホテルで、お寿司をごちそうした日のこと。

さすが高級ホテル。
美味しいお寿司に、素敵な雰囲気。サービスもすばらしく大満足だった。

でも、そのお食事会での家族の会話が私にとって最悪・・・・だったのだ。

久しぶりにあった両親が、

「最近、どうなの? 店の経営の方は??」
と珍しく聞いてきた。

ちょっとは甘えてもいいかな?

なんて思って、つい、愚痴って泣き言言ってみたりした。

そしたら、機関銃のようなマシンガントークで、こう責め立てられた。

「だいたい、粗利益はどれぐらいあんのよ。 支払いが大変、大変、って、そんなの、大変だったらさっさとやめたほうがいいんじゃないの? 
だいたい、あんた、だんなとだんなの親になめられてるんだよぉ。 だから、あんたばっかり、朝から晩まで働かされてさぁ。当の本人達は、のんべんだらりと暮らしてるじゃない。」

「あんたさぁ、馬鹿にされてんのわかっての? なめられてんの、わかってんの?」

「少しは、賢くなりなさいよぉ。 あんた、馬鹿見てんだよ。」

母の金切り声で、美味しいお寿司も、素敵な雰囲気も一瞬にして台無しになった。

「なんで、こんなに責められるんだろう。
ただただ、一生懸命やってるだけなのに。」

心の中でそう思った。
けど、気を取り直して、

「まあ、やっと経営が回せてきたから、これからは、少しづつかもしれないけど、上向きになると思うよ、っていうか、そうしないとね。」

少し前向きな話に切り替えてみた。

そしたら・・・

「そんなのんきなことばかり言ってるから、利用されるんだよ。あんた、利用されるだけなんだよ。馬鹿みたいに一生懸命に働くからさぁ。」

もう、心がバキバキ折れていくのを感じて、美味しいはずのお寿司がのどを通らない。

母の言葉は、ほんとに私の心をバキバキ折った。

「頑張ってるの、えらいねぇ」

とか

「何かあったら言ってくれれば、少しは力になれるとおもうから。」

とか、言ってはくれはしないんだ・・・

そう思ったら、ぽろぽろ涙がでてきた。

そういえば、その数日前には、夫の母に言われた。

「毎日毎日、ふらふらと遊びにばっかり言ってるから、できる支払いも大変になるのよ。 店のため、娘の学費のために、もっとしっかり働いて、稼がなくっちゃだめじゃない。」

え??

店の運営資金の足しになればと、日中の英会話講師の仕事や小学校での仕事と掛け持ちして、夜は毎晩、店で女将業やってるのに。。。

店の定休日だって、ほかの仕事は勤務日で・・・・
カレンダーをみたら、1日中オフの日なんて、3ヶ月に1度ぐらいしかない。

それなのになんで、みんなに責められてばかりなのだろう。なんで、うまくいかなかったのは、私のせいにされるんだろう。

あの時の食事会は、本当に落ち込むだけ落ち込んで、お開きになった。


ふっと、そんなことがあったなぁ・・と、思い出した。

そして、さらにもうひとつ。
その日の直前、太一くんの舞台に行ったことも、思い出した。

その年の4月下旬の某日、太一くんの明治座舞台、千秋楽。

中日も観劇したけど、千秋楽は圧巻の舞台だった。

震災の後ということもあって、いろいろな重責を背負って始まった舞台だと思う。

舞台の途中、余震でなんどもなんども日本中が揺れて、舞台を続行するか、中止するかの決断をする責務が座長にはあって、

でも、そんな中で、冷静に判断して、舞台を続けて・・・

きっと、いろんなこといわれたんだろうなぁ。
いろんなことあったんだろうなぁ。

でも、折れず、ぶれず・・・すごい。

太一君!なんて呼んじゃってるけど、本当は 「早乙女先輩!!」って呼びたいくらい。
(うんと年下なのに・・ごめんね。太一君)

それくらい尊敬している。

どうしたら、そんなに凛としてられるんだろう。
どうしたら、そんなにまっすぐでいられるんだろう。

すでに、80歳をとうに過ぎた母を見つめながら、

あの時の太一君の舞台千秋楽の観劇を思い出した。

「どんなことが起こっても、どんなことを言われても、働ける仕事場あって、一緒に働く仲間がいて、そして、いつも暖かく応援してくれるお客様がいて・・これって、めちゃくちゃ幸せなことなんだ。」

今でも、太一くんの舞台をみてると、本当にそう思う。

あの時、折れかかった私は、太一くんの舞台を観て、元気になった。
もう10年前のことなんだなぁ。

あの時の機関銃のようなマシンガントークで私を攻め立てた母の姿はなく、今私の目の前にいる母は、年老いて、肉を焼くのもままならず、焼いてあげると、

「悪いねぇ。でも、この肉美味しいねぇ。」

と、にこにこして穏やかに話す。

視点は合わず、空を見てる感じの母。

母は、必ずいつかはいなくなる。

あの責めて責めて責め立てたオットの母も、もういない。

だけど、また、違う誰かに責められる時がくるにちがいない。

でも、もう大丈夫。

私はまだまだ折れるわけには行かない。

だから、今の太一君をこれからも見習って、前だけみて頑張ろう。

6月。亀有公演大千秋楽。いけてよかった。

そして大阪公演。ライブ配信と後追い配信で見られてよかった。


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