コーエン兄弟バートンフィンク29a

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖29「The Life of the Mind」

さて、前回は「USOダンスパーティー」の解説だったね。あれは面白かった。

未読の方はコチラ!

第28回「Apocalypse USO」

さあ、いよいよ「炎の中年男チャーリー」の登場やな!

それ違うでしょ(笑)

こっち。

大乱闘となった「USOダンスパーティー」を脱出したバートンは、ホテルの自室へ戻るために6階の廊下を歩いていた。

すると誰もいないはずの部屋のドアが開いていて、中から男の声が聞こえてくる。

バートンのシナリオ『THE BURLYMAN』を朗読しているマストリオノッティ刑事の声だ。

父:奴は今朝「やらねばならぬ仕事がある」と言って行っちまった。イカれた目をしてな…

母:あの子はこの先どうなってしまうのかしら?

父:馬鹿は死んでも直らんもんさ。どこに行くのかは知らんが、いずれ便りくらいは届くだろう。ポストカードじゃなくてな…

FADE OUT...THE END...


NYでの芝居『魚売り』と、LAでの脚本『THE BURLYMAN』両方の〆の言葉になってる「ポストカードじゃない」って、どうゆう意味なんだ?

放蕩息子の消息を「本人からの手紙」じゃなくて「風の便り・伝聞」で聞くってことだよ。

そしてこれは『マルコによる福音書』のラストのパロディになってるんだ。

イエスの教えと伝道生活を「本人の手紙」じゃなくて「福音」で聞くってことだね。

16:15 そして彼らに言われた「全世界に出て行って、すべての造られたものに福音を宣べ伝えよ」
16:20 弟子たちは出て行って、至る所で福音を宣べ伝えた。主も彼らと共に働き、御言に伴うしるしをもって、その確かなことをお示しになった。

ちなみにレスリング映画『THE BURLYMAN』の冒頭も、『マルコによる福音書』の冒頭のパロディなんだよ。

早朝のロウアー・イースト・サイドに響く「魚売り」の声とは、洗礼者ヨハネの叫び声のことだったんだ。

1:3 荒野で呼ばわる者の声がする、『主の道を備えよ、その道筋をまっすぐにせよ』」と書いてあるように、
1:4 バプテスマのヨハネが荒野に現れて、罪のゆるしを得させる悔改めのバプテスマを宣べ伝えていた。

なるほど!

バートンは部屋に入って立ちつくす。

2人の刑事マストリオノッティとドイチェはこう切り出した…

マ刑事「なんだこれ?お前、自分を作家だとか言ってたよな?」

ド刑事「俺は割と好きだぜ」

バ「その穢れた目で僕の原稿を汚すな!」

バートン、よく言ったな!

ちなみにこの構図は、イエスの埋葬室を訪れた「マグダラのマリア」と、埋葬室の中にいた二人の天使だったね。

その通り。

ちなみにバートンにとって、この二人の刑事はファシストとナチスの投影だ。ユダヤ人のバートンにとって憎悪の対象だった。

現実世界でバートンは差別されることもあったから、妄想の中で鬱憤を晴らしているんだよ。この当時はアメリカでも「反ユダヤ感情」が根強かったからね。

1941年12月にアメリカが参戦するまでは、ドイツ系イタリア系の米国人を中心に「親ナチス・ファシスト」の団体が結成され、公然と「反ユダヤ」が叫ばれていたんだ。

のちに「赤狩り」で有名になる「下院非米活動委員会」は、もともと米国内の「親ナチス・ファシスト団体」を取り締まるために活動していたことは前に紹介したよね。

委員会が「反共一色」になるのは、米ソの対立が明確になる戦争末期からなんだよ。それまでは、ソ連は同盟国だから表立って「反共」を叫べなかった…

せやさかいカール・ムント議員が提出した「ムント・ニクソン法案」は否決されたんやな。

ソ連の手前、アメリカ共産党を非合法にはできへんから、せめて党員の情報を国で管理させようっちゅう法律やったけど、それもアカンかった。

詳しくは第27回に書いてあるで。

第27回「カール・ムント」

『サバービコン 仮面を被った街』のモデルになった「レヴィットタウン」の第1号タウンも、ユダヤ人は隔離されていたっけ。

ユダヤ人差別は、ナチスだけじゃなかったんだ。

『サバービコン』のモデルになった町とは?

今でもKKKは「反ユダヤ」を掲げているからね。

なぜ未だにアメリカ人の中に「反ユダヤ」を叫ぶ人がいるのか日本人にはわかりづらいかもしれないけど、モーセよろしく海を渡って「新しいイスラエル」として建国された経緯を持つアメリカにおいて、「古いイスラエル」に忠誠心を抱くユダヤ人への偏見は根深いものがあるんだ。

「黒人VS白人」みたいに視覚的にわかりやすくないから忘れられがちだけど…

映画やドラマなんかでも直接的には言及されないけど、それを臭わす描写はよくあるから意識的に見ると面白いよ。

OK牧場!

ちなみに、二人の刑事の間でバートンのシナリオの評価がわかれたことにも意味があるんだよ。

マストリオノッティ刑事は「なんだこれ?」と言い、ドイチェ刑事は「割と好きかも」と言った。

なぜだかわかる?

そこはあんたの深読みじゃね?

そんなことないよ。

天才は無駄なことをしない。コーエン兄弟は決して意味のないセリフを使わないんだ。

実はこれ…

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