コーエン兄弟バートンフィンク27-1

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖27「カール・ムント、またの名をチャーリー・メドウズ」

さて、今回はロス市警の刑事二人とバートンの会話から解説していこう。

前回を未読の方はコチラ!

第26回『アナグラム』

しかし二人の刑事の名前がアナグラムになっとるっちゅうのは驚いたな。

よう気付くわホンマ。FBIの特殊犯罪専門捜査官も真っ青やで。

『羊たちの沈黙』じゃないんだから(笑)

いや、『羊たちの沈黙』なんだよね。

ハァ!?

『バートン・フィンク』は『羊たちの沈黙』を、かなり意識して作られているんだよ。


せやけど、この2つは同じ年の公開やんけ。

どっちも1991年や。同時期に公開された映画を、どないして意識して作れるっちゅうねん。

ちなみにバートンはカンヌを席巻し、ひつチンはアカデミー賞を総ナメした。どっちもこの年を代表する映画や。

バートンの蚊、ひつチンの蛾…

どっちも「虫」がシンボル的に使われているよね。

確かに「顔アップと虫」というポスターは似てるけど、それだけじゃんか!

時期的に考えても偶然だろ!

他にも共通点はあるよ。

性的倒錯者の連続殺人鬼の存在…

女性を狙った犯行がカンザスシティで行われること…

殺人鬼が口に詰める「繭」と、耳に詰める「綿」…

業界では新米の主人公が、マイノリティで深い孤独にあること…

殺人鬼が様々なアドバイスを主人公に与え、二人が奇妙な友情で結ばれること…

そして、言葉遊びやアナグラムが使われていること…

ああ、言われてみれば…

でも同時期の公開だし…

誰も「映画」とは言ってないでしょ?

トマス・ハリスによる小説『羊たちの沈黙』は1988年に発表され、大ベストセラーになった。

前作の『レッド・ドラゴン』も、その前の『ブラック・サンデー』も共に映画化されていたから、当然映画化ということになる。

コーエン兄弟はきっとトマス・ハリスの大ファンで、もしかしたら「俺たちが映画化したい!」って思っていたんじゃないかな…

でもまだ「駆け出し」だったコーエン兄弟には、そんな願望を実現させる力は無かった。その「叶わなかった願望」が『バートン・フィンク』という作品に投影されたんだよ…

宗教画のモチーフが多用される『バートン・フィンク』は、トマス・ハリスの影響に違いない。

『羊たちの沈黙』では「幼な子イエスを抱くマリア」と「仔羊を抱くイエス」のモチーフが使われていたし…

『レッド・ドラゴン』では、ウィリアム・ブレイクの『大いなる赤き竜と日をまとう女』が使われていた…

おかえもんの言うことはいつもすべて憶測だけど…

「コーエン兄弟が羊たちの沈黙を映画化したかった説」は、ちょっと説得力があるかも…

たぶん間違いないよ。

刑事との面会の舞台であるホテルのロビーには、なぜか巨大な観葉植物が置かれていて、それはフラ・アンジェリコ『受胎告知』に描かれる「楽園」の投影だった…

この絵の中の「楽園を追われるアダムとイブ」が「招かれざる二人の刑事」に投影されているんだね。

追い出してる天使がバートンだ。

なるほど…

さて、あのシーンの解説を始めるよ。

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