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映画のトリセツ前篇 ~『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』徹底解剖1

はぁ…

どうしたんや、ため息なんかついて。

はあちゅうとしみけんの結婚にショックでも受けたか?

そうじゃなくてね…

コーエン兄弟の『RAISING ARIZONA(邦題:赤ちゃん泥棒)』の解説を書こうと思って映画を観たんだけど、あまりの衝撃にショックを受けたんだ…


え!?ちょっと待って…

今まで観たことなかったの!?

前に予告編で書いてなかった?

あれは、映画のトレーラーとwikiにあった「あらすじ」を見て感じたことを書いただけ…

僕はその時、ニコラス・ケイジ演じるハイが持っているボードに暗号が隠されていることに気付いた…

ハイの本名「H.I.McDunnogh」の本当の意味は「アダム」…

だからこの映画は「アダムとイブの失楽園」を描いたものに違いないと思ったんだ…

まあ「失楽園」をモチーフにした映画なんて腐るほどあるから、その時は特にそれ以上調べようとしなかったんだよね…

で、ようやく観たわけやな、映画を…

そう…

そして僕は途方に暮れた…

はっきり言って、この映画は凄過ぎる…

最初から最後まで、全シーン全セリフ、そして音楽までも、すべてが完璧なんだ…

スクリューボール・コメディーの大傑作だよ…

スクリューボール・コメディって何?

1930年代中頃から1940年代にかけて流行した喜劇映画のスタイルやな。

当時はオトナの男女関係とか今みたいに直接表現することが出来ひんかったんで、ドタバタ会話劇で「あたかも別のこと」みたいに描いたっちゅうわけや。

表面に見えるストーリーだけ追っとったら騒々しいだけの映画なんやけど、セリフや描写の裏の意味が理解できるとめっちゃ笑える。

ハリウッドは規制が厳しかったからね…

「清く、正しく、逞しく」というアメリカ人の理想像から外れるキャラを主人公にしてはいけなかったんだよ。

性愛だけじゃなく宗教的テーマも同様だったから、ちょっとでも踏み込んだ表現をしたい場合は、やっぱり別の形に置き換えなければならなかったんだ。

そのスクリューボール・コメディ黄金時代を代表する人物がプレストン・スタージェスだね。

脚本と監督を兼務することにこだわりを持つコーエン兄弟の「生みの親」ともいえる人物だ。

この『サリヴァンの旅』って映画も、いつか解説するって言ってたね。

コーエン兄弟やカズオ・イシグロを語る上では欠かせない映画だからね…

さて、アメリカで一時代を築いたスクリューボール・コメディだけど、日本人にとっては大きな難点があった…

それは、映画を日本語に翻訳するのが非常に難しいということ…

いや、不可能と言っていいかもしれない…

ふ、不可能!?

比喩、言い換え、駄洒落、引用、小道具の使用など、ありとあらゆる手法が駆使されているからね…

しかも会話はマシンガントークだ…

書籍でも難しいのに時間&空間的制約のある映画の場合、翻訳者は表面上の会話を追うことで精いっぱいになり、本当のストーリーのことなんか気にしてる余裕はなくなってしまうだろう…

そうして作られた日本語字幕で我々日本人は鑑賞し、それをもとに映画を語る…

表面上だけのストーリーをもとにしてね…

本当は全然違う物語なのに…

『赤ちゃん泥棒』も、そうゆう映画っちゅうことやな。

本当かなあ…

またいつもの、おかえもんの深読みじゃないの?

嘘じゃないよ…

コーエン兄弟も劇中で登場人物に言わせてる…

この映画には「三組の夫婦」が出て来るんだけど、主人公のハイ&エド夫婦以外の二組は「この映画の本当の物語を楽しむためのヒント」を語らせるための存在なんだ…

赤ちゃんを盗まれるアリゾナ夫婦と、コーエン・ファミリーのフランシス・マクドーマンドが奥さんを演じてた夫婦が?

この二組の夫婦をよく観察することで、この映画の本当の物語が見えてくる仕掛けになってるんだ…

特に映画の中盤に突発的に登場するグレン&ドット夫妻は「この映画の楽しみ方」を説明するだけのために存在する。

この夫婦は、この場面以外には名前すらも出て来ない存在なんだけど、非常に重要なことを喋りまくってくれるんだよね…

寒いを通り越して全く意味のわからんジョークを連発しとっただけちゃう?

あれが全てヒントというかトリセツなんだよ…

あの場面でコーエン兄弟は「この映画の楽しみ方」を説明してるんだ…

映画の本編解説を始める前にここを理解しておいたほうがいいから、ちょっと見てみようか…

やっぱり意味がわからん。この夫婦のジョークのどこがオモロイんや?

なんか面白いことを言ってるんだろうな…ってことだけは伝わるけど。

まず、ドットとエドの会話から見ていこう…

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