コーエン兄弟バートンフィンク28a

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖28「ジョークの黙示録~Apocalypse USO」

さて、ロス市警の刑事の尋問が終わり、バートンは部屋に戻った。

前回を未読の方はコチラ!

第27回「カール・ムント」

しかし『バートン・フィンク』が、あの名作『羊たちの沈黙』をあそこまで意識して作られとったとはな。

だよね。僕も発見した時は驚いたよ。

さて、バートンは「オードリーの首」が入った箱をタイプライターの隣に置き、少し考える。

そして執筆を始めた。

なんで急に書けるようになったんだ?

ロビーでの刑事二人との会話で「福音書」を書く準備が全て揃ったんだ。

あのシーンは、イエスの「埋葬」から「復活」までが投影されていたんだね。

最後まで欠けていたピース「復活」のアイデアを得たバートンは、こんな風に書き出した…

「あばずれ女が、埋葬された男の墓を訪れた…」

ハァ!?「埋葬された男」?

「大男」でしょ?

タイプライターで打たれる文字は「The Burlyman(偉大な男)」なんだけど、バートンは口で「The bury man(埋葬された男)」って言っているんだよね。

「埋葬された男」とは、もちろんイエスのことだ。

あのシーンのポイントは、バートンがタイプライターを打ちながら、同時に口頭で文章を語っているところにある。

映画を観ている人に「シナリオ=福音書」であることを気付かせるために、わざわざそうしたんだろうね…

確かにそれまでは無言でタイプライターを打っていたよな…

そして「あばずれ女(young hussy)」とは「マグダラのマリア」のこと。

ここで注目すべきところは「イエスの埋葬室の中」シーンが、四福音書でそれぞれ違った描写になっているということなんだ。

埋葬室の中を覗く女性が「マグダラのマリア」1人だったり、「マグダラのマリア、ヤコブの母マリア、サロメ」の3人だったり、復活を告げるメッセンジャーの天使が1人だったり2人だったり、イエスが姿を現したり現さなかったり…

だけど、埋葬室を覗くのが「マグダラのマリア」1人で、天使が2人登場し、しかもその場にイエスが姿を現すのは、四福音書の中で『ヨハネによる福音書』ただひとつなんだよね。

つまり、シナリオ『The Burlyman』のラスト部分は、『ヨハネによる福音書』のラストが元ネタになているということだ。

ま、マジですか…?

『ヨハネによる福音書』の該当部分を見てみよう。

20:11 しかし、マリヤは墓の外に立って泣いていた。そして泣きながら、身をかがめて墓の中をのぞくと、

20:12 白い衣を着たふたりの御使が、イエスの死体のおかれていた場所に、ひとりは頭の方に、ひとりは足の方に、すわっているのを見た。

20:13 すると、彼らはマリヤに、「女よ、なぜ泣いているのか」と言った。マリヤは彼らに言った、「だれかが、わたしの主を取り去りました。そして、どこに置いたのか、わからないのです」

ふたりの御使?

ひとりは死体の「頭の方」で、もうひとりは「足の方」に座っている…?

これって、あの二人の刑事のことじゃ…

その通り。

この「マグダラのマリアと二人の天使」が、「バートン・フィンクと二人の刑事」になっているんだね。

この後に描かれる、二人の刑事の再登場シーンにも『ヨハネによる福音書』の埋葬室シーンが投影されている。

ドイチェ刑事は「首の入った箱」のそばに立ち、マストリオノッティ刑事は「死体が置かれていた場所(ベッド)」の足の方に座っていた。

そして刑事はバートンに首がどこにあるか尋ね、バートンは「わからない」と言った…

こんな風に『バートン・フィンク』の全シーン全セリフには、聖書の「元ネタ」が必ずあるというわけなんだ。

なるほど…

コーエン兄弟の「やりたかったこと」がよくわかった…

さて、バートンのシナリオに戻ろう。

部屋に入った「young hussy(あばずれ女)」の前に「The bury man(埋葬された男)」が現れる。

これは『ヨハネによる福音書』第20章14節で描かれる、「マグダラのマリア」の前に現れたイエスのことだね…

20:14 そう言って、うしろをふり向くと、そこにイエスが立っておられるのを見た。しかし、それがイエスであることに気がつかなかった。

そして「あばずれ女」は「埋葬された男」に、こう言い放つ…

「あなたが本物の男(real man)だったら、私の頬をぶってみなさいよ!」

これは第15節と17節のパロディだね。

「マグダラのマリア」は、埋葬室に居たイエスが「本物」だとは思わなかった。

20:15 マリヤは、その人が園の番人だと思って言った「もしあなたが、あのかたを移したのでしたら、どこへ置いたのか、どうぞ、おっしゃって下さい。わたしがそのかたを引き取ります」

20:17 イエスは彼女に言われた「わたしにさわってはいけない」

うわあ…

そして「埋葬された男」は「あばずれ女」の頬に平手打ちをし、女の頬に赤く残った手の跡を見ながら、こうつぶやく…

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